第409話 「医師」がこんなにでたらめを言うようでは…。

4/7のPRESIDENT Onlineの記事。ネットで見かけたものである。和田秀樹氏(精神科医)と、鳥集 徹氏の対談を記事にしたものであった。


地域のプライマリ・ケア医として、この発言はいかがなものか、と思ったことがあったので、すこしぼやきたいと思う。


<以下引用>

 【和田】おっしゃる通りです。今朝もテレビを見ていて噛みつきたくなったんだけど、室内の温度を18度以上に保たないと死亡リスクが増えるといったことを、たまたまワイドショーでやっていたんです。そこに出てきた先生が、「夏と冬では、だいたい血圧が10くらい違うんですよ」って言うんです。では聞きますけど、夏と冬で薬を変える医者がどれだけいるの。


 【鳥集】あまりいないでしょうね。  


【和田】日本の医者が、いかに真面目に患者を診てないかということなんです。


【鳥集】そうですね。毎回、受診するたびに検査をしているのは、患者さんの状態の変化を見るためですよね。でも、それがあまり活かされていない。


 【和田】たとえば夏場になって血圧が下がってきたら、「じゃあ、薬はちょっと減らそうか」。また冬場になって上がってきたら、「そろそろ増やしてみようか」と言う医者であれば、かなりまともだと思うんです。でも、そんな話はほとんど聞いたことがない。


 【鳥集】検査で基準値を超えていたらとにかく薬で下げて、あとはほったらかしという感じですよね。


 【和田】そうです。言いにくい話だけど、日本はヤブ医者率が9割くらいじゃないかと思ってしまいます。


 【鳥集】高齢者をきちんと診てきた医者ならば、今、和田さんが話したことに賛同すると思うんです。薬漬けはやめよう。患者さんの病状だけでなく、生活状況や価値観まで踏まえて、その人がその人らしく最期まで生きられるようにサポートしよう――。そういう流れに、世の中も医療も向かっているものだと思っていました。ところがこのコロナで、実はぜんぜん違ったんだなと痛感しました。

<引用ここまで>


私が外来で高血圧の管理をしている患者さんには、基本的には全員に、毎日の朝の血圧測定指導を指導し、その測定結果を持参するようお願いしている。朝の血圧を測るタイミング、2回測定し、その平均値を記録することなどをお願いしている。血圧の記録は、薬局でもらえる場合がある「血圧手帳」や、ご自身の手帳、最近ではスマホのアプリに記録してくださっていて、一カ月の平均血圧まで表示してくれることもあり、大変ありがたい。


中には「血圧計持ってません。買うのもお金がかかるので…」とか、「ついついつけるのが面倒で」という方もいるが、私自身が降圧剤を飲んでいるのに、毎日の血圧測定がずさんなので、とてもではないがそんな方にエラそうなことを言えるわけでもない。


「毎日の血圧の推移を見ることは、血圧の治療にとても大切なことなので、よろしくお願いしますね」と笑顔で伝えるようにしている。


さて、多くの方が、ありがたいことにきっちりと血圧を測定くださっており、受診の時に血圧手帳や、スマホの血圧データを見せてくださるが、現実問題として、ほぼすべての方で、日によって血圧が10mmHg程度違うことは普通である。例えば、血圧の平均値をとると、収縮期血圧が120台くらいの方は、手帳を拝見すると、日によって110台の時もあれば、130代の時もある。120台くらいが最頻値ではあるが、上下10mmHg程度の幅があるのが「普通」である。


引用文中に、和田氏の発言で、「そこに出てきた先生が、『夏と冬では、だいたい血圧が10くらい違うんですよ』って言うんです。では聞きますけど、夏と冬で薬を変える医者がどれだけいるの」とある。確かに夏と冬で血圧の平均値に違いが出るのは珍しくはなく、極端に血圧の変化があったり、患者さんの希望があれば、夏季は薬を減らすことをすることもあるが、「夏と冬」の比較どころか、日によって、あるいは一日の中で血圧の増減の幅が20、あるいは30程度あるのが当たり前なのが人間の体である。氏はそのことを知らないのだろうか?


これは私事ではあるが、まだ降圧薬を飲んでいなかった30代、後期研修医時代に一度外来で患者さんと怒鳴り合いをしたことがある。「いつまで待たせるんだ!」と怒鳴る患者さんに「すみませんでした」と心から謝罪したのだが、水掛け論。「仏の顔も三度」というが、何とか10回近くまでは「お待たせしてすみませんでした」と謝罪していたが、とうとう私の堪忍袋の緒が切れた。「確かに10時20分の予約なのに、呼び込みが10時40分になってしまい、すみませんでした。それは謝罪いたします。私がお茶を飲みながら、ちんたらと仕事をしていてお待たせしているのなら、怒っていただいて結構です。では私の机の上を見てください。お茶とかお菓子を置いていますか?ないでしょ! こちらも一生懸命速く、でも見逃しのないように頑張っているのです!あなた、受付番号24番でしょ。医療統計で、一人の患者さんにかかる診察時間は6~7分程度が平均、とされているのです。ならば、あなたの診察時間は診察開始から2時間以上、11時を超えることになりますよね。それを私は10時40分に呼んでるんです。『10時20分』の予約時間の用紙をもらったのに、ということであれば、私にではなく、それを渡した受付で文句を言ってください。私が診察時刻を決める権限はありません。もうこれ以上ヤイヤイと言わないでいただけますか!」とこちらが怒鳴り声をあげてしまった。


そのあと、血の海にならず、スムーズに診察に移れたのは奇跡だと思うが、その患者さんの診察を終え、処方を終えても、こちらの気持ちは収まらない。


診察ブースの構造上、スタッフ用廊下を挟んだ向かい側が外科診察室で、私が診察を終えると同時に外科の先輩Dr.が「まぁまぁ、こういうこともあるさ。落ち着こうぜ。血圧でも測ろう」と私に声をかけてくださり、私の血圧を測定してくださった。その時の私の収縮期血圧は200mmHgをはるかに超えており、先輩と二人、「さすがに怒って、カテコラミン(交感神経が興奮した際に、交感神経末端や副腎から分泌される、血圧上昇などを来す物質)がドバドバ出ていると、血圧上がりますねぇ」と、先輩と二人ですこし笑ったことがあった。


そんなわけで、一日の中で20mmHg程度は血圧の上下を繰り返しているのである。言葉は悪いが、何が「夏と冬で血圧が10違います」だ、そんなことは当たり前のことで、1日の中で見ても、血圧の変動はもっと大きいのが普通なのである。


仮に、冬は収縮期血圧の平均値が130台の方が、夏に「10下がって」平均値が120台になったとして、その人に薬を変更する必要は全くないのである。そしてそのような患者さんがほとんどである。「夏と冬で薬を変えている医師がどれぐらいいるのでしょうか?」なんて、「本当に患者さんを見ている」医者のいうこととは思えない。もちろん、必要があれば調整するし、患者さんが希望し、患者さんの希望に沿っても害は無かろう、と判断すれば、患者さんの希望に沿っている。それこそ、「夏と冬で血圧の薬の調整がいる」なんて机上の空論であり、結局は「患者さんの状態によって血圧の薬の調整がいる」というのが実際である。むしろ、冬季に極端に血圧が上がる患者さんであれば、薬の調整以外に住環境などの確認、ヒートショックへの啓蒙が必要である。自宅内での部屋ごとの温度差はどうか、トイレやお風呂の気温はどうかを確認し、アドバイスをするのがかかりつけ医の仕事である。


で、「夏と冬で薬の調整をしない」医者を指して「日本の医者がいかに患者さんを診ていないか、ということなんです」と結論付けている。私のようなタケノコ医者でもその程度のことは考えて診察している。「日本の医者がいかに患者さんを診ていないか」なんて、よく言えたものである。患者さんがつけている血圧手帳を見ると、日々の血圧変動があるのが当たり前であること、そして「生理学」や「内科」の教科書には24時間の血圧測定グラフが乗っているが、日中にどれだけ激しく血圧が上下しているのか、そのグラフを見れば一目瞭然である。「夏と冬で血圧が10違います」なんてレベルではない。医者が、そのようないい加減なことを言うと、周りが信用するので困るのである!



<以下再引用>

 【鳥集】検査で基準値を超えていたらとにかく薬で下げて、あとはほったらかしという感じですよね。


 【和田】そうです。言いにくい話だけど、日本はヤブ医者率が9割くらいじゃないかと思ってしまいます。

<引用ここまで>


こんなことを言われると、「何が分かっているんだ」と腹が立つ。これは血圧に限る話ではない。継続療養が必要な様々な患者さんに対して、定期的に受診してもらい、体調などを聞き取り、時には気になることの相談に乗ったりして、血圧などのバイタルサインを確認し、定期的に血液検査や検尿、胸部レントゲン写真などで隠れた疾患や、基礎疾患の変化を確認しているわけである。なにが「」だ。失礼千万である(ムカムカ)。


雑誌の記事に一喜一憂していてもしょうがないことではあるが、和田氏は精神科医でもあり、様々な事業家でもあるようである。氏の発言を聞く限り、「臨床の現場」の機微を知っているようには思えないなぁ、と少し腹立たしく思ったりする次第である。

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