第4話 職場健診

私の勤務先では、5月に職員健診を行なっている。今年の健診では、私はある意図をもって、昼食後30分の時点で健診を受けた。


糖尿病はⅠ型糖尿病とⅡ型糖尿病に分けられる。Ⅰ型糖尿病は、ウイルス感染などを契機に自分の免疫システムが、自分の体内でインスリンを分泌している膵臓のβ細胞を攻撃、破壊するために体内でのインスリン産生ができなくなることで発症する疾患である。発症と生活習慣や年齢とは関連がなく、若くてスマートな人でも発症することがある。時に劇症型の発症をすることがあり、血糖値が800以上の高血糖、糖尿病性ケトアシドーシスに伴う意識障害や全身状態の悪化で多くの場合救急搬送となるが、長期間の高血糖を意味するHbA1cは6台とほぼ正常値を保っている。研修医時代に数例、劇症型I型糖尿病による糖尿病性ケトアシドーシスをERで初期評価したことがある。Ⅰ型糖尿病については現在のところ遺伝的要因はないと考えられている。


Ⅰ型糖尿病の患者さんは少なく、一般的に糖尿病と言えば、Ⅱ型糖尿病の患者さんの方が圧倒的に多い。明確に遺伝子を同定されているMODYのようなⅡ型糖尿病もあるが、多くのⅡ型糖尿病では、生活習慣や、体形の問題(これも生活習慣と密接に関係しているが)で、膵臓からはインスリンが分泌されているが、インスリンに対する身体の反応が落ちている(インスリン抵抗性)や、インスリンが過剰に分泌され続けることでβ細胞が疲弊化し、インスリン分泌能が低下し、糖尿病を発症する、というタイプのものである。前述のMODYのように特定の遺伝子が同定されているものもあるが、多くの場合は複数の遺伝子が関与しているようである。しかしながら、Ⅱ型糖尿病はやはり遺伝的要素があり、血族にⅡ型糖尿病を有する人がいる場合は、自分がⅡ型糖尿病に罹患するリスクも高いのである。


そして残念なことに、私の父方の家系は糖尿病家系なのである。私の知る範囲でも、祖父、実父、叔父もそうだったような気もする。そして、私の弟も糖尿病である。ということで、私は糖尿病になりやすい血を引いている可能性が高いのである。


TVで本木雅弘さんや高橋克実さんが出演している、「血糖値を上げにくくするお茶」のCMがあるが、実はあのCMには大きな嘘がある。前述の俳優さんが、若い某隊員の血管内にいる、という設定なのだが、その某隊員が食事をとった後、血管内で「血糖値が急上昇」と叫んで逃げ回り、最後に、若い某隊員がそのお茶を飲んで「大丈夫」となるストーリーなのだが、健康な人であれば、食事をとっても、末梢静脈血の血糖値は100前後で微動だにしない。もちろん、腸管と肝臓を結ぶ門脈は血糖値が急上昇するが、膵臓で分泌されたインスリンが肝臓に作用し、門脈内の様々な栄養を肝臓が吸収するため、血糖値は動かないのである。


軽度の糖尿病を診断するための検査に、75g-OGTT(75g経口ブドウ糖負荷耐容試験)というものがある。もともとは、空腹時に血糖値の採血を行ない、その後、75gのブドウ糖を内服し(最近は75gブドウ糖が入ったサイダーが販売されており、それをゴクゴクと飲み干すことが多い)、30分、60分、90分、120分後の血糖値を測る、という検査である。実際は血糖値だけでなく、血中インスリン値も測定することがほとんどである。ブドウ糖負荷前で血糖値が126mg/dl以上、もしくはブドウ糖負荷後、血糖値が200mgを超えれば糖尿病を強く示唆する結果と判断される。


私も医学生時代、実習で75g-OGTTを受けたことがある。その時の班員4人全員、血糖値とインスリン値を測定した。私一人が他のメンバーより8歳年上で、小太りの体形だったが、全員が、糖負荷をかけても血糖値は微動だにせず(とは言いすぎか?)インスリン値は30分~60分あたりに鋭いピークを作っていた。そんなわけで、あのCMは正しくない。


脱線してしまった。私の意図は、食後30分の血糖値がどうなっているのかを見たかったのである。これが高めになっていたら本気で糖尿病を心配しなければならない。もちろん、約2か月の血糖コントロールを反映するHbA1cも健診で測定するので、治療が必要な糖尿病かどうかははっきりするが、HbA1cが基準値内でも、安心はできないことを反映しているのである。


そんなわけで、健診結果を待っていたが、先日返却された。食後30分の血糖値は102,HbA1cは5.7と少し気にしなければならないレベルだが、深刻な食後高血糖はなさそうだ。


ひとまずはほっとしたが、やはり健康のことを考えるとダイエットは必要だろう。現在のBMIは32、これを27くらいに持っていこうとすると10kg近く痩せなければならない。運動嫌いの私だが、筋肉を落とすことなく、体重を10kg減らすこと。これがしばらくの間の私の健康目標である。

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