第421話 これはひどいな

ソースはPRESIDENT Online、和田秀樹氏の「80歳の壁」の一部を再編集したもの、とのこと。


今日もバタバタとしていて、終業30分前にようやく一息付けた。医者が忙しいのはいいことだか悪いことだか…。とはいえ、病院は医者が働かないと収益が出ないもの。病院的には私たち医師が忙しいのはいいことなのだろう。


閑話休題。何度か、氏の著書の一部をPRESIDENT Onlineに掲載されているものについて、「それはいかがなものか」とぼやいているが、今日もまた、という感じである。


何だろう。氏は本当に臨床医なのだろうか?と思ってしまう事が多々ある。


今回の記事でもそうである。まずは、「『少し様子を見てみましょう』という医師はNG」というものである。氏はいろいろと書いているが、現実として、「少し様子を見て判断する」という事はそれほど珍しくはない。


例えば花粉症。かなり強めの抗ヒスタミン薬の内服と、抗ヒスタミン点眼、ステロイド点鼻薬をがっつり使って、「まだ症状が続きます」と言われれば、もう「内服ステロイド」くらいしか選択肢がないわけである。もうそろそろピークを過ぎるか?というときには、「現在、薬としては目いっぱい使っていて、さらに追加するとなれば内服のステロイドとなります。もうそろそろ花粉も下火になるころなので、もう少しこのままでいきましょうか?」と説明することは多い。


もう少し厳しい疾患をあげれば、例えば胸部CTで見つかった小さな病変。もしかしたら悪性かもしれないがそうでないかもしれない。組織を採取するにも小さすぎる、という場合には放射線科から「3か月後の再検査」を指示されることは珍しくない。


医師の格言の一つに「時間は名医」というものがある。最初の症状は「訳が分からない」ものでも、数日経過を見れば、特徴的な症状を呈してくることはよくある。なので、最初の時点でいくつか可能性をお話しし、いずれもが「致死的な経過を取る疾患」でなければ、「少し様子を見ましょう」とすることはある。


という点で、「『少し様子を見てみましょう』という医師はNG」というのは正しくないと思われる。


もう一つ、この記事で気にくわなかったのは、「空気清浄機」「加湿器」のことである。


<以下引用>

そして、医院に着いたら、待合室に、空気清浄機や加湿器があるかどうかを確認します。それらは、院内感染を防ぐため、必需品といっていい備品です。

<引用ここまで>


これは全くのでたらめである。「空気清浄機」が「空気感染」あるいは「飛沫感染」を予防する、というエビデンスは存在しない。COVID-19で言えば、換気の方がはるかに重要である。花粉症の季節や建物の構造上、一方通行の空気の流れを作れないような状況であれば、HEPAフィルターを装備した空気清浄機を用いることは助けになるかもしれない、程度のものである。きついことを言えば、空気清浄機は「気休め」に過ぎない。


飛行機に乗った時だったか、新幹線だったか忘れたが、どちらも窓を開けることができないが、アナウンスで「1分間に6回空気が入れ替わるように空気を循環させています」という話を聞いたことがある。実際問題として、それだけの空気を循環、処理しなければおそらく感染予防には役立たないだろう。


私が定期通院しているクリニック、それほど大きくない待合室に市販の空気清浄機が2個置いてあるが、それで「1分間に部屋6個分の空気」を処理しているとは思えない。


「やってます」アピールさえしない病院がいいのか悪いのかは別として、「院内感染を防ぐために必需品と言っていい備品です」なんて、「本当に科学を学んだものなのだろうか?」という思いを禁じ得ない。


ただ、その文章の中に書かれていた、「むろん、清潔で整理整頓が行き届いているか」という事については賛成である。


そのほか、「診察時間内に電話をかけて、その対応を見ろ」とか、医者に何か一つ「クレームをつけて見ろ」などと書くのは、いかがなものか、と思った次第である。

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