ぼうや~よい子だねんねしな……
「――さて、港町に着いたのう? 初めて来たが、大きな街じゃ!」
「……でも……何だか、街の規模からしたら……もう少し活気が有っても、良さそうですよね……?」
「……うむ……そう言われて見れば……そうかのう……?」
「――サイレンちゃん、おっ父とおっ母の居るところって、分かるのかい?」
『たぶん……教会……』
「教会? サイレンのご両親は、聖職者なのか?」
「へえ? 神父さんって事?」
『ううん……違うの……でも、教会のお仕事をしている……』
「うん? よく分らぬが……とりあえず教会に行ってみるとするかのう」
「そうですね? サイレンちゃん! おっ父とおっ母に会えるとイイね!?」
『うん!』
『――!? あああっ! サイレンっ!!』
『お! おっ母っ!!』
『ほ……本当に……本当にサイレンなのかっ!?』
『お、お……おっ父! おっとうぅ!!』
「う、う、うわ~っ!! ぐしゅっ!!」
「わ、わ、ワシ……ぶひっ! ワシもうダメっ! ぶしゅっ!! もう、泣いちゃいそうっ!!」
「お……じゅこっ! お、おぷけちゃま……も、もう泣いちゃって……ぐじゅっ! 泣いちゃっちぇまじゅよをを……!」
「びゃ! びゃかなっ! ぶ、ぶしは……びゅしは、けっして……ぐじゅじゅっ! けっじて泣いちゃりにゃんが……びゅうほっ!!」
――長い旅路の末、ようやく再会を果たせた両親に、強く、優しく抱きしめられたサイレンが、花咲くような笑顔を見せたあとにも……二人の男達は、周りをはばからない号泣を、長くながく続けていた。
『――そうか……ちーマヨ先生が、お亡くなりに……それはつらかったね……? ごめんよ、サイレン……』
『ううん……いいの、ダイジョウブ……』
「――ところでの、父上殿……? つかぬ事を伺うが……サイレンも、おぬしら二人も、『言葉を出さぬ』ようじゃが……訳がお有りか?」
『……はい……それは、私たちの仕事にも関係が有ることでして……仕事については、サイレンにも秘密にしていたのですが……』
『……あなた……この際サイレンに、本当のところを話してあげましょう……もう……知っておくべきです』
『……そうだね……おふたかたも、お聞きください……私たち夫婦とサイレンは、セイレーンの一族です……』
「せ、せ……せい、れえん……?」
「あ、やっぱり? デスよね~っ!」
「む!? 村長? おぬし、知っておったか?」
「ええ! サイレンちゃん喋らないから、『何か言葉に、力でも有るのかな~?』って思ってました……それに名前も『サイレン』ですもんね!」
「そ、そうなの!? 相変わらず『じつはチョット学が有る』ってキャラ、貫くのう……」
「あれ? お武家さまだって山賊退治の時、サイレンちゃんに、力を使わせなかったじゃ無いですか? てっきり気付いているもんだと……」
「……アレはの、武士の勘じゃな……何となくじゃ……」
「ありゃりゃ……」
『村長様のおっしゃる通り、私どもの言葉には、ちからが宿ります……とくに、歌声に……他人を引き付けてしまうのです』
「なるほど……それで、むやみに言葉を発せない……普段から封印をしている、という訳じゃな?」
『はい……この言葉のせいで私たち一族は、昔から戦争や、略奪行為に利用されて来ました……そうなって仕舞うのがイヤで、私ども一家は故郷の海を離れ、遠い森の奥の小さな集落に、隠れ住んでいたのです』
「……その話し、聞いた事ありますよ……船を歌声で引き寄せて、沈めていった人魚の話し……」
「そうか……サイレンのような美しい少女が、森の奥で、ひっそりと暮らしておったのには、そう云った理由がのう……」
『――さいわい、集落の方々はとても親切で、すぐに私たち家族を受け入れてくれました……長老のちーマヨ先生が、言葉を発しなくも意思を相手に伝えられるテレテレなる技を、伝授して下さった事が大きかったと思います』
「……テレパシーとは、せぬのじゃのう?」
「まぁ、一方通行ですし……」
『でも、そんな穏やかな暮らしも、長くは続きませんでした……この港の沖合に、メガ・シー・ドラゴンが住み付いてしまったのです』
「めがしー?
「アタシ知ってます! おっきな『タツノオトシゴ』ですよね!?」
『はい、ヤツはこの港を訪れる船舶を、たびたび襲うようになりました……人を、食らうのです』
「なんと!」
「そ、そんなオッかない奴なんですか!?」
『――国は考え、この港町に死刑囚を送り、教会が管理をして、メガ・シー・ドラゴンへ定期的に、人を提供する事にしたのです……
「……国が……人身御供を……」
「この『仮想空間』全盛のご時世にか……アバターとかではダメなのかのう……? テキトーな」
「……無理じゃないですかぁ……?」
『そこで私たちに、声がかかりました……教会が考慮しての事です……死刑囚たちを、穏やかな気持ちで送れないかと……』
「それが……おぬしたち、セイレーン一族には、出来ると……?」
『はい……私たちの歌声は、人の心をとらえ、人が持つ恐怖心や苦痛を、一切、取り除きます……無我の境地にして、操るのです』
「うむ……それが、おぬしたちの『仕事』で、あったか……」
「……サイレンちゃん……だいじょうぶ……?」
『……ダイジョウブ……』
『……苦痛を無くしてやる為……とは言え、私たちのしている事は執行人と、かわりありません……この子には、どうしても伝える事が、出来なかった……』
「うむ……立派な仕事で、あるとは思うが……難しいトコロじゃのう?」
「――そんなタツノオトシゴが、居るからダメなんじゃないですか!? そんな奴、やっつけちゃいましょうよ!!」
「これこれ、村長? 相手は仮にも、
「ええ~っ!? せっかく村の宝の『竜殺しの剣』持ってるのにですか~? それ絶対フラグだと、思うんですけど~」
「ええっ!! そうだったの!? フラグだったのっ!! ヤッパリ捨てとけば、よかったぁ~っ!! 失敗した~っ!!」
「だから捨てられちゃ困るんですってば~っ!」
「――とは云うモノの……このままにしておくのは
「一番良いのが、タツノオトシゴが居なくなっちゃって、サイレンちゃんとご両親が、森に帰れることなんですけどねぇ……」
「ふむ……やれない事もない……コトもない……事か……」
「……何言ってるんです? お武家さま……」
「これ、サイレン? 一度ワシらの前で……歌って見せては、くれぬかのう?」
『……え?……』
「な、何を言っちゃってるんですか!? お、おぶけさ……」
「いやぁ~! 『無我の境地』ってね? 武士が一度は経験してみたい『ビッグイベント』の、ひとつなのよ……ベストスリーに、ランクインしてるのよ!?」
「そ、そうなんですかぁ……?」
「べつに死んじゃう訳じゃないんじゃろ? 村長は、サイレンの歌声……聞いてみたいと思わぬか?」
「そ……それはイイですねぇ! お武家さま!! えへへ!」
「でしょ! でしょっ!!」
「さっ! サイレンちゃんっ! 歌ってうたってっ!」
「ほれっ! 頼むゾい!」
『え……ええ~っ……!?』
『じ、じゃぁ……コホン……』
「……あ、頭の中で、咳ばらいとは、の……」
「お武家さま……シッ……」
「お、す、すまぬ……」
「――ねんねん ころりよ おころりよ……」
「おおおおう……」
「わ~……キレイな声……」
「……ぼうやは よいこだ ねんねしな……」
「お……う……」
「ふ……」
「……はっ! こ、ここはドコっ!?」
「……え? へ……!?」
『……お武家さま? 村長さん? ど、どうでした……? わたしの歌……』
「あ、サイレンちゃん……うん! スッゴク、気持ちよかった!」
「わ……ワシは……誰……?」
「……お武家さま! お武家さまってばっ! お~いっ!!」
『……アハハ!』
「――うむ! 何となく出来そうじゃ! そんな気がしてきた!」
「ええ~!? 何となくデスか~!?」
「よしっ! ドラゴンめ! 拙者が、退治してくれるわイっ!!」
「ホントに~……!?」
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