第472話 大学病院でもそうだったのか…。

昨日のニュースだったと思うが、神戸大学医学部付属病院で、本来X線撮影を行なう資格のない臨床検査技師がX線撮影を行なっていた、との報道があった。


個人的感想だが、「大学病院でそんなことが起きるのだ」と大変驚いた。


以前にも書いたとおり、私の大学病院の勤務経験は約1カ月のみなので、私が体感したわけではないが、周囲の同級生や後輩で、大学病院勤務の医師に聞くと、彼らは「とてもセクショナリズムが強い」という印象を持っているようであった。話を聞いた私も「セクショナリズムの強い組織だ」という印象を受けた。


これは糖尿病内科の後期研修を受けていた後輩から聞いた話だが、「内科当直」として当直中、脳神経内科病棟から、「ALSの患者さんの呼吸が不安定」との連絡が入ったそうだ。診察に行くと、明らかに人工呼吸器の装着が必要な状態だったそうで、気管内挿管のための物品(もちろん病棟の救急カートにそろっている(はず))を持ってきてほしい、と看護師さんにお願いしたそうだが、「私たちの仕事ではありません」と断られたそうだ。


後輩はナースステーションから救急カートを持っていき、臨床工学技士に人工呼吸器を用意してもらうように依頼。気管内挿管チューブを自分で用意したそうだ。バッグバルブマスク(アンビューバッグ)も酸素配管に自分でつないで、看護師さんを呼んで気管内挿管をしようとしたそうだ。喉頭鏡で喉頭展開し、看護師さんに「挿管チューブください」と言ったところ、「私たちはできません」と言われたそうだ。


いや、袋から挿管チューブを出して、スタイレットを入れて、先端のバルーンが破れていないか確認して、ルブリカントゼリー(滑りをよくするゼリー)をつけて渡してくれ、と後輩が言ったわけではない。それらの準備がすべてできて、目の前に用意されている挿管チューブを、喉頭展開中は目が離せないので、「手渡ししてくれ」と言っただけである。目の前に用意されたものを「取ってください」とお願いされて、「私たちにはできません」ってどういう事やねん、と後輩は怒り心頭であった。それはそうだろう。そのチューブが患者さんの命を救うわけである。後輩は、「この人たち、何のための仕事をしているのだろう」と怒りが収まらなかったらしい。


「話にならない」と後輩は考え、ICU当直に助けを求めたそうだ。その日のICU当直は集中治療部門の教授だったらしい。結局教授の介助で気管内挿管を行ない挿管チューブを固定、人工呼吸器の使用を開始できたらしかった。結局そこに看護師さんは介在しなかった、という事らしい。


こんな話を聞くと、びっくりしてしまう。なんて強い(そして意味のない)セクショナリズムなのだろうか、と。なので、大学病院は多かれ少なかれ、市中病院よりもはるかに高いセクショナリズムを有しているのだろうと思っていた。


X線写真など、画像を撮影する部門は「放射線部門」、血液検査など種々の検体検査や心電図などの生理検査は「臨床検査部門」が担っている。超音波検査については放射線技師、臨床検査技師とも行うことが可能なので、どちらの部門が担当するかは、おそらく病院によって異なるのだろう(おそらく「超音波検査部門」として放射線部門からも、臨床検査部門からも独立した組織なのかもしれない)。


放射線技師と臨床検査技師で重なっているのはおそらく超音波検査だけではないかと思われる(詳細は知らないが)。資格自体が異なり、部門も異なるので、このような「臨床検査技師」が「レントゲン写真を撮影する」という事が「大学病院」で起きること自体が極めて変である。なので、おそらくこのことについては、20年、30年という単位ではなく、もっと昔から行われていたのであろうと推測している。


現実問題としても、クリニックレベルであれば、30年ほど前までは、無資格者の調剤やレントゲン撮影は行われていたのではないか、と思っている。


調剤については、薬剤師の独占業務であるが、医師については「自分の書いた処方箋については、自分で調剤しても良い」となっている。ベテランの看護師さんと、若いころの話をしていると「夜中は看護師が薬を取りに行っていた」という話をよく聞いた。30年~40年ほど前まではクリニックでは院内調剤が主流であったが、各クリニックに薬剤師さんがいたとは思えない。おそらく無資格のスタッフが調剤していたのであろうと推測している。


有床診療所に勤務していたころは、私の当直では、必ず私は、調剤を自分で行なっていた。事務のスタッフは私に「大変助かります」と言ってくれていたので、それを考えれば、言わずもがな、ではあるが。


ただ、専門職に就く人も増え、コンプライアンスも厳しくなっており、そういったことは許されない時代になったのだろうなぁ、と思う次第である。

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