第335話 COVID-19の次はこれか…。

東京都で、梅毒が急速に広まっているとの理由で、3月より都内に4か所、無料検査所が設置されることになったとのニュースを見た。


梅毒は、性行為だけでなく、キスなど、粘膜同士の接触でも感染する疾患である。私の個人的なイメージではあるが、「『3』の感染症」と記憶している。感染から3週間前後で第1期梅毒の特徴である「感染部位の硬性下疳(硬いしこりや潰瘍)の出現」、それはいったん治癒するが、その後約3か月前後で第2期梅毒の特徴である「バラ疹」など、トレポネーマが全身に広がった状態となる。この皮疹も自然に消退し、3年後辺りから「晩期梅毒」と呼ばれる症状が出現する、と記憶している。


梅毒のルーツについては諸説あるが、もともと梅毒はアメリカ大陸土着の風土病で、コロンブスがアメリカ大陸に到着した際にヨーロッパに持ち帰ったもの、というのが有力な説となっている。コロンブスがアメリカ大陸に到着したのが1492年、日本で最初の梅毒患者として記録に残っているのが、お公家さんで、1512年とのこと。記録に残らないところでおそらくもう少し早く日本にやってきたのであろうと推測すると、地域間、あるいは大陸間の往来が現在と比べて圧倒的に少なかったであろう頃に、20年ほどで世界を席巻したわけである。飛沫感染や空気感染をするわけではなく、粘膜同士の直接接触で感染する疾患なので、その拡散の速度を考えると、表には見えない性的接触ネットワークの広さにただただ驚くばかりである(そして、それが「人間」というものでもある)。


厚生労働省で、梅毒感染者数の分布を見ていると、極めて不自然な分布をしているのがわかる。


男性の感染者数は20歳代から40歳代まで高率、50代も20~40代の感染者数の6割程度と比較的広い年齢層に分布しているのだが、女性については20代が突出して多く、次に多い30代の感染者数の4倍近くになっている。また、10代については男性の感染者数よりも女性の感染者数が上回っている。つまり、10代、20代の若年層は女性の感染者数が男性よりも高く、30代以降は極端に女性感染者数が減少し、男性の感染者数が増加、しかも、20代~40代の男性感染者数はほぼ一定であることがわかる。


女性の性的活動性についてはよくわからないが、男性については、個人的感想も含まれるが、「性的欲求」については10代後半から20代前半はいわゆる「疾風怒濤期」と称されるほどリビドーの塊となるが、20代中盤以降は「欲求」という点ではある意味一定の欲求を保ち続けているように思われる。「性的欲求」そのものはおそらく高齢になってもそれほど減弱はしないだろうと思っているが、40代あたりから、いわゆる「身体がついてこない」状態になる人が増えるので、「性的活動性」についてはそのころから低下が始まるだろうと思われる。この個人的推測と、梅毒感染者数の年齢分布を見ると、私個人として「体感」していることとほぼ一致しているように思われる。


女性は男性よりも個人差が大きく、また「倫理的な縛り」も男性よりも強い印象があり(これは男女平等、という点では問題であるが)、妊娠、出産、授乳など女性特有のイベントもあるため、一概にはいえないものの、20代だけが突出して「性的欲求」あるいは「性的活動性」が高く、30代になると急速に衰える、というものでもないだろう。


と考えると、10代~20代女性の感染者数を極端に引き上げる何らかの要因があるはずである。厚生労働省や地方自治体などでは、その要因として、性産業やいわゆる「パパ活」と呼ばれるものが影響しているのでは、と推測している。若年女子をターゲットとして性的アクションを起こすことで、20代女性の感染者を増やすのと同時に、感染した20代女性が性的活動性の高い男性を感染させる、という悪循環が回っているのであろうと推測される。


やっていることは、個人間交渉による売買春行為であるにもかかわらず、「援助交際」→「パパ活」と表現がどんどんマイルドになってきているのは厄介なところである。


いずれにせよ、梅毒は経胎盤感染を起こし、先天性梅毒を引き起こしたり、感染者の寿命を明らかに縮める、命にかかわる疾患でもある。治療法も確立しており、適切に診断をつけ、治療を行なうことが大切であるのは確かである。


そういう点で、無料検査所が開設されたのも大切なことであるし、「町のお医者さん」である私たちにとっても、意識改革が重要だと改めて認識するニュースであった。

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