第467話 意見は色々おありだとは思うが。

昨日閉幕した広島でのG7サミット、被爆地である「広島」で行われたことに意義があったとニュースでは報道されている。G7の各国首脳が、慰霊碑に献花を行い、資料館を見学し、「核なき世界」の実現に向けた決意を表明するものとなった。このサミットの成果について、立場についていろいろな見方があるなぁ、と、今朝の読売新聞を読んで思った。


被爆者の中でも、「各国の首脳が「原爆の悲惨さ」を知ってくれた、そのことだけでも意味がある」と評価する人もいれば、「広島にまで来て、これだけの内容しか書けないかと思うと残念だ。サミットは失敗だったと思う」と否定的な意見を述べる人もおられた。


日本原水爆被害者団体協議会は記者会見を行ない、核兵器廃絶に向けた実効性のある論議がなかったことに不満を示した、とのことだった。「核兵器を速やかに廃絶してほしいという被爆者の願いに背く内容。核保有国が削減に向けて、どう努力するかくらい示してほしかった」と代表委員の田中氏は記者会見で述べた、とのことだった。


個人的には、この世界情勢の中で、それでもG7が「核なき世界」の実現を求めていく、とメッセージを出したことを評価すべきだと思っている。


核保有国は残念ながら、G7メンバーに限らない。ロシア、中国、北朝鮮、パキスタン、インド、イスラエル、北朝鮮も核兵器を保有している。しかも、ロシアは現時点で「戦術核」の使用をちらつかせているし、北朝鮮も状況次第では核兵器を躊躇なく使用する。中国は「核の先制不使用」を宣言しているが、台湾有事が起これば、どうなるか分かったものではない。


「核」という視点だけでも、そのような状況である。とてもG7が状況を決定できる状態ではない。そして現実問題として、現在の状況はアメリカの基本姿勢である”Balance of Power”で、危ういバランスを取っている状態である。と考えると、下手に状況を動かせないのは容易に理解できよう。何よりも避けなければならないのは、「核兵器が増える」ということではなく、「核兵器を使用される」ということであろう。そして何よりも行なわなければならないのは、「核兵器を無くす」ことではなく、「核兵器を使わなくても済む」世界情勢を作ることであろう。


国家の中には、時に暴走したりして厄介なこともあるが、抑止力としての「警察」などがあるが、国家間には、「強制力を持って国家の在り方を制限する」機構は存在しない。アメリカ合衆国が成立の過程で、「警察力」が不十分であったため、「自分の身は自分で守る」という考え方が浸透し、残念ながらそれが今のアメリカの「銃社会」の基礎となっていることは明確である。


結局のところ現在の核兵器についても、状況は同様である。ウクライナは旧ソビエト連邦を構成する国家の一つで、その時代の核兵器を所有していたが、アメリカ、イギリス、ロシアの説得に応じて核兵器を手放してしまった。もし核兵器を保有し続けていれば、今のようなウクライナ侵攻が起きたのかどうか、容易に想像がつくであろう。


という点で、G7首脳会議で「核のない世界を目指す」と宣言することが現実的に精一杯のことであろうと思う。ということで、「核兵器廃絶への具体的な方針が出されていないから、今回のサミットは失敗」というのは個人的には「極論」だと思っている。


「核兵器を廃絶」というゴールははるかに遠く、一足飛びに辿り着けるものではない。たとえカタツムリのように歩みが遅く見えても、「核なき世界」を我々は目指している、と明確化することは価値のあることだ、と私は思っている。各国首脳が広島の地に集い、慰霊碑に献花し被爆者に弔いの想いを馳せ、資料館で、被害の現実を学び、共有する。それができただけでも立派なものである。原爆投下後、アメリカ大統領が被爆地を訪れるまでに70年以上かかったわけである。それから数年で、G7など各国の首脳が被爆地を訪れることが実現したわけである。それだけでも「評価に値する」と個人的には思っているのだが。


John Lennonの”Imagine”でも”I hope someday you’ll join us.”と歌っているではないか。”soon“や”at once”ではなく、”someday”である。悪い方向にはすぐに進んでいくが、良い方向に進むには時間がかかるのである。あせらず進んでいくことが大切なのだろう、と個人的には思った次第である。

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