第480話 これが本当なら、死因は変わるはず。

ソースは文春オンライン


市川 猿之助氏が、ご両親とともに一家心中を起こした事件。ご両親の死因は「向精神薬中毒」ということで報道されていた。ところが、この記事を読むと辻褄が合わなくなる。


<以下引用>

社会部記者が解説する。


「猿之助は、父親の段四郎さん(76)と母親の延子さん(75)が、猿之助が所持していた向精神薬を飲んで自殺したと供述していますが、司法解剖の結果、検出された成分は“フルニトラゼパム”だったといいます。『サイレース』という商品名で知られ、非常に効果が強く、。海外では持ち込みを禁止している国もあります。

 そんな睡眠薬を両親は10錠ほど飲んだようで、2人が意識を失ったあと、猿之助はビニール袋を顔に被せていったそうです。こうした経緯から、警視庁は、両親の自殺行為を手助けしたとして、猿之助を自殺ほう助の疑いで逮捕する方針で捜査を進めています。時期は未定ですが、容疑が固まり次第、踏み切るでしょう」

<引用ここまで>


サイレースを含むベンゾジアゼピン系の薬剤は、が高い薬として知られている。かつて睡眠薬は「バルビツール酸系」の薬が使われていたが、この系統の薬は過量投与で強い呼吸抑制がみられるため、「睡眠薬の過量内服での自殺」によく用いられていた。なので、現時点では「睡眠薬」として用いられているバルビツール酸系薬剤はない。


一方、前述のベンゾジアゼピン系の薬剤は、抗不安薬、睡眠薬としてよく用いられているが、致死量が多く、「誤嚥・窒息」などに注意すれば、相当量を内服しても「ぐっすり眠る」だけ、ということになる。医薬品フォームでサイレースを確認したが、LD50(50%が死に至る量)は、マウスで約1200~1400mg/kg、ラットで約400~450mg/kg程度であった。


流通しているサイレースは1mg錠、2mg錠なので、体重を50kgとすると、マウスの値をもとにすると60g→1mg錠だと6万錠、2mgでも3万錠となる(この量で死亡率50%、ということ)、ラットの値を基にしても20g程度なので、やはり1~2万錠となり、とても内服できる量ではない。本文中に「致死性も高い」と書いてあるが、1万錠飲んで死亡率50%、という薬が「」というのか??


ちなみに解熱剤のアセトアミノフェン、500mg錠があるが、おそらく20錠(10g)内服すれば、はるかに高い確率で劇症肝炎で死に至る()。


記事では、ご両親がそれぞれ10錠程度を内服し、意識を失ったところで猿之助氏がご両親の顔にビニール袋をかぶせた、ということである。これでご両親の命が奪われたとしたら、死因は、「向精神薬中毒」ではなく、「窒息」ではないか?実際問題として、ビニール袋をかぶせなければ、ご両親とも嘔吐などが無ければ、数日で普通に目を覚ましていたはずである。


猿之助氏が「自殺ほう助」の罪に問われたとしても、死因が「向精神薬中毒」か、「窒息」かで、量刑に影響を与えるのではないか?と思わなくもない。


引用した記事の正誤は不明であるが、もし「正しい」としたら、私個人として納得できなかった「なぜ『向精神薬中毒』で死亡したのだろう」という疑問は氷解した。死因は「向精神薬中毒」ではなく、「窒息(あるいはCO2ナルコーシス)」である。おそらくご両親とも、あまり苦しむことなく旅立たれたのだろうとは思う。


今後、どのようになっていくのかは分からないが、私個人としては、私が抱えていた謎が解けて、その点については得心した次第である。

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