第457話 「交流回路」に苦労している長男君と「虚数」の世界

もうすぐ中間試験が待ち構えている長男君。毎日19時前まで学校で自習をして帰ってきている。さすが受験生、気合が違うなぁ、と自分の受験生時代と比較し、立派な奴だと感心している。


夕食を食べながら、少し雑談。彼曰く、物理で、「電磁気学」の中での「交流(大学受験用の物理では、単相交流しか扱わない)が難しい」とのこと。頭の中でイメージができないとのことだ。


確かに、頭の中でイメージがわかないと、理系科目は解けない。私自身も大学に進学後、古典力学におけるラグランジアンや量子力学でのシュレディンガー方程式、式から現象がイメージできず、(とても)^3苦労したことを覚えている。物理学ではなく、生物系の学科を選んでいて本当に良かったと思うほどである。


確かに、コンデンサーやコイルに単相交流を加えると位相が90度進んだり遅れたり、と、訳が分からない。とはいえ、コンデンサーとコイルの組み合わせで共振回路を作ったりするので、大切なところである。


高校物理では三角関数で勝負するので、単相交流回路でも随分とややこしいのだが、大学で、単相交流回路を学ぶときは複素平面で考えると、非常に考えやすくなる。高校数学であれだけ難しかった、コイルとコンデンサ、抵抗を含む交流回路が単純な複素数の足し算になるからである。


虚数iの定義は、i^2=(-1)となる数、なので実数の世界には存在しない。ということで虚数(imaginary number)となっているが、複素平面を考えることで、数の世界は実数の「直線」の世界(小学校からおなじみの数直線)から、複素数の平面へと概念を拡張することができる。


私の大学時代の数学の成績は、夏の水辺周りと同じで、「か」ばかりであったが、複素数とベクトルの共通性であったり、複素平面では「指数関数」は「三角関数」と等価であるなど、振り返ると、さわりだけではあったが、数学の世界の広さと、「全く別のもの」として学習したものが本質的には等価であった、などと天地をひっくり返すような出来事があったりで、「概念」としてのものは大変興味深かったことを覚えている。ただし、問題演習を解いたり、それで「単位」を獲得する、ということとは全く別で、そちらは大変苦労したことを覚えている(臨床医の仕事では、ほとんど四則演算で片が付くので大変助かっている。こんな私でも内科医の末席を汚すことができる所以である)。


中高生たちが「こんな数学を学んで、将来何の役に立つんだ!」とイラついている姿をよく見かけるが、発電所から途切れることなく、一定の周波数で送られてくる電気や、三次元画像で容易に視点を変換できるゲーム、目の前で回っている扇風機なども、その数学の結晶の一つである。


受験生の頭を悩ませる「確率」という数学の分野も始まりは、「賭け事を途中まで進めていたが、途中でやめなければいけなくなった。この時に、かけたお金をどのように分けるのが公平なのか?」という問いかけであった。


多くの人が悩まされる数学だが、私たちの生活はその数学の上に成り立っている。


長男君が悩んでいる交流回路、大学時代に使っていた「電磁気学」の教科書を取っておけば、簡単に説明できたのになぁ、と思ったり、ただそれは「高校物理」の範囲を超えてしまうので「禁じ手」だなぁ、と思ったりする。


数学で「微分・積分」や「複素数・複素平面」を学習するのに、高校物理ではそれらの数学的道具を使えない、というのは本当はおかしな話だと個人的に思っている。というのもこの辺りの分野は「物理学」からの要請で進歩した数学だと思っているので。


まぁ、いずれにせよ、長男君の中間テスト、ぜひとも頑張ってほしいものである。

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