第99話 現場を見て指示を出してほしい。
COVID-19ワクチンで、新たにオミクロン株にも対応するワクチンが開発され、日本でも接種が始まることとなった。効果などについては、積極的に評価しない報告もあるが、ある程度は有効性はあるものだろうと勝手ながら思っている。
それはさておき、本日の朝刊で、「厚生労働省はこの新型ワクチンを、年内に対象者全員に接種することを決定した」との記事が載っていた。今日の医局会でも、新型ワクチンについての当院の割当量が決定し、接種をしていくように、と保健所から話があった、との報告を聞いた。
COVID-19ワクチン以外にも様々な種類のワクチンが流通しているが、小児に使うようなワクチンの多くは、すでに注射器の中にワクチンが詰められていて、針をつけて余分な空気を抜けば接種可能、となっているタイプである。なので、基本的には種類の間違いや接種量の間違いはほとんど起きない。しかしながら、インフルエンザワクチンの多くと、COVID-19ワクチンは、ガラス瓶に複数人分が入っている。インフルエンザワクチンはガラス瓶から人数分を注射器で吸い、COVID-19ワクチンについては、定められた量の生理食塩水でワクチンを溶解し、その後でワクチンを人数分吸わなければならない。このように、ワクチンの用意にかかる手間が増えるほど、ミスは起こりやすくなる。
そして例年、10月からインフルエンザワクチンの予防接種が始まるのである。インフルエンザワクチンも10月から年内に接種を行ない、同時に新型のCOVID-19ワクチンの接種もしなければならない、となると現場は大混乱である。
新聞報道では、インフルエンザワクチンと新型ワクチンの同時接種は可能、と書いてあったが、これは、二つのワクチンを混ぜて接種する、ということではなく、別々の場所にそれぞれのワクチンを接種する、ということである。
例年、インフルエンザワクチンは透明、COVID-19ワクチンはやや白濁した印象ではあるもののパッと目には区別がつかない。日本脳炎ワクチンやおたふくかぜワクチンは溶解液が青紫なので目立つのだが、両方ともパッと目には区別がつきにくいのもミスの原因となりうる。
そんなわけで、当初は当院では、10月に入るとCOVID-19ワクチンの接種を停止し、インフルエンザワクチンの接種に力を入れる予定であった。それがミスを減らす有効な手段だと考えたからである。院内にインフルエンザワクチンだけがあれば、COVID-19ワクチンと取り違えることはないわけである。
そう考えていたところに、厚生労働省からの「お触書」が出たわけなので、少なくとも当院では大混乱である。当院では午前中は一般外来や専門外来で診察室が埋まっているため、ワクチン外来は午後の設定である。しかしながら、午後は午後で、専門外来が設定されており、院内で行なうことが定められている会議も午後に設定されており、ワクチン外来に割くことのできる医師は1名が限界(常勤医4人で、実働は3名というのが実際)、外来の看護師さんも他の専門外来があるため、1名が限界であり、この2人で、何十人の人のワクチン調整、ワクチン接種を行なうと、おそらくどこかでミスが起きるであろう。”To Err is Human.”という言葉があるように、人は必ず間違えるものである。なので、間違えない、あるいは間違えようがないようにシステムを作ることが重要である。
当院に限らず、どこの病院も人手不足の中で仕事をしている。10月からインフルエンザワクチンが開始のため、もうすでにワクチンの体制、人の振り分けを済ませている病院は多いだろう。この時期にいきなりそのような大事な決定をするものではないと思う。
申し訳ないが、日本の医療を統括する厚生労働省なのである。通達を出す前に、現場を見てほしい。一つの通達で、医療従事者が引っ掻き回されるのである。本当に困ったことである。
少なくとも、これまでの当院での10月以降のワクチン体制は白紙になった。どのようにインフルエンザワクチンの接種、COVID-19ワクチンの接種、そして同時接種希望者にどのように対応するかは全く白紙である。安全を担保しながら少なくとも2種類のワクチンを同時に扱うのは結構難しいと思う。
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