第130話 あれっ?あまり受けなかった?

長男坊は高校2年生。勉強も頑張っているが、それ以上に課外活動に頑張っていて、今まさに青春を謳歌しているようである。彼は男子校に通っているので、「周りに女性がいない」ことを悲しんでいるが、それはそれとして、彼の翼を思い切り広げて、今を楽しんでいる。


将来の進路はうっすらとではあるが、医師になりたいようである。ある日、妻と長男、私とでカラオケの話をしていた時に、ちょうど私が彼のころ、強く心を揺さぶられた曲があったことを思い出した。


私が高校2年生だか、3年生だかの夏休みのこと。大阪の万博記念公園でさだ まさし氏の野外コンサートが開催された。もちろん私も、私の友人たちもそんなにお金はなく、コンサートのチケットは買えない。ところが有難いことに野外コンサートである。さだ まさし氏の姿は見れなくても、会場の外にいれば音楽は聞こえてくるのである(ラッキー!!)。そんなわけで友人たち(何人で行ったのかはもう忘れてしまったが)と、自転車を飛ばして万博公園に出かけた。どのあたりで聞いていたのかも、もう忘れてしまったが、「雨上がり」や「案山子」、「防人の歌」などを聞いていたように記憶している。その中で、私を身震いさせるほど感動させてくれた曲が「風に立つライオン」だった。子供のころから医師になりたかったけど、医学部に合格できるほど熱心に勉強したわけでもなく、何となく宙ぶらりんだったあの頃、薄明りの中で聞いたこの曲で私は動けなくなるほど心を動かされた。


医者になるきっかけとなったマンガなら、「ブラック・ジャック」か「スーパードクターK」だった私たちの世代だが、医者になるきっかけとなった曲を調べれば、たぶんこの曲が1位を取っただろうと思う。


私が医学生のころ、この曲のモデルとなったDr.は宮崎県で開業なさっていると聞いた。同級生の何名かがそのころの話を伺いに、先生のもとを訪ねた、と聞いている。そしてそのメンバーの一人は、初期研修終了後、外科に所属し、懸命に1年間、後期研修で修業を積み、研修医の身でありながら、アフリカの医療支援に携わっていた。


いまでも、この曲を聞くと私の心が震える。なので、医師を目指している長男坊にも聞いてもらいたい曲だ、と思い、Youtubeで聞かせてみた。


反応は「ふ~ん」と一言。横で聞いていた妻も「ふ~ん、なんか歌詞の意味がよくわからない」とのことだった。父、がっくりorz。


アフリカに行かなくても、この仕事をしていれば、人について、神様について考えてしまう。故郷で見た桜ではなく、学生時代にあの人と見た桜を思い出す、その想いもよくわかる。私を恨んではいなかったことが本当にうれしいことだ、という気持ちも痛いほどよくわかる。私は、私の信じた道を進むこと。本当に愛している人だからこそ、「ありがとう、さようなら」と言えること、いつこの曲を聴いても、私の胸にグサグサと刺さるのだが・・・。


私が身震いするほど感動した曲、長男坊には伝わらなかったようだ。残念。まあ良い。


もし、彼が医師になったとして、患者さんと誠実に向かい合い、生きること、死ぬこと、医学の限界、科学の限界を感じ、「人について、神様について」考えるようになった時、もう一度この曲を聴けば、わかることがあるのかもしれない、と思っている。

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