第2話 真相はCMのあとで

「うん。家族が駆け付けたおかげか、元気を取り戻して、回復なさったそうだよ。それで山多はこのときのサンタを、幸運のサンタだと思っている」

「よかった……」

「……」

「……あ。サンタクロースの話だったんだわ。ごめんなさい、ほっとしたらつい」

「いいよいいよ。そもそも、こちらの話がちょうど終わったタイミングだったから、話の腰を折ったことにはならないんじゃないかな」

「うふふ、お気遣いをどーも。お礼も兼ねて、真剣に考えてみるわ。この話、きちんとした正解はあるの?」

「ないよ。想像だけ。僕が想像して考えた、それなりに納得が行くんじゃないかなっていう構図がある。ひとまずそれを正解ということにして、考えるだけ考えてみてほしいんだ」

「うーん。難しいわね。いえ、難しいというのは正確じゃないか。想像で補わなくちゃいけない部分が多過ぎる気がするの。聞いている間にも考え始めてはいたから、いくつか仮説はあるんだけれども」

「いいじゃないか仮説。聞かせて」

「全然まとまってないし、どのくらい当たっているかも分からないのよ」

「テストじゃないんだから、その辺は気にせずに。気楽に行こう。さあ」

「じゃあ……真っ先に思い浮かべたのは、おもちゃ屋さんか何かのお店が配達していたんじゃないかって。クリスマスプレゼントをサンタさんの格好をした人が直接お家に届けてくれるサービスね」

「やっぱり、そういう風に考える?」

「ええ、一番しっくり来るわ。あ、そのサンタクロースはヘルメットを被っていたの? 被ってたら、一目でサンタとは分からないような気がするし、被ってなかったら法律違反に問われて、お店としてまずい気が」

「フルフェイスじゃないタイプのヘルメットを被っていたそうだよ。大きなスイカを真っ二つにして、中をくりぬいたのを被ったみたいな。サンタの出で立ちには全然邪魔にならないから、白い口髭がいっぱいあるのが分かったって」

「ヘルメットをしていたのなら、あのいかにもサンタクロースの衣装って感じのアイテム、赤い三角帽子は被っていなかったのよね」

「ああ、そうなるね。交通ルールを気にしているようだから、ついでに言うと、そのサンタは両手で運転していた」

「両手って当たり前じゃあ? 両手運転が一体何を意味しているというのよ」

「サンタクロースと聞いて、プレゼントの詰まった白くて大きな袋を肩に担いでいるところを想像しなかった? もし仮にそういう格好だとしたら、袋の口を握る必要があるから、両手か少なくとも片手が塞がっていることになるでしょ、って意味」

「あ、そういうこと。うん、想像した。でも両手で運転していたのなら、そのサンタさんは、袋を持ってなかった……」

「そこが違うんだ。白くて大きな袋がちゃんと背中にあった。追い抜いていったバイクが見えなくなるまで、ずっと目で追っていたというから確かだよ」

「どうやって持っていたのかしら? 身体か荷台にくくりつけていた?」

「いや、荷台は空っぽだったらしい。身体にもくくりつけていた様子はなく、むしろ、袋が背中に張り付いている感じだったと。その印象から想像すると、袋は多分、サンタの上着に縫いつけてあったんじゃないかな」

「そうね……でも、それだと困る。プレゼント配達という考え方が成り立たなくなっちゃうわ」

「おっ、気が付いたみたいだね」

「うん。考えてみたら、プレゼントを配達するのなら、ワゴンみたいな車で運ぶのが普通と思う。バイクでもできなくはないだろうけど、それでも品物をきちんとケースに収めて、荷台に設置するのがお店としてあるべき姿、なすべき仕事という気がする。それなのに、山多さんが目撃したサンタクロースは、空荷だった。一歩譲って、袋に入れていたとしても、背中に貼り付いたようないい加減な感じだと、プレゼントの箱がひしゃげて傷む恐れが高いわ」

「僕も同感。そもそも、袋を降ろせないんじゃあ、配達したときに袋からプレゼントを出すという動作ができない。これはクリスマスの配達サービスとして、画竜点睛を欠くというやつだよ」

「えっと、でも、袋は膨らんでいたのよね。何か運んでいたのは間違いない、のかしら?」

「そうとも言い切れないと思うよ。バイクは猛スピードで走っていたんだから、前方から強い風を受けたのと同じと見ていい。袋の中に風が多少入り込んで膨らんでしまったために、いかにも中に物が入っているように見えたのかもしれない」

「そっか。……じゃあ、とても焦って、急いでいたのね、その人」

「ん?」

「袋が風を受けたら、走りにくいでしょ。一旦停車してでも、衣装から袋を外そうとするものじゃない? それをしなかったのは、とにかく気が急いていたから。それにプラスして、袋がしっかり縫い付けてあったのかもしれないけれど」

「理にかなっている。袋を外した方が走りやすく、スピードが出ると分かっていても、停車して袋を外す時間が惜しいというのは、心理的にあり得る。相当に焦っているね」

「配達説が消えた段階で、配達指定時刻に遅れるというのもないんだから、他の理由があった……。何かを追い掛けていたとか」

「追い掛けていたのなら、山多一家もそれを見掛けていたはず。実際にはそういうことはなかったそうだよ」

「となると、逆にサンタクロースの方が何かから逃げていた、追い掛けられていたという線も……」

「ああ、ないことになるね。もし追跡者がいたのなら、山多家の人達に目撃されたに違いないんだから。そもそも、何かを追い掛けるにしても何かに追い掛けられるにしても、サンタの格好をする理由にはならないんじゃないかな」

「そうよねぇ。十二月二十四日にサンタクロースの格好をする理由……配達じゃなく、お店の宣伝のみという考え方はだめ?」

「宣伝の効果に疑問あり、だね。そんな山道ではなく町中を走るべきだし、スピードを出す必要もない。むしろ反対に、なるべくゆっくりと走って、道行く人達に見てもらわなくちゃ、宣伝の意味が薄くなってしまう」


 つづく

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