蝶の味

蝶の味

作者 冷めたかるぼ

https://kakuyomu.jp/works/16816927863202008509


 十歳の誕生日の儀式で蝶を食べる山野美羽はまずさに倒れ吐き、まともには生きていけなくなるホラー。


 ミステリアスで不気味。

 短い中で怪しげな雰囲気を感じる。

 手慣れた感じがする。


 一種のホラー作品である。

 三人称神視点と十歳の山野美羽視点で書かれた文体。彼女の自分語りで実況中継をしている体験談。蝶に関する描写と、食べたあと苦しむ主人公の様子はよく書けている。

 

 女性神話の中心軌道に似た書き方をしている。

 近所のお姉さんは美味しかったといっていたが、いとこのお兄ちゃんはまずかったといっていて、まずかったら人生も酷いことになると不安に思いながら、十歳の誕生日に帳を食べる儀式に出席する主人公。

 同じく誕生日を迎えるクラスメイトや祖父母も来て、家族に囲まれながら儀式を受ける。

 町長の息子「蝶に魅入られた青年」と呼ばれる儀式の補佐をする青年が帳を選び、調理し、クラスメイトと主人公に料理を運ぶ。

 主人公は、美味しくなさそうな見た目の蝶を食べるが、耐えられなくなり椅子から落ち、吐き出してしまう。

 主人公の耳元に儀式の補佐をしていた青年が「大丈夫だよ、キミは奇麗な蝶になれるさ」と囁かれて意識を失う。


 恐いミステリーがホラーであり、ラストは主人公が生きるか死ぬかが用意されている。本作は後者だ。

 料理された蝶の様子、食感の描写が主で、それ以外の描写は少ない。このバランスの良さが、蝶を際立たせている。


 なぜ十歳で蝶を食べるのだろう。

 近所のお姉さんやいとこも食べたとある。まずかったといとこは答えているが、どちらも生還しているということだ。

 親は蝶を食べたのだろうか。

 この風習はいつからあるのか。

 誕生日をおなじように迎えたクラスメイトには「ハンバーグに乗った、蝶の奇麗な、それでいて派手すぎない色」の豪華な食事に対し、なぜ主人公には「地味で貧相。どう見たって、美味しくなさそうな見た目」のおひたしのような料理だったのか。

 倒れたあと、母親の「この子はどうなってしまうんですか⁉」の問いに青年は「大丈夫です、蝶の加護を受ければ……」と答えている。

 ということは、クラスメイトは蝶の加護を受けていたのかもしれない。

 たとえば、クラスメイトはこの町(あるいは村)の生まれで、親もそのまた親も地元出身者。対して主人公の家族は他所から移り住んできたのかもしれない。

 あるいは、これまでにいっぱい捕まえてきたのかも。

 そのへんの理由はわからない。


 日本では古来より、蝶は幸運を運んでくれる縁起のよい生き物として、迷信化されてきた。

 優れていることを意味する「長」、整っていること意味する「丁」と発音が同じことが理由の一つとされる。

 蛹から羽化する蝶の成長過程は「変化」や「飛躍」を意味し、昔の人々には不思議な能力を持った生き物に映ったと言われている。


 食べる風習は、長寿や発展、成長祈願を願ってかもしれない。

 

 ではなぜ、主人公は食べることができなかったのか。

 あえて理由にするなら、「だってわたしは、今まで普通だったのに」という点だ。普通だったから、食べられないのだ。

 普通、蝶なんて食べない。

 この固定観念の考え方が、受け付けなかったのかもしれない。

 主人公の彼女は、変化や成長を望んでいなかったのだ。

 いつまでも子供でいたい、みたいな。

 だとすると、クラスメイトの子や他の人達は変化や成長を望む「普通」となる。

 あるいは、食べられる彼女彼らは、カマキリなどの捕食者なのかもしれない。


「大丈夫だよ、キミは奇麗な蝶になれるさ」

 とうことは、主人公はこのあと蝶になってしまうのだろうか。

 ひょっとすると、そうやって食べることができなかった子どもたちが蝶になり、儀式で料理されるのかもしれない。

 意識を失ったあとの一文「きっともうまともに生きてはいけないのだろう」から想像できる。

 

 蝶の見た目の綺麗さと不気味さのアンバランスさから、怖さが伝わってくる。


 ちなみに蝶は食べられる。

 毒を持つ蝶や天然記念物や絶滅危惧種などの保護指定されていなければ、どんな蝶でも人が食べても大丈夫だが、美味しいかどうかはその人次第。

 メキシコやアフリカ、東南アジアなどでは実際に蝶を食用としている地域がある。

 メキシコでは、セセリチョウの一種の幼虫の素揚げが郷土食。

 ラオスでは、アリノスシジミの幼虫や蛹を食べる地域がある。

 また、蛾は蝶以上に食用とされることが多く、日本でもカイコの蛹やタケツトガの幼虫なども食べられる。だが、蛾には蝶以上に毒をもっている種類が多く、アフリカでは死ぬほどの毒を持つ蛾がいて、ブッシュマンはその毒を使って狩りをするという。

 アゲハの幼虫はみかんの皮や葉っぱを食べているような香りや味がするという。

 成虫より幼虫や蛹の方が食べがいがあり、成虫は鱗粉が粉っぽい。

 ツマグロヒョウモンやモンキチョウは、マクドナルドのポテトやプロ野球チップス。アゲハ蝶はツマグロヒョウモンチョウより味が濃く、セミの味に似ているらしい。

 ただし、素揚げの場合です。

 

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