第14話 政見放送

参議院選挙が近づき、好んでラジオのNHK第一放送を聞いている私は、今日からたくさんの政見放送を聞いている。各政党の政策を聞いていると面白い(いろいろな意味で)のだが、これについては選挙期間中であり、内容については触れないようにしたい。


ただ、これについてはどんなものか?と思うことがいくつかある。例えばCOVID-19の国内での流行について「安倍 自公政権の責任である!」と言い切っている政党が複数あったが、「それ、本当?」と思ってしまう。感染力が強く、無症状の時点で感染力のある疾患を国内に持ち込ませない、ということは誰が政治を行なっても不可能である。江戸時代の「鎖国」の時代であっても長崎の出島などで外国との交流があったわけであり、江戸時代の「鎖国」以上の鎖国を行なわなければ(いや、仮にそれを行なったとしても)不可能であろう。言うてることがめちゃめちゃやなぁ、と感じてしまった。もちろん振り返ると、取っていた政策に不備があることは否めないが、私たちの診察業務と同じで、「正解が分からない状態」で、その場その場で短時間で方向性を決めなければならないのである。物品も少ない、ウイルスの性質もわからない、でも事前に用意されている感染症病棟数よりはるかに多数の患者さんが発生していれば、その時点で常に正解を選択することはできないだろうと思う。そう考えると、なぜ「安倍 自公政権の責任である!」と断言できるのだろう?誰がしても、仮に「あなた方が政権を取っていた」としても結果は一緒だったのでは?と思ってしまった。


あと、この30年間の日本の国力低下についても触れている党が多い。これも「安倍政権が~」と言っている党があるが、この30年の国力低下は30年前に決まっていたのである。ちょうどバブルが崩壊し、その処理、そして就職氷河期をリアルに見てきたのが私たちの世代(アラフィフ)である。高校時代のバブル期に「地上げ」と言って、いわゆる駅前の一等地に「古くから(鉄道がひかれる前から)」住んでいる人たちを嫌がらせや脅しで押しのけ、そこに高いビルを建てるようなことをするのが問題化していた。このようなことが行われていることを見ていて、そのような建設会社やそこにお金を突っ込んでいる銀行に対して「こんなことをして、続くわけがない」と思っていた。「いつか罰が当たるだろう」と思っていた。バブルがはじけて、それに突っ込んでいたお金が不良債権化し、銀行自身は国からの資金注入を受けながら、その一方で技術力のある健全経営をしていた中小企業から「貸しはがし」として、運転資金まで引き上げ、技術力のある中小企業がバタバタと倒産していく姿を見ていて、大学生ながら「これで日本はダメになる」と心から思ったことを強く覚えている。旧帝国大学の工学系の学科に当時所属していたが、周りの就職希望の友人がほとんど就職が決まらず、やむなく就職留年をしたり、大学院進学をしたりしたことを覚えている。結局、今の日本の現状を作ったのは、その当時の会社経営陣である。今では「リストラ」という言葉は「解雇」を意味する、と多くの人が思っているが、本当は“re-structuring”は、企業体の構造を再構築し、収益力を取り戻すことを意味しており、人員整理はその「最終手段」である。

人を解雇すると、一時的には人件費が削減され、企業の収支は好転する。しかし、新しい何かを始めるためには、やはり優秀な「人」が必要である。そのような人は必ずしも現状の企業形態で「とびぬけた」業績を残しているわけではないのであろう。働きアリの観察から得られた法則だが、「20-60-20の法則(正式な名前は忘れた)」が知られている。働きアリを観察すると、20%のアリは一生懸命働き、60%はある程度働き、ちょっと遊び、20%は主に遊んでいて、あまり仕事をしない、というものである。そして、あまり仕事をしない20%を取り除いても、残りの80%がまた、20-60-20と別れてしまうこと、そして、巣や一族に危機的な事象が起きたときに、いい仕事をするのは、普段は仕事をしない20%の働きアリだそうである。ハチでも同様だそうだ。おそらく人間の世界でもそうなのだろう。


結局「リストラ」の名前のもとに人を解雇した企業は、自分の企業の「未来」を切り捨ててそれと引き換えに目の前の利益を手に入れたに過ぎない。当時の経営者たちの多くが「その程度」の経営者であったのであろう。


「貸し剥がし」で、技術力のある安定した中小企業を犠牲にした銀行なども同じ穴のムジナである。


そういう意味で、30年前に勝負は決まっていたこと、あとは小泉内閣時代に派遣社員法を改悪したこと、がより事態の悪化に効いているのであろうと思っている。

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