第468話 色々な打算が働いて…。

私の現在勤務している病院は、入院患者さんについては、外来や訪問診療中の方の「急性増悪」による入院よりも、他の急性期病院から、「病状は安定したが、諸般の事情で自宅退院できない」ということで入院される方の方が多い。当院の「病棟の機能」を考えると、それが妥当だと思っている。


また別の話。自院で入院しており、退院、あるいは転院が決まっていた方が、ちょうど移動日当日に発熱したり、ひどく体調を崩されることはしばしばあることである。


今から30年ほど前に「マーフィーの法則」についてまとめた本が一時流行した。「マーフィーの法則」は、「失敗する可能性のあるものは、必ず失敗する」という法則であるが、関連するような法則として、「テーブルの上からトーストを落としたときに、着地するのは必ずバターとジャムをぬった面」とか、「一番起きてほしくないことは、一番起きてほしくないタイミングで起きる」など、結構コミカルな内容の本であった。ちなみに、前述の「トーストの法則」については、アメリカの科学雑誌”Scientific American”(その日本語訳が「日経サイエンス」として発売されていた)に、数学的に証明した論文が掲載されたこともあった。


そんなこともあり、転院、あるいは退院当日の朝回診で、「患者さん、夜中から38度台の発熱です」なんてことを聞くと「あぁ、マーフィーの法則だ~!」と嘆くのが常である。


私の経験則では、転院、あるいは退院当日に発熱や、何らかの医学的トラブルが発生した場合は、退院であればキャンセル、転院であっても、基本的にはキャンセルして、発熱の治療を終えた後に調整をして、退院、とすることがほとんどである。自院よりも高度な病院への転院であっても、キャンセルすることが多かったように記憶している。


ただ、最近、「状態が落ち着いたからこちらで療養」という話で来院されたのに、前医の紹介状と、実際の情報がずいぶん異なっている、という事が時々起きる。「何じゃこれ~!紹介状と全然ちゃうやん(違うじゃないか)!」と思っても、患者さんが行ったり来たりするのは大変なので、こちらで何とか対応できそうなものは、送り返すことはせず、こちらで対応し、地域連携室から文句を言ってもらうようにしている。


昨日、当院に転院となった方。私の担当ではないのだが、転院前日だか、当日だかに発熱。PCRを行ないCOVID-19陽性であったが、「予定通り転院を」という事で急性期病院から当院に転院となっていた。私がその事実を知ったのは、帰宅してから、Dr.用のグループラインに情報が流れてきて初めてそのようなことがあったと知った次第であった。「そんなん無茶苦茶や、おかしいやろ!」という別のDr.の意見も流れてきた。


今朝出勤すると、また別のDr.から、患者さんの転院について、もう少し細かい話を伺うことができた。


確かに急性期病院で、COVID-19を入院中に発症した(院内感染ですな)患者さんが当院に転院してきたのは確かだったそうな。ただ、COVID-19については、扱い上は5類感染症ではあるが、患者さんを入院管理する際に診療報酬に加算がつく、という扱いはまだ当分続くようで、当院側もそろばんをはじき(時代遅れか?)、その加算を取るために転院を許可した、とのことらしかった。


COVID-19は感染力が強いので、医療者側からは、あまり入院してほしくない疾患なのだが、事務方がそろばんをはじいて「入院を取っていただきたい」と判断するならある意味如何ともしがたいだろう。という事が分かった。


なるほど、前述のような、普通の経過ではなく、無理くりにCOVID-19 他院で院内感染の患者さんをわざわざ予定通りの日程で転院させたのはそのせいか、とある程度納得した次第である。

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