第23話 犯罪行為はやめてよ

頭の痛くなる事件が2つ報道された。一つは、学校医をしていた小児科医が、健診の児童の下着姿を盗撮していた事件、もう一つは、美容外科医が、職員を食事に誘い、記憶を失わせている間に、自宅に連れ込んだ、という事件である。どちらも、「医師の倫理観」にかかわる事件であり、医業を生業としている私にとっては、到底許容しがたいものである。


いや、何も「聖人君子たれ」というつもりは全くない。「医療の現場や、医師だけが処方できる薬を使って犯罪行為を行なうのは、医師全体の信用を失うからやめてくれ」という事である。


最初の「盗撮」の医者については、2点問題がある。一つは「小児性愛」の問題、もう一点は「診察の時に服は脱ぐべきか」という点である。


性的志向性については、LGBTQと同じように、本人の力、あるいは何らかの薬で改善するものではないのは明白である。という点で、「小児性愛」の志向性を持つことそのものが「犯罪」ではない、というのは明確にしておきたい点である。本題からはそれてしまうが、いわゆる「児童ポルノ」の問題で、「マンガなどの創作物」まで規制するのはいかがなものか、と個人的には思っている。当然「実写物」は犯罪であることは論を待たないが、「創作物」が、性的犯罪を助長する、という科学的根拠がない限り、創作物の規制は「表現の自由」を侵すものではないか、と思われる。さらには性的志向に起因する差別でもあると思われる。LGBTQの人たちが、自らの性的欲求を合法的に満たせることができるのであれば、「犯罪」とならない範囲で「小児性愛者」が何らかの形でその性的欲求を満たすことも彼らの権利であろう。創作物が明確に小児性犯罪を増やすという科学的根拠に乏しいこと、「表現の自由」を制限するに足る明確な理由が存在しないことなどを考えると「創作物」まで「違法」とするのは極論にすぎるのではないか、小児性愛者に対する差別ではないか、と思われる。どこまでが「犯罪」でどこまでが「合法」なのかはもっと真剣に議論すべき問題だと個人的には考えている。


閑話休題。それはそれとして、「盗撮」はやはり「犯罪」と言わざるを得ない。おそらく、「子供が好き(性的な意味だけでなく)」」で小児科医を選んだ人だと信じたい。ただ、自らの欲望のために、犯罪のラインを越えてしまったのは極めて残念であり、医療全体に対する不信感を強めてしまった、という点でも、「法律上」だけでなく、「倫理的に」罪であると思う。本当に「何やってんだ!」と言いたくなる。


さて、2点目の「健診、聴診の時に服を脱ぐべきかどうか」という事については極めて難しい。前述の事件の報道について、ネットでの意見を見てみると「聴診みたいな意味のないことはやめて、心電図などだけを健診としてすればよい」という意見も散見したが、残念ながら、それは間違いである。不整脈以外の心疾患については、心電図よりも「問診+聴診所見」の方が感度、特異度とも高い。「聴診が意味がない」なんて私から言わせれば「暴言」以外の何物でもない。


この20年ほどで、超音波検査の技術は長足の進歩を遂げているが、驚くべきことに、心疾患の解剖症例で、心エコーが容易にできる時代の正診率を100とすると、心エコーがない時代の正診率は80を超えるほどと、心エコーのない時代でもほとんどそん色のないほどの正診率である。もちろん、そのような診断力のある人の聴診能力は極めて高く、まさしく「職人芸」とでもいうほどである。


医学部6年次に、1か月間、地域の頼れる病院、というスタンスの病院の小児科で研修を受けさせてもらった。本当に良い研修を受けさせてもらい、感謝しきれないが、研修中にこのような出来事があった。


生後7日のbaby、近くの産科より「babyの心音の2音(ローマ数字が出ないので申し訳ない)がおかしい」とのことで、小児科部長(小児循環器内科医)に患者さんが受診された。部長先生は「あの先生が『おかしい』というんだから、たぶんおかしいと思うよ」と言いながらbabyの心音を聴診、「うん、やっぱりおかしいね。この音だと、たぶん外科手術も視野に入れる必要があるから、大学病院に紹介するよ。先生も聞いてみて」と私におっしゃられた。もちろん聴いてみるが、経験値の全くないような医学生では到底わからない。本当の職人の世界を垣間見た気がしたことを覚えている。自分の聴診能力がどの程度なのかはわからないが、実際問題として「聴診」一発で診断がつくことは珍しくない。胸部聴診については循環器内科的にも、呼吸器内科的にも、今でも非常に重要な診察手技である。


というわけで、「聴診」という事を考えると、もちろん脱衣してくださるに越したことはない。「虐待」あるいは「DV」という視点で考えると、普段目にしないところに傷があることが多いので、そういう点でも脱衣してもらうのは意味があると思う。


その一方で女性にとっては恥ずかしいのも事実だと思う。男性だとどうなんだろう?私のようなおっさん世代は、子供のころからプールは上半身裸だったので、上半身を脱衣するのに抵抗のない人は多いようには思うのだが。


私の診察の時は、患者さんの動きを見て、それに合わせることが多い。「胸部の聴診をさせてください」と伝えて、しっかり服をあげてくれる人は、それに合わせて、全く上げてくれない人では、さすがに服が分厚くなると何も聞こえず、衣擦れの音しか聞こえないので、「すいません、聴診器を入れさせてください」といって、キャミソールの上から聴診、という事が多い。前胸部の聴診では心音の聴診が中心になるが、聴診部位で大切な場所の一つ、心尖部は左胸の乳頭の下方あたりになるので、大きな乳房をお持ちの女性では聴診のために、聴診器で胸を持ち上げないといけないことも多い。「すいません」と声をかけるが、必要とはいえ、こちらも気を遣う。


アメリカの一般内科外来では、診察時には診察用の薄手の服に着替えてもらって、それで診察することが多い。アメリカのクリニックは基本的に予約制で、患者さん一人当たり、初診40分、再診20分の時間を取っているのでできることなのだろう。健診の現場では、実際問題として、体操服を着てもらって診察、が妥当なのかもしれない。


さて、後者の方は、「医師である前に、人としてどうよ?」というのが実感である。議論のしようもない。


ただ、不思議なのは、薬、何を使えばそのような状態になるのだろうか?という事である。私自身は、一度燃え尽きた後、複数の薬を使って日常の生活を送っており、夕食後には心の薬(もちろん催眠作用あり)を4種類飲んでいて、薬が効いてくると眠気でフラフラになるのだが、記憶が飛ぶことはない。逆行性健忘をきたすのであれば、やはりベンゾジアゼピン系の薬なのか、とも思うのだが、それなりの量を飲まないとそうはならないと思うのだが?味がおかしい、と気づかないのだろうか?あるいは合法的ではない薬を使っているのだろうか?


私の疑問は横に置いておいて、本当に「人としてどうよ?」と思う事件である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る