第252話 「身体に悪い」とわかっていても

冬場は、虚血性心疾患や脳血管障害の増える季節である。多くの日本家屋が抱える問題として、浴室、脱衣所、トイレが居室内と比べてとても寒い、ということが挙げられる。「ヒートショック」という言葉も大分知名度が上がってきた。


私の身体的な健康問題として、BMI 30以上の肥満が挙げられるのだが、年齢とともに減量は難しくなる。運動しようとしても若いころに比べて運動耐用能も低下しており、いきなり激しい運動には耐えられない。減量しようとすると下手に食事を抜いたりすると脂肪よりも筋肉量が低下するため、却って身体が動かなくなってしまう。そんなわけで、食事のバランスを考えつつ食事量を減らしている。


それ以外には、現時点ではお酒も飲まず、タバコも吸わずであまり身体に悪いことをしていないつもりであるが、ただ一つ、「身体に悪い」とわかっていてもやめられないのが「入浴方法」である。


ヒートショックを避ける注意事項の一つに「お風呂の湯温は41℃以下が望ましい」とされているが、この寒い時期、「熱いお風呂につかること」がやめられない。


冬が来て寒くなっても、我が家は暖房をあまり点けない。これは、私と妻の育ってきた環境による。どちらも裕福ではない家に育ったので、冬の暖房は基本的に「こたつ」だけである。そんなわけで、家の中は基本的には「寒い」のである。リビングにこたつを置いており、そこに家族4人がほとんどの時間集まっているので、それなりに温かいのだが、患者さんに「ヒートショック」の注意をしているにもかかわらず、浴室、脱衣所、トイレは寒く、主に私の寝室ともなっている仏間も寒い。昨日は読経をしていると吐く息が白くなっていた。それはさておき、自宅が寒いので、身体を温めるためにも冬は熱いお湯につかるのが好きである。


COVID-19が流行する前は、銭湯に行くのも好きだった。新しい建物、古い建物関係なく、熱いお湯と、冷たい掛け水があればそれで満足である。


入浴時には、先に頭の先から足の先までしっかり洗って、身体をきれいにしてからお湯につかるようにしている。一応我が家のお風呂は42度に湯温を設定してあるが、それではちとぬるい。多分湯温としては43度くらいなのだろうと思うが、追い炊きをしてもう少しお湯を熱くして入っている。7~8分浸かっているだろうか?足先まで身体が十分に温まったら、お湯から上がり、冷水を浴びるのが好きだ。


ただ、やみくもに冷水を浴びるのはやはり危険である。まず足先から大腿までゆっくりと水を掛けていく。そのあとは手の指先から肩まで両方水を掛ける。そしてその次が個人的には大切だと思っているが、顔に冷たい水を掛ける。


顔に冷たい水を掛けると、迷走神経(副交感神経)が刺激され、血圧は下がり、心拍数も下がることが知られており、これを「潜水反射」という。小さな子供が、真冬の池でおぼれてしまい、救出に20分ほどかかったが、心肺蘇生術を行ない、後遺症を残さず元気に退院した、という場合には、この「潜水反射」が働いて、身体の活動にブレーキをかけ、細胞の酸素消費量を抑えたことが理由だと考えられている。


そんなわけで、顔に冷たい水を掛けると、水を掛けてのぼせてきたような感覚がまさしくクールダウンし、そしてそのあとで体幹に水を掛けて、体を冷やしておしまい、としている。


こうすると、一つは、身体を拭いても汗が出ないので、すぐに拭き終わり、さっぱりするのと同時に、温まった体の体表の血管が収縮しているため、ポカポカ感が結構持続するのである。


医学生時代の一人暮らしの時は、これを使って光熱費を浮かせていた。アルバイトから帰ってきて、夕食を済ませると、熱めのお湯でお風呂に入り、身体をポカポカにした状態でお風呂から上がり、そのまま布団に入り、寝落ちするまで布団の中で勉強をしていた。そうすると、室内は吐く息が白いほど寒いが、暖房にお金をかけることなく過ごすことができ、光熱費の節約になるわけである。


ただ、このような入浴の仕方、ヒートショックを起こしやすい、一番悪いお風呂の入り方である。ただ、入浴後のスッキリ感とポカポカ感には代えがたく、どうしてもやめられない。


皆さんは決してこのような入浴の仕方をしてはならない!と注意を喚起しておくこととする。

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