第217話 「ガタイがいい」のも困りものだなぁ

私が大学生のころ、バブルの雰囲気を残すころ、モテる男性の要素として「3高」ということが言われていた。いわゆる、高身長、高学歴、高収入を兼ね備えた人のことである。学歴は悪くはないものの、貧乏学生で、挙句に身長も平均より10cm程度低い私は、「無理だな」と絶望したことを覚えている。以前に書いたように、おそらく下腿が他の人より短いのだろう。全身を写した写真を見ると、明らかにひざ下が短い。言ってしまえば、「短足」ということでもある。見た目勝負でも勝ち目がなかった。友人の一人は180cmの身長があり、立った状態で話をすると明らかに見上げる形になるのに、帰りの電車でシートに座るとピッタリ目線が合うこともあった。


実生活でも「背が低い」というのは不利益が多い。まず、高いところに手が届かない。身長が高い人は手も長いので、170cmの人なら余裕で手の届くところにあるものも、椅子を持ってこなければならない。いちいち手間である。


幸いなことにそのようなトラブルになったことはないが、殴り合いになれば明らかに勝ち目がない。私の手の届かないところから相手のパンチがやってくるわけである。それだけではなく、戦いの時には明らかに体格の小さいほうが不利である。


若いころはバイクに乗るのが好きだったが、背が低いと乗れないバイクが出てくる。先ほどとは別の友人。「アフリカツイン」というでかいバイクに乗っていた。一度跨がせてもらったが、サイドスタンドを立てて、バイクが傾いた状態でも、両足が地面につかない。つま先を延ばしても、地面には届かず、足はブランブランとしていた。免許があってもこれでは物理的理由で公道では危なくて乗れない。そんなわけで、バイクを選ぶときに「足つき」を常に考えなければならないことも不便であった。


閑話休題。うちの病院に入院される方は、あらかじめ紹介元の病院と日程を調整し、原則予定入院となっている。そのため、各医師の交代制で、紹介を受けた患者さんの紹介状、看護サマリーなどを確認し、当院で受け入れ可能かどうかを判断している。当院は内科の病院で、その他の診療科については非常勤の医師が対応となっているのだが、時にとんでもない紹介状が混じっているので、確認が欠かせない。


とある私の担当日、確認すべき紹介状を確認していた。その中のお一人、70代後半の男性、もともと脳血管障害で片麻痺があり、何とか杖歩行ができていたそうだが、COVID-19に感染、重症化して長期臥床状態となり、ベッドから起きられなくなったとのこと。リハビリ目的で受け入れをお願いしたい、との紹介状だった。最近はよくある紹介パターンである。ところが、この方、大きな問題があった。いわゆる「ガタイの大きい人」だったのである。身長は190cm越え、体重も98kgとのことだった。


病院の介護ベッド、180cmのベッドが多く、まずベッドから足がはみ出してしまう。それに、当院のリハビリスタッフは女性の方が多く、男性のセラピストもそこまでガタイがいいわけではない。看護師さんや介護士さんもほとんどが女性であり、この体格の方をお世話するのは極めて困難である。大変心苦しいと思ったが、「この方、一つは体が大きすぎて、リハビリも、看護もスタッフにかなりの負荷をかけること、もう一つは、当院入院中に行えるリハビリ量を考えると、目標とするADL確保には不足だと思います。この方は受け入れ不可としてください」と連携室のスタッフに伝えた。


医局に帰って、この方のBMIを計算してみる。BMIは27程度であり、「肥満」ではあるが「治療を要する肥満」ではない。身長から考えると、それほど悪くない体重なのである。少なくともBMIは私の方が高い。多分この方、BMIは同じ値で、身長が私くらいなら受け入れ可能、となっていたであろう。


自分自身は背が低いことをコンプレックスとして感じているが、この方のように体格のよすぎる方もやはり苦労するのだなぁ、と思った次第である。

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