第336話 「労働生産性」からの卒業

出勤時に聞いていた朝のNHK総合ラジオの「マイ!Biz」のコーナー。今日は法政大学教授の水野和夫氏が、「日本の労働生産性」について取り上げていた。


日本の労働生産性が低いことは、よく話題に挙げられる。今日は一人当たりGDP/一人当たりの年間労働時間で議論していたが、ドイツ、フランス、イギリスと比較しても日本は一人当たり年間GDPが最も低く、労働時間は最も長いため、当然のことながら、労働生産性は最も日本が低くなる。氏はまず、低い労働生産性の一つとして、「GDP増加につながらない労働」が日本の労働で大きい、と指摘していた。日本の官僚組織、そして、官僚組織の組織運営に影響を受けた大企業などでよく起こる問題として、「使わない資料の作成」を挙げていた。


官僚組織では「国会などで『この問題が議論になるかもしれないから、資料を作ってほしい』と大臣から言われ、時間をかけて資料を作成するが、会議では俎上にも上がらず、使った時間だけが無駄になった」という事が多いとのこと。まず、そのような「GDP向上」とは無関係な「無駄な仕事」を減らすことが労働生産性の向上につながる、と話していた。それはその通りである。


そして、氏は、「労働生産性」という指標は「経済成長」を議論する上で必要なものであるが、現在の日本については「人口減」のフェーズに入っており、「経済成長」を期待できない社会である、と論じておられた。「経済成長」のゴールは何か?という事についても触れられていて、「必要とするものが、ほぼいつでも手に入る状態」を「ゴール」と論じておられた。


確かに経済成長のゴールがそこならば、現在の日本の社会は、ほぼ「ゴール」に近いものとなっている。国内経済の成長、という事なら、新たなニーズを生み出すイノベーションが起きなければ難しい。


「経済成長のゴール」という点で、経済学者の「ミル」の言葉をひいて、ゴールに至った社会で目指すものは「資本家に集中した富の分配」によって、貧富の差を縮小し、個人それぞれが「自身の幸せ」を追求していくことのできる状態をつくること、と述べていた。確かにそのとおりである。


「経済成長のゴール」にたどり着いた社会で、その恩恵を受けられない理由は「貧困」であり、貧困の理由の大きな理由の一つが「富の集中」である。労働者に適切な賃金を支払う事で、多くの人の生活環境が改善し、「経済成長のゴール」を実感できる社会になるだろう、というのが氏の本日の論説であった。10分ちょっとのコーナーなので、内容としてはこの程度の分量となる。


子供のころを振り返っても、日本の社会は「より良いもの」を「より安く」が美徳とされてきたように思われる。今は吸収合併されてしまった電器量販店のTVCM、小学生のころ流れていたものだが、まさしく「より良い品を、より安く」をモットーとしていた。今はH2Oリテイリングに吸収されてしまった某スーパーマーケット、子供時代には店内で「ええもん(いい物という意味の関西弁)高いのは当たり前~♪ええもん安いのは○○〇〇~♪」と音楽が流れていた。バブルの時期には不良品も高く売っていたが、バブルがはじけた後は、日本全体として、ものすごい圧力で「いい物」を「安く」という事をねじ込んできたと思っている。


複雑な工業製品であれば、それを安く売るために泣くのは、小売店と下請け企業である。例えばある品質を備えた部品を、とある工場では3人で一日2400個作っていたとすると、部品の労働生産性とすれば2400個/(3人×8時間)であるが、仮に納入先から部品の単価を30円→20円に引き下げ、となれば、部品を基準とした労働生産性は変わらないはずだが、金額ベースで考えると労働生産性は2/3に低下してしまう。


最終生産物を作っている企業も、これまで以上の機能を付けたものを、以前のものより安価にしてしまえば、販売数が同じならやはり労働生産性は低下してしまう。


小売店も、定価が(納入価+納入価の10%)となっていたものが、定価が(納入価+納入価の5%)となってしまえば、小売店も同じ数だけの売れ行きならば、労働生産性は低下するわけである。


デフレスパイラルは結局、このような価格低下に付随した労働生産性の低下(仕事が減ったわけではなく、お金だけの問題)+企業の内部留保分の上昇で給料が減少し、また購買能力が下がるため物を安くするために無理をする、という事の繰り返しであったのだろう。結局この悪いスパイラルを脱するには、内部留保の一部を給料に回し、労働者の賃金を増やすことで、「良いもの」を「より安く」という圧を減らすことが必要なのだろうと思う。


国際競争力、という点での日本を見ると、また違った話になると思われるが、国内向けに商売をしているところでは、そのように考えるべきだろうと思った。

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