さよならは、わかれのことばじゃなくて……
『……お武家さま……村長さん……』
「――サイレンよ……そのような顔、いたすな……ワシら死にに行く、つもりじゃ無いのじゃヨ……?」
「サイレンちゃん! 歌声での応援、ヨロシクね!!」
『……はい……』
「……ご両親殿! お二人も、サイレンの歌を、サポートして下され! 無我でいられる時間が、ながければ長いほど良いのじゃ! 頼んだゾいっ!」
『……どうか……ご無事で……!』
「うむ! よし! では村長、行くとするかの!?」
「はいっ! お武家さまっ!!」
――武芸者を
「――村長よ……」
「? なんです、お武家さま?」
「すまぬのう……付き合わせてしもうて……」
「……何言ってるんですかぁ! アタシたち……親友じゃないですか!!」
「……うむ! そうであったのう!!」
「えへへっ!」
「うふ……にょほほほっ!」
『……お武家さま……?』
「お? サイレンか? って、コチラの声は聞こえないんじゃったっけ?」
『……聞こえるの……』
「は?」
『サッキっから、お武家さまと村長さんの声が聞こえてくるの……』
「なに!? ほ、本当かの!?」
「えっ! サイレンちゃん! アタシの声も聞こえてる!?」
『聞こえる! 聞こえるわ、村長さんっ!!』
「すごい! 一方通行の『テレテレ』を超越しちゃったね! 凄いぞサイレンちゃん!!」
「うむ! これはもう『テレパシー』と呼んじゃってもイイのでは!? サイレンよ! おぬし今日から『テレパシー少女・サイレン』と、名乗るがよい!!」
『テレパシー少女……なんか、ステキ……』
「う、うわ~……サイレンちゃんが、ダンダンへんてこに、なっていく~……」
「とにかく、これは
「がんばってね! サイレンちゃん!」
『はいっ!』
ずざざざざざざ……。
「む! きたか!?」
「わわわ! 海が持ち上がって……ふ、ふねが……」
ずぞぞぞぞぞぞ……。
「おおう!」
「で、でてきたぁ……!?」
『! お武家さま! 村長さん!!』
「――よし! サイレン! 歌をっ! うたを歌ってくれいっ!!」
『はいっ!!』
「――ねんねん ころりよ おころりよ……」
「おおおお! 来た来た来たっ!」
「ふええ……すごい……景色が……スローモーションだ……」
「むむっ? 無我の境地の中でも、会話が成立するようじゃのう……?」
「ええ……なんかそうみたいですね?」
「おう! 僥倖につぐ僥倖!! これだからWEB小説はやめられぬ!!」
「アタシたち、スッカリ勝ちパターンに、乗っかっちゃってますよね!?」
「うむ! まさに、ソレっ!!」
ず・ず・ず・ず……。
「あ、タツノオトシゴが出てきましたよ! うわ、でっか!」
「おお! すごいのう! 顔、なっが!」
「なんかもう、ストップモーションになっちゃってますよねぇ? 水しぶきが……北斎の浮世絵みたいです……」
「そうじゃのう……富士ではなく、タツノオトシゴだがのう……イカだったら、まだ形が似てたかも知れぬのう……?」
「あ、お武家さま? のん気なこと言ってるうちに、攻撃してくるみたいですよ?」
「お! いかんいかん! よし、サイレンよ! 聞こえるか!?」
『はいっ!』
「うむ! 歌声、フルパワーじゃっ!!」
『はいっ!!』
「……ぼうやは よいこだ……」
「おおおおっ!!」
「ありゃりゃ、完全に止まっちゃいましたね? タツノオトシゴ」
「わかる! この状態は知っておるゾイ!! これは、武士が一度は経験してみたい、ビッグイベント・ナンバーワンの……『ゾーン』状態っ!!」
「はあ?」
シャラン……。
「あ……抜いちゃいましたね……竜殺し……それも、二本とも」
「勝てる! 勝てる、勝てる、勝てる、勝てるゾイっ!! とうっ!!」
「お! お武家さまぁ~っ!!」
「必殺!
ちゅど~ん!!
「……ねん~ね~しな~……」
「――じゃあ……サイレンちゃん! アタシたちは行くね?……」
「サイレン? 達者で暮らせよ……」
『……お武家さま……村長さん……』
『……お二人とも、こんなに急いで出立されなくても……もう少し待てば、国からメガ・シー・ドラゴン
「ああ、それは困る! 名が知れてしまったら、ワシら、自由に動けなくなってしまうからの?」
「そうそう! アタシたち、ただの『お武家さま』と『村長』ですからぁ……」
『そうですか……ほら、サイレン……お二方にチャンと、お別れを言いなさい』
『……』
「む……サイレン?」
「? サイレンちゃん……お別れできる?」
『……ダイジョ』
「こりゃ! サイレン」
『……え……?』
「……ダメだよ、何でも『ダイジョウブ』って言っちゃ……」
「おぬし、おっ父とおっ母が、働きに出る時にも、『ダイジョウブ』とか言って、送り出しちゃったんじゃろう? ホントは、行ってほしく無かったのに……」
『……うん……』
「ああ……やっぱり? あんまりイイ子でいなくったってイイんだよ?」
「うむ! 子供は
『……うん……お武家さま、村長さん……ふ、ふたりとも、行っちゃヤダ……!』
「うん……ワシらも、サイレンと別れるのは……ツラいのう!」
「そうですねぇ……! イヤですねぇ!!」
「そうじゃ! ぐすん……これぐらい、わがままを言って別れるのが……ぐしゅ……本当じゅあ!」
『お、お武家さま!』
「そ、そうでしゅねぇ! ぷすっ……サイレンちゅあん! げ、元気でねェ……いっく!」
『村長さん……グスッ……』
「こ、この際……わ、わしらも、じゅびっ……わ、我がまま言っちゃおうか、村長……?」
「そ……いっく! そうでシュね……お、お武家さまぁ……」
『グスン……え……?』
「……お、お父上殿……? つ、つかぬことを度々伺うが……歌、ではなく、言葉には、どんなチカラが有るのじゃ? セイレーン族って」
『……私たちの言葉には……魅了のチカラが宿ります……』
「……みりょう……魅了か……」
「あ、それなら平気ですね? アタシたち……ぐすっ! もう、サイレンちゃんに、メロメロですから!」
「そうじゃのう! サイレン! 最後にワシらに、ひと声かけてくれ! たのむゾい!」
『……はい……お武家さま! 村長さん!』
「――だいすきっ!!」
「にょほっ!」
「えへへっ!」
「――いや~! お疲れ様でした~! さ、どうぞ! お武家さまっ!」
「お、すまぬの! 村長! おっとっと……」
「また、会いたいですね~! サイレンちゃん!」
「うむ! イイ子じゃったからのう! ほれ? 村長!」
「あ、いただきます! おととっと……」
「……さて村長! 最後に締めてもらおうかのう!」
「はいっ! では、『タツノオトシゴ』と掛けまして! 『バナナ』と、解きます!」
「うむ! 今回一話目と、最終話のネタじゃな! そのココロはっ!?」
「……これが、サカナ……!?」
「……ホントにオイシイの? 村長……」
―――――――― 了。
無口なあの子 魅惑の歌声・サイレンちゃん! ひぐらし ちまよったか @ZOOJON
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