第265話 Human is mortal.(人は必ず死ぬものだ)

COVID-19第7波のように大きく騒がれてはいないが、COVID-19第8波は確実に来ており、第7波のピークを超える新規患者発生数となり、1日の死亡者数も過去最高となった。


臨床で実感として感じられるのは、ほとんどが軽症だが、時に若年者でも重症化すること、高齢者でも、体力や食欲が激減する人もいれば、ケロッとしている人もいること。当院では抗ウイルス薬として「ラゲブリオ」を採用しているが、「ラゲブリオ」を飲めるほどの元気があれば、COVID-19で命を落とすことはほとんどないこと。抗ウイルス薬を含め、薬や食事が取れなくなった人は、COVID-19療養期間を過ぎても衰弱した状態は改善せず、結局命を落としてしまうことである。


「時に若年者でも重症化する」ので、感染者の母数が増えれば必然的に重症者が増える。積極的にCOVID-19治療を行なっているクリニックの医師は、「今亡くなられている人は、重症者ではなく、中等症の高齢者が、COVID-19感染を契機に衰弱して亡くなられていることが多い」とのことだったが、私の実感も同様である。


上記の発言はネット上のものだったのだが、そこについていたコメントの一つが気になった。曰く、

「COVID-19の重症化を防ぐために、高齢者に力を入れてワクチン接種しているのに、どうして高齢者がCOVID-19で亡くなるのでしょうか?」とのこと。

いい着眼点だと思った。


現在日本での死因の第一位は「がん、悪性腫瘍」である。しかも年々死亡者数は増加傾向にある。たくさんの研究者が世界中でがん治療を研究し、当然その成果は臨床現場に反映されているにもかかわらず、である。それほどたくさんの患者さんが、しかも年々死亡者数が増加しているわけであるから、「がん」の治療が実験室で証明されたほど効果がないものなのだろうか?


もちろんそんな訳はなくて、この10年のデータを見ても、年齢の差を較正した年齢調整死亡率、年齢調整5年生存率はほとんどのがんで明らかに改善しているのである。実際にがんの治療は進歩しているのである。ではなぜ、がんで死亡する人は年々増えてきているのだろうか?


答えは簡単で、年々高齢者が増えてきているからである。年をとればとるほど、がんによる死亡率も増加すれば、心疾患や脳血管疾患などでの死亡率も増加する。ということで、「がんで亡くなる人が増えた」ととらえるよりも、「高齢者が増えたため死亡者数が増加し、たまたまその中でがんの人が多かった」ということである。


高齢者のCOVID-19死亡者数も同じ話である。「高齢になればなるほど、ちょっとした疾患で命を落とすことが多くなり、たまたまそのきっかけがCOVID-19だった」ということである。


年をとればとるほど、その年齢での死亡率は高くなっていく。今はそこにCOVID-19が乗っかっているので、COVID-19で亡くなる高齢者が多く見えるわけである。年をとればとるほど、人は亡くなっていくのである。


COVID-19が存在しなかったころも、治療薬が確立していたにもかかわらず、高齢者はインフルエンザで命を落としていた。そのパターンも、今のCOVID-19と同様であった。ごく一部はインフルエンザウイルスに伴う肺炎で、一部はインフルエンザ感染で弱った肺胞や気管支の粘膜に細菌感染を起こした気管支肺炎で、また一部は、インフルエンザ感染を契機に飲食ができなくなって亡くなっていた。


Human is mortal.


人はいずれ死ぬ存在なのである。

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