第383話  「新聞を読む」ということ。

インターネットの進歩とともに、新聞の発行部数が低下している。そのことに対して、新聞社もいろいろと危機感を持っているようである。しかしながら、私は古い人間なのかもしれないが、「新聞を読む」ということが好きだ。本来なら、朝には朝刊を見ながらゆっくり食事でも、と行きたいところだが、午前6時前に起床して、仏壇に朝のお勤め、リビングでトーストを焼きながら新聞を取りに行き、服を着替える。服を着替えている間に朝刊は長男が読み始め、私には読むものがない。トーストを食べて自宅を出るのがラジオ体操の流れている時間なので、当然のことながら、長男が新聞を奪わなくても、新聞を読んでる余裕はない。


そんなわけで、私は大体夕食後に、その日の朝刊と夕刊を読んでいる。すごいなぁ、と思うところは、毎日毎日、これだけの文章を作成し、印刷し、配布するシステムが出来上がっていることである。各新聞社によって、よって立つスタンスが異なるので、同じ事件でも見方が異なるのも面白いところである。大阪人なので、一応野球は阪神タイガースを応援し、アンチ巨人軍、ではあるのだが、自宅で購読しているのは「読売新聞」である。理由は、妻の実家で購読していたのが読売新聞だったから、である。


日曜日の読売新聞では1面、2面に「地球を読む」というコーナーを設けており、毎週異なる識者が論文ともいえる記事を作成、掲載している。今回は吉川 洋 東大名誉教授が執筆されており、見出しには「成長と物価、日銀の難題」と掲げられていた。内容は興味深く、特に1990年後半から2012年に「異次元の経済政策」を開始するまでの経済の変化とデフレの存在、19世紀後半の英国の繁栄とデフレの関係を論じているところは全く知らないことであり、大変に勉強になった。


氏曰く、1990年代初頭に端を発したバブル崩壊で、株価や地価が下落し、また雇用の問題、格差の拡大などが深刻な問題となった。1990年代末ころには、不良債権問題の対応の遅れから、大手金融機関の破綻なども起こり、そのころから戦後の先進国では例のない「名目賃金の下降」が見られるようになり、消費者物価もデフレ基調に入った。しかしながらこの1990年代末~2012年ころまでのデフレが、本当に「日本経済の低迷」の主因であったか?と氏は考えている。少なくとも2012年、「異次元の金融緩和」が発表された年のデフレ率は0.2%と、世界大恐慌やバブル崩壊後の資産価値デフレと比較すると比べ物にならないほどの穏やかなデフレである、あるいは「物価が安定した圏内にある」と言えるレベルである、と述べていた。氏はここで、19世紀のイギリス経済を取り上げているのだが、この当時、大英帝国の実体経済は絶好調であったが、物価については若干のデフレ基調が続いていたとのことであった。氏は言葉で明確には示していないが、「本当に日本経済の不況はデフレが主因だったのか?」と疑問視しているようであった。


記事はここから、日銀の金融政策に移っていくのだが、少なくとも、インフレ・デフレという視点で見れば、好景気だった19世紀の大英帝国も、不景気で賃金が下がるような時代の日本が、ともに若干のデフレ傾向で推移していた、ということを初めて知った。


ネットで情報を探すと非常に困ったことに、検索している情報が、自分が意図せぬまま、これまでに検索した用語や閲覧したサイトなどの履歴に影響され、バイアスのかかった情報が提示される。そのため、紙媒体としての新聞を読むことでしばしば経験する、このような「思わぬ知見との出会い」は難しくなっている。


本当の意味での「不偏不党な報道」を実践することは、「新聞社」とて人間の集合体なので、実現は不可能であるが、複数の新聞を比較したり、あるいは社説や特集記事などで、「ネットで得られる情報」以上に深い情報を入手できることも少なくはない。


という点で、「新聞を読む」ということは現在においても意味のあることであろうと考え、今も新聞を購読しているわけである。


もちろん、日常生活を営む上で「折り込み広告」が大変有用であることも論を待たないが(笑)。

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