第412話 「オオカミ少年」になるのはしょうがない(Jアラート)。

4/13の北朝鮮ミサイル発射に伴い、北海道地域にJアラートが発令されたことについて、与党、野党からもその運用について批判の声をあげている。


当然のことながら、ミサイルが発射されて時間が経つほど、つまり日本に近づくほど、正確な予測は可能である。では、着弾5秒前に「ミサイルが5秒後に落ちてきます」とアナウンスして、いったい何になるのか、考えればわかることである。


逆にミサイルが発射されてすぐにアラートを出せば、ある程度避難するに十分な時間が取れるが、今の時代のミサイル、単純な放物線運動を描くわけではないので、発射直後のミサイルの動きから軌道を正確に予測するのは困難である。発射からごく短時間の場合には、ミサイルの軌道から単純な放物線軌道を予測、とせざるを得ない。仮にその軌道を取った場合に、国土にミサイルが落ちると算定されれば、アラートを出すのは当然のことである。ただ、ミサイルが単純な放物線軌道を取るかどうかは不明なので、当然、アラートを早く出すほど、正確性には欠けてしまう。


そういうわけで、情報の「正確性」と「速達性」はトレードオフの関係になっている、と考えるべきであろう。射程範囲と思われる地域の人々が、ある程度の安全を確保できる時間内にアラートを出すのなら、ある程度の誤差は避けられない。


というようなことは、少なくとも理系の人々、もう少し厳しく言わせてもらえれば、文部省の要求程度の高校生レベルの理系思考力を持っていれば容易に理解できる話である。


与野党の幹部たちが揃いも揃って、「混乱が見られた。国家の安全にかかわる」と苦言を評している、との報道を見てがっくりした。揃いも揃って、理系的素養がない人たちだということが明らかである。


自民党の小野寺元防衛相は「本当に我が国の領土に落ちるような弾道の軌跡だったのかも含め、検討してほしい」と要望した、とのこと。まぁ、これは当然の発言であり、おそらくそんなことは言われなくても行なっているはずであろう。萩生田政調会長は自民党の会合で「混乱が見られた。国家の安全にかかわる」と述べ、改善を要求した、とのこと。それはそうすべきだろうと思うし、ただあまり情報をオープンにしすぎるのも不適切なようにも思われる(手の内を明かすようなものだ)。


立憲民主党の安住淳国対委員長は、別の党会合で「正確性がないと、国民への影響が大きい」と指摘。確実性が低い情報を繰り返せば信用を失って、「オオカミ少年」の状況に陥るとの認識を示した、とのこと。


言わんとすることはわからないではないが、先に述べたように「情報の速達性」と「情報の正確性」はトレードオフ。正確性にこだわるほど、速達性は犠牲にならざるを得ない。何のためのJアラートか?早く避難、対応するためのものだろう。であれば、ある程度の正確性を犠牲にしても、速達性を優先することが大切なのではないだろうか?


日本維新の会 馬場伸幸代表は記者会見で「日本の情報収集能力はまだまだ子供のレベルだ。すべてを点検し、必要なことを前に進めるべきだ」と対策を求めた、とのこと。この意見にはがっくりとした。まともなことを言っているようで、全く学問的素養に乏しいことを明らかにしている。


1発のミサイル発射とその軌道について、すべての情報が把握できるのは着弾した後である。ミサイルが発射された時点で、そのミサイルの飛行経路の情報は「情報収集能力が低くて感知できない」のではなく、「もともとこちらにはわからない」のである。もしロケットの発射前から飛行経路の情報が把握できていたら、なにも困らないわけである。わからないので、これまでの軌道と、現在の軌道の変化率から、おそらく二次関数曲線に近似させるのだろうと思うが、そのようなステップを経て、軌道を予測するのである。「情報を収集できていない」のではなく、「情報はない(正確に言うならば、当方からは情報を事前に得ることはできない)」のである。「情報収集能力をあげる」ことは確かに必要だと思うが、それでJアラートの精度が格段に上がる、あるいはJアラートの精度が低いのは「情報収集能力が低い」からだと解釈するのは誤りだと思っている。


共産党は政府対応に対し「適切な判断だった」と述べたことを批判したそうである。まぁ、この意見はスルーしても良かろう。


ここ数年、これだけ北朝鮮がミサイルをバンバン飛ばし、時には日本列島を越えたところに着弾させているが、Jアラートが警告を発した、というのはそのうちのわずかだろうと記憶している。「これで満足だ」とは言わないが、現実的にはこの程度の誤差は許容の範囲ではないか、と個人的には思っている。繰り返しになるが、「正確性」と「速報性」、トレードオフで、どちらかを優先すれば、どちらかが犠牲になるのである。これはしょうがないことである、という思考をぜひ政治家の人たちにも持ってほしいものだと思う。



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