第365話 COVID-19に関する、現在のモヤモヤ

3/13から、マスクの着用義務が解除されることになっている。国がそう決めたのだから、もうヤイヤイというつもりはないが、プライベートでの着用は「自由」となっても、職場での着用については、「職務規定」の中でマスクの装着については制限されることが多いであろうことは容易に想像可能である。実際問題、医療従事者である私は、COVID-19が流行する前から、業務中は特別な理由(ご飯を食べているとき、とか、当直室で寝ているときなど)以外は常にマスクを着用していた。なので、3/13以降も、私はマスクをつけて仕事をする。当然私の対応すべき感染症はCOVID-19に限らない。子供を診なくなったので頻度は減っているが、それでもインフルエンザ、RSV、ヒトメタニューモウイルス、その他の気道感染症を来すウイルス、消化管に感染するウイルス感染症などに対応する必要があるので、「COVID-19についてはマスク着用の義務をなくす」といわれても、恐ろしくて外しようがない(笑)。


今朝のTV番組で、フリーアナウンサーの某氏が、企業側が従業員に対してマスク装着を求めることに対して、「せっかく個人の判断ってなったのに、組織や団体が「従業員側は着けましょう」というのは私は違うなと思う」と発言したそうである。「みんながマスク無し生活に慣れていくっていう方向に進む良いチャンスなのにな」とのことだ。


職場側は、おそらく「利用されるお客さんの不安感を消す」目的で従業員へのマスク装着を続けるのだろうと思うが、それはそれで「企業判断」としてよいのではないか、と個人的には思っている。医療機関内では、職員も、来院された患者さんも、不織布マスクの装着は「必須」だと思ってほしい。「エアロゾル感染」「空気感染」する疾患は「不織布マスク」でも「予防できない」から「つける必要がない」という論調がある。しかしながら、「100%の予防」ができない、ということは正しいが、不織布マスクをつける方が、マスクをしないよりも感染リスクを減らすことも確かである。


感染症はCOVID-19だけではないし、この季節はマスクをすることで花粉症の症状軽減を感じている人もいるわけである。少なくとも私は「マスクをつけない社会」が「よいもの、目指すべきもの」とは思わない。少なくとも不特定多数の人との接触がある接客業の人はマスクをつけておいた方がよかろうと思っている。


日本医師会が「COVID-19の5類感染症への分類変更後も、コロナに対する特例は継続してほしい」とのコメントが出たそうな。一般の方から見れば、「何を言っているんだ」という感想を持つ方が多いと思うが、COVID-19が2類から5類になったところで、医療機関側としては、それで負担が軽減されるわけではない。むしろ、公的な入院調整システムがなくなるなどで、各医療機関への負担は増えるであろう。例えば、「空床保障」についてもそうである。当院は療養型病床であり、他院からのCOVID-19入院患者を受け入れることはないが、自院での発症例、あるいは濃厚感染例に対しては自院で対応する必要がある。いつ患者さんが発生してもおかしくないので、男性用の大部屋(5人部屋)一つ、女性用の大部屋(5人部屋)一つを、常に確保している。当院での個室については4床しかなく、「個室料」を取らない代わりに、個人の「個室希望」を受けず、「死期の極めて近い方」を個室管理としている。あるいは、COVID-19以外の「感染力の強い感染症」(例えばノロウイルスなど)患者さんに個室を使っており、一旦COVID-19が院内で発生すれば、個室管理は不可能である。


病棟に勤務する看護師さんの数は、病床数で規定されており、病床数に応じて所定の看護師さんを確保しなければならない。また、以前も書いたことがあるが、病床の損益分岐点は病床の90%が稼働、というところである。当院は70床弱の病院であるため、COVID-19用の病床を確保しているだけで損益分岐点を下回ってしまう。今、COVID-19 第8波は収束しつつあるが、それでも、先日入院された(私が主治医をしている)患者さん、当院に入院して2日後に、転院元の病院から、「同室患者さんがCOVID-19を発症した」ということで、「濃厚接触者」となってしまった。「濃厚接触者」ということなので、その患者さんは感染が否定されるまでは隔離、スタッフの対応時はPPE装着となった。その患者さんが入院していた当院の同じ病室の方は、週末の時点では「濃厚接触者」の「濃厚接触者」なので隔離の必要はなく、PPEの装着もなし、としているが、これも、濃厚接触者の患者さんが「発症」となれば対応を換えなければならない。


PPEも結構コストがかかるので、もともと損益分岐点を下回っている病棟にさらにコストを掛けなければならない、規定により適切な数の看護師を配置しなければならないので、2類であろうが5類であろうが、COVID-19が存在する限り、少なくとも当院では病棟は不採算部門である。ということで、COVID-19のために患者さんを入れることができない病床に対しては、何らかの公的補助がなければ、経営が成り立たないわけである。


個人経営のクリニックでは、経営者でもある医師が仮にCOVID-19に感染すれば、法定の期間、自宅隔離(あるいは入院)となるため、クリニックを開くことができない。となれば職員に給料を払えなくなるため、現在は医師会が「保険制度」として、休業時の「休業補償」を行なっている。


などなど、2類から5類に変更しても、必要とされる助成は存在し続けるので、その内容の再評価は必要であっても「助成」そのものは必要である。


などなど、まだまだ悩みの種は尽きないものである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る