3

 向日葵ひまわりを見てみると、目から光が消えており、漆黒の渦がときを射抜くように写し出していた。ゆっくりとした動きで袖を掴まれると、条件反射で体が硬直してしまう。


「……二人きりで会ってたの?」


 いつもの向日葵ひまわりとは違うワントーン低い声に、自分がとんでもない地雷を踏んだのだと悟った。包み込むように迫り来る身の危険に、冷や汗が背中を伝い、言葉を出そうにも思考が追い付かず適切な言葉が出てこない。

 あまりの恐怖に、冬樹ふゆきに助け船を求める視線を送るが、首を横に振りかえされ拒否の意思を見せられてしまう。

 仕方なく向日葵ひまわりへと視線を向けると、必死に言葉を絞り出した。


「いや、たまたま二人になったっていうか……」


「いうか……何?」


 しどろもどろと説明をするが、その態度が向日葵ひまわりの逆鱗に振れたのか、更に殺意が溢れてでくる。嘘を付いているわけではないのだが、向日葵ひまわりの殺意があまりにも強いので、つい口籠ってしまう。


「でも、直ぐに冬樹ふゆきが来たから……」


 ときの言葉に、殺意の視線が冬樹ふゆきへ移される。

 冬樹ふゆきが勢いよく首を縦に振ると、向日葵ひまわりから殺意が抜けていくのが分かった。そして、いつもの柔らかい雰囲気へと戻ると可愛らしい笑顔になる。


「そっかー、なら良かった♪ね♪」


「そう……だな……」


 ときは、引き気味に答えると内心で安堵の表情を浮かべた。

 冬樹ふゆきも苦笑いで安堵すると、体の力を抜く。


 ギーンギーンギーンというチャイムの鐘が授業の始まりの音を鳴り響かせ、その音によって生徒達が自身の席に戻っていく。


「あ、チャイム。早く座ろ♪」


 向日葵ひまわりは、軽い足取りで自身の席に戻っていく。先程の凍てついた雰囲気とは似ても似つかないふんわり感だ。

 冬樹ふゆきは、ときの耳元へと顔を近づけると、向日葵ひまわりに聞こえない小さな声で話しかけてきた。


向日葵ひまわりって、その辺のチンピラより余裕で怖いね……」


「まぁ……向日葵ひまわりだからな……」


二人は、ご機嫌に座る向日葵ひまわりの背中を見つめながらコソコソと意気投合するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Book of Time Frawr @CielA4

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ