さよならは、わかれのことばじゃなくて……

『……お武家さま……村長さん……』


「――サイレンよ……そのような顔、いたすな……ワシら死にに行く、つもりじゃ無いのじゃヨ……?」


「サイレンちゃん! 歌声での応援、ヨロシクね!!」


『……はい……』


「……ご両親殿! お二人も、サイレンの歌を、サポートして下され! 無我でいられる時間が、ながければ長いほど良いのじゃ! 頼んだゾいっ!」


『……どうか……ご無事で……!』


「うむ! よし! では村長、行くとするかの!?」


「はいっ! お武家さまっ!!」


 ――武芸者を舳先へさきに立て、村長がオールを操る小舟は、メガ・シー・ドラゴンが住む、沖を目指して漕ぎすすむ。


「――村長よ……」


「? なんです、お武家さま?」


「すまぬのう……付き合わせてしもうて……」


「……何言ってるんですかぁ! アタシたち……親友じゃないですか!!」


「……うむ! そうであったのう!!」


「えへへっ!」


「うふ……にょほほほっ!」


『……お武家さま……?』


「お? サイレンか? って、コチラの声は聞こえないんじゃったっけ?」


『……聞こえるの……』


「は?」


『サッキっから、お武家さまと村長さんの声が聞こえてくるの……』


「なに!? ほ、本当かの!?」


「えっ! サイレンちゃん! アタシの声も聞こえてる!?」


『聞こえる! 聞こえるわ、村長さんっ!!』


「すごい! 一方通行の『テレテレ』を超越しちゃったね! 凄いぞサイレンちゃん!!」


「うむ! これはもう『テレパシー』と呼んじゃってもイイのでは!? サイレンよ! おぬし今日から『テレパシー少女・サイレン』と、名乗るがよい!!」


『テレパシー少女……なんか、ステキ……』


「う、うわ~……サイレンちゃんが、ダンダンに、なっていく~……」


「とにかく、これは僥倖ぎょうこう! 心強いわ! サイレン、頼むぞ!」


「がんばってね! サイレンちゃん!」


『はいっ!』


 ずざざざざざざ……。


「む! きたか!?」


「わわわ! 海が持ち上がって……ふ、ふねが……」


 ずぞぞぞぞぞぞ……。


「おおう!」


「で、でてきたぁ……!?」


『! お武家さま! 村長さん!!』


「――よし! サイレン! 歌をっ! うたを歌ってくれいっ!!」


『はいっ!!』


「――ねんねん ころりよ おころりよ……」


「おおおお! 来た来た来たっ!」


「ふええ……すごい……景色が……スローモーションだ……」


「むむっ? の中でも、会話が成立するようじゃのう……?」


「ええ……なんかそうみたいですね?」


「おう! 僥倖につぐ僥倖!! これだからWEB小説はやめられぬ!!」


「アタシたち、スッカリ勝ちパターンに、乗っかっちゃってますよね!?」


「うむ! まさに、ソレっ!!」


 ず・ず・ず・ず……。


「あ、タツノオトシゴが出てきましたよ! うわ、でっか!」


「おお! すごいのう! 顔、なっが!」


「なんかもう、ストップモーションになっちゃってますよねぇ? 水しぶきが……北斎の浮世絵みたいです……」


「そうじゃのう……富士ではなく、タツノオトシゴだがのう……イカだったら、まだ形が似てたかも知れぬのう……?」


「あ、お武家さま? のん気なこと言ってるうちに、攻撃してくるみたいですよ?」


「お! いかんいかん! よし、サイレンよ! 聞こえるか!?」


『はいっ!』


「うむ! 歌声、フルパワーじゃっ!!」


『はいっ!!』


「……ぼうやは よいこだ……」


「おおおおっ!!」


「ありゃりゃ、完全に止まっちゃいましたね? タツノオトシゴ」


「わかる! この状態は知っておるゾイ!! これは、武士が一度は経験してみたい、ビッグイベント・ナンバーワンの……『ゾーン』状態っ!!」


「はあ?」


 シャラン……。


「あ……抜いちゃいましたね……竜殺し……それも、二本とも」


「勝てる! 勝てる、勝てる、勝てる、勝てるゾイっ!! とうっ!!」


「お! お武家さまぁ~っ!!」


「必殺! 双頭龍斬破そうとうりゅうざんは!!」


 ちゅど~ん!!


「……ねん~ね~しな~……」




「――じゃあ……サイレンちゃん! アタシたちは行くね?……」


「サイレン? 達者で暮らせよ……」


『……お武家さま……村長さん……』


『……お二人とも、こんなに急いで出立されなくても……もう少し待てば、国からメガ・シー・ドラゴン討伐とうばつの、褒賞ほうしょうが出ますよ……?』


「ああ、それは困る! 名が知れてしまったら、ワシら、自由に動けなくなってしまうからの?」


「そうそう! アタシたち、ただの『お武家さま』と『村長』ですからぁ……」


『そうですか……ほら、サイレン……お二方にチャンと、お別れを言いなさい』


『……』


「む……サイレン?」


「? サイレンちゃん……お別れできる?」


『……ダイジョ』


「こりゃ! サイレン」


『……え……?』


「……ダメだよ、何でも『ダイジョウブ』って言っちゃ……」


「おぬし、おっ父とおっ母が、働きに出る時にも、『ダイジョウブ』とか言って、送り出しちゃったんじゃろう? ホントは、行ってほしく無かったのに……」


『……うん……』


「ああ……やっぱり? あんまりイイ子でいなくったってイイんだよ?」


「うむ! 子供はままなぐらいが丁度いいのじゃ!」


『……うん……お武家さま、村長さん……ふ、ふたりとも、行っちゃヤダ……!』


「うん……ワシらも、サイレンと別れるのは……ツラいのう!」


「そうですねぇ……! イヤですねぇ!!」


「そうじゃ! ぐすん……これぐらい、わがままを言って別れるのが……ぐしゅ……本当じゅあ!」


『お、お武家さま!』


「そ、そうでしゅねぇ! ぷすっ……サイレンちゅあん! げ、元気でねェ……いっく!」


『村長さん……グスッ……』


「こ、この際……わ、わしらも、じゅびっ……わ、我がまま言っちゃおうか、村長……?」


「そ……いっく! そうでシュね……お、お武家さまぁ……」


『グスン……え……?』


「……お、お父上殿……? つ、つかぬことを度々伺うが……歌、ではなく、言葉には、どんなチカラが有るのじゃ? セイレーン族って」


『……私たちの言葉には……のチカラが宿ります……』


「……みりょう……魅了か……」


「あ、それなら平気ですね? アタシたち……ぐすっ! もう、サイレンちゃんに、メロメロですから!」


「そうじゃのう! サイレン! 最後にワシらに、ひと声かけてくれ! たのむゾい!」


『……はい……お武家さま! 村長さん!』


「――だいすきっ!!」


「にょほっ!」


「えへへっ!」




「――いや~! お疲れ様でした~! さ、どうぞ! お武家さまっ!」


「お、すまぬの! 村長! おっとっと……」


「また、会いたいですね~! サイレンちゃん!」


「うむ! イイ子じゃったからのう! ほれ? 村長!」


「あ、いただきます! おととっと……」


「……さて村長! 最後に締めてもらおうかのう!」


「はいっ! では、『タツノオトシゴ』と掛けまして! 『バナナ』と、解きます!」


「うむ! 今回一話目と、最終話のネタじゃな! そのココロはっ!?」


「……これが、サカナ……!?」


「……ホントにオイシイの? 村長……」





 ―――――――― 了。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無口なあの子 魅惑の歌声・サイレンちゃん! ひぐらし ちまよったか @ZOOJON

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ