第132話 お茶を濁すことはしない方が良い(バイアスかかりまくり)。

数年前に日本プライマリ・ケア連合学会の総会に出席した際、「性教育」に関するセッションがあり、参加させてもらった。臨床の現場、そして講演を依頼された学校現場で若い人たちに「正しい性の認識、性行為の意味、妊娠するという事、避妊することの意味」を積極的に教育されている産婦人科の先生の講演だった。もちろんこのテーマは医学の世界にとどまらず、「社会的存在」として生きている人間が当然理解しておくべき「必須事項」であり、いくつかの「クリニカル・パール」とともに心に残っている講演だった。

その中で先生は、「性教育」を行う上で最も大きな抵抗勢力は「公教育」である、と喝破されていた。


今日のネットニュースでも、おそらくその講義をされた先生とは別の方だが、性教育に精力的に取り組まれている産婦人科の医師のインタビュー記事が載っていた。

先生のご意見も、「学校の規定」が「性教育」を萎縮させ、不十分なものにしている、とのことだった。


国が決めた学習指導要領に、小学生の理科では「人の受精にかかわる過程は取り扱わないこととする」、中学校の保健体育では「妊娠の経過は取り扱わないこととする」という規定が1998年に盛り込まれ、それ以降、それに逸脱する内容を教えようとすると「学習指導要領を逸脱しており、極めて不適切」と激しい批判を浴びるようになったそうだ。


具体的な「避妊」については高校生から学ぶ、とのことだが、それでは遅い、というのが、プライマリ・ケア連合学会総会でも今回の記事でもいわれていることであり、私自身もそう思っている。


出生数が100万人を下回り、「少子化問題」をどうするか、と盛んに議論されている(本来なら、30年前、第二次ベビーブーマーが就職氷河期にあたり、就職、結婚ができなくなっていた時に手当てすべき問題だったと個人的には思っているが)昨今、年間に約15万件の人工妊娠中絶が行われている、という事を真剣に考えるべきだと思う。また、しばしばニュースになる、赤ちゃんを育てられなくて、殺めてしまう事件、こういったものも考慮しなければならない。


初めての性交体験年齢が若年化の傾向をたどっており、中学生が10%近くを占めるときに、なぜ、小学校、中学校でしっかりと性教育をしないのか、なぜ学習指導要領を策定している文部科学省が及び腰なのか、全くもって理解できない。


「みんなが正しい知識を持って」なんてことにはならないのはわかっているが、「正しい知識を持っている」人の割合が増えれば、多少なりとも、不幸な事件が減るではないか、と思っている。


僻み根性丸出しでいうと、イケメンはいつでもモテる。中学生~高校生前半くらいは悪いヤツが結構モテる。スポーツのできるやつもモテる。勉強ができても、スポーツができなければ、なかなかモテ期は来ない(私?)。


中学生~高校生くらいは、男性は多量に分泌されるテストステロンのために「一部性欲に支配されかかった状態」となる(個人的な感想で、医学的に証明されたわけではないが)。なので、その前に、子宮頸がんワクチンを(個人的には男性にも)接種すべきであり、自分勝手な男性に振り回されないように、女性もしっかりと知識を身に着ける必要があると思っている(私は男性だが、先に述べたような中学生~高校生でモテる悪いヤツ、自分の欲望に忠実で自分勝手な人間が「正しい知識」を記憶しているわけがないとおもっている(あくまで個人的な意見です))。もし、「性にまつわる様々なこと」を正しく理解していれば、「妊娠がわかった途端に男性に逃げられ、周りのサポートも得られないままに出産してしまう女性」がこんなにも問題になるわけがなく、人工妊娠中絶もこれほど多くはないと思っている。


閑話休題、モテない男の代表みたいな私の愚痴がかなり紛れ込んでしまった。大変失礼。


学習指導要領は法律と一緒で「最低限のライン」を定めたものではないか、と思っている(大学時代、法学の授業で「法律は最低限の道徳」という言葉を聞いたことを覚えている)。現実問題、中学入試のための塾で行なわれている授業を聞けば、「学習指導要領を逸脱している」と叩くことのバカらしさがよくわかる(確かに学習指導要領の範囲ではあるが、出題の発想も、解法の発想も小学校の学習指導要領の枠を超えている)。


私の心の支えとなっている言葉の中に「知は悲しみである」という言葉と、「知は力なり」という言葉がある。十分に理解できる能力があるのであれば、早く知ることは早く力を得ることである。


適切な時期に、実践的な性教育を、と考え、多くの医師、特に産婦人科の医師は活動されている。私もそれを応援したいと思っている。


余談ではあるが、ちょっとしたクリニカルパール。妊娠検査薬は説明書に、前回の月経から、と月経周期が安定している人に基づいて記載されているが、月経不順の方も多い。特に中学生頃は不安定な人が多い。妊娠のメカニズムから逆算すると「あ、このセックスは妊娠したかも」と思った場合、そのセックスから2週間たてば、妊娠が成立していれば市販の検査薬でも陽性が出る、という知識は、心に留めていて損はないと思っている。

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