第13話 もう訳が分からない

世の中には、いろいろと訳の分からないことが多いが(それゆえ「娑婆世界」というのか?)、情報源がネットニュースではあるが、またもや訳の分からないことが起きているようである。


反COVID-19ワクチン派の人たちの記事であるが、反ワクチン派の人たちの中では、COVID-19ワクチンの「解毒剤」として「二酸化塩素」を用いるとの記事が出ていた。二酸化塩素は、殺菌作用、漂白作用などのある物質であるが、化学的に不安定な存在であり、「二酸化塩素」を利用する場合は、化学的に安定な亜塩素酸の塩から発生した二酸化塩素を速やかに利用するようにして使われている。


記事では、「解毒剤」として「二酸化塩素」を使うために、亜塩素酸ナトリウム水溶液(「二酸化塩素水溶液」として販売されている)をクエン酸溶液と一緒に希釈して継続して内服している、とのことだが、亜塩素酸ナトリウム水溶液のLD50(50%の実験動物が命を落とす濃度、毒性の指標として用いられる)は105~177mg/kgと結構低い。亜塩素酸そのものがEU分類で「酸化剤」「腐食性」「猛毒」「環境への悪影響」を有する物質とされている。


亜塩素酸より酸素分子が一つ少ない(酸化力の低い)次亜塩素酸ナトリウム水溶液はみなさんご存知の「ハイター」である。ハイターのマウスに対するLD50は5800mg/kgと50倍近く安全性が高いが、だからと言ってハイターを薄めて飲もうとは思わないだろう。


私がとても不思議に思うのは、仮にCOVID-19ワクチンに毒性があると仮定して(あくまで仮定です。私自身は3回のワクチン接種を受けており、それとは別に、診察中、COVID-19罹患患者さんの飛沫を思い切り顔に浴びてしまい、COVID-19治療マニュアルに記載されている通り、暴露から2.5日目にCOVID-19を発症しました。SARS-CoV2ウイルスとCOVID-19という疾患の存在、またワクチンの効果については能書き通りであることを信じています)、何故それを解毒するのが「二酸化塩素」だとわかったのか、その経緯、根拠をぜひ知りたいと思う。


私は自身の職場でのコロナワクチン外来を担当しており、相当数の患者さんにファイザー製のワクチンを接種してきた。もちろん接種した方の多くが当院にかかりつけの患者さんである。しかしながら、ワクチン接種直後や数日後に出現した漠然とした体調不良(もちろん有名な、接種部位の腫脹疼痛や数日続く高熱は頻繁に耳にするが)、また、ワクチン接種を受けられた方の急死などは聞いたことがない。このことはワクチンの安全性を担保するわけではないが、とりわけ危険なもの、というわけでもないことを示しているのだろう。


一方で、「二酸化塩素水溶液」として発売されている亜塩素酸ナトリウム水溶液のLD50は105~177mg/kgと実証されている。であるのに何故そのようなものを飲もうとするのか、理解に苦しむ。


「世界の人は陰謀に踊らされている」と思って善意から行動している人は、その「陰謀論」に踊らされているのかもしれない、と思っている。

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