らら・らんらんらん・らら・らんらんら……

「――どうやら、今日は船……出航しないみたいですよぉ、お武家さまぁ……?」


「……そうなのかい? 村長よ」


『……お船……乗れないの? 村長さん』


「……うん、ゴメンね、サイレンちゃん……今日は都から来る船が、ここを通って港町へ行くんだって……だから、港町行き……全部欠航」


『……そう……なんだ……』


「なんじゃ? 迷惑な話じゃのう!」


「まあまあ、お武家さま……明日は、出してもらえそうだし……この際今日は、『ゴンゴラ』観光……しちゃいません?」


「……おっ? にょほっ! ソレも、好いかも知れぬのうっ!!」


『……? かんこう?』


「えへへ、サイレンちゃん! じつは、このゴンゴラの街にはネェ……」


「うむ! リーズナブルなお値段で、大人も子供も楽しめる、ユメの遊園地! 『ごんごら遊園』が有るのじゃよ! にょほほっ!!」


『ゆ! 遊園地!!』


「うん! なんと、今年の四月に『リニューアル・オープン』した、ばっかりなんだよ!!」


『すご~いっ! 嬉しい!!』


「おおおっ、その情報はまことか!? 村長よ!!」


「はいっ! 四月の『村長通信』に載ってたから、間違いないです! お武家さま!」


「な、何という幸運! サイレンよ、おぬし……持っておるのう……?」


『わ、わ、ワタシっ……? え、えへへへ……っ』


「乗り物広場に、観覧車も有るし、ファミリーコースター……動物園とかも有るんだ! スゴクない!?」


『す、スゴイ!』


「うむ、たしか『釣り堀』も有ったのう……なつかしい……ワシも幼少の頃、父母に連れられて、楽しんだ記憶があるワイ……」


『――わたし遊園地って、行った事ないの! ウレシイっ!!』


「そうか!? よし! そうと決まれば、早速参るゾい!!」


『うんっ!!』


「あっ! その前にふたりとも、宿屋を決めてから、荷物を預けていきましょう! 船の欠航で、すぐに満室になっちゃうかも、知れませんから!」


「おっ!? そ、そうじゃな! さすがは村長、よく気が付くのう!」


「ありがとうございます、えへへっ! サイレンちゃん、遊園地で何がやりたい!?」


『えっとォ……お馬さん!』


「うま……? 有ったかの、村長?」


「ポニー乗馬が有ります……! たしか、予約制のはず! よし、急ごうサイレンちゃんっ!」


『は、はいっ!!』


「あ! こ、これ……ワシを置いてくニャ……これ!」




「――あははっ! サイレンちゃん、神妙な顔ツキになってますよォ、お武家さまっ! あははははっ!」


「うむ、フフ、そうじゃの、村長よ……しかし、初めての乗馬にしては、姿勢が好い! なかなかのスジじゃわい! お~いっ、サイレ~ン!」


『お武家さま~! 村長さ~んっ!』


「あ! 手を振ってくれた! 余裕が出てきたな、サイレンちゃん! お~い、お~いっ!」


「にょほほほっ! カワユイのう!!」




「――ほ、ホントに……? 本っ当~に……恐くない……?」


「ダイジョウブですよぉ、お武家さまぁ! これ、『この国で一番遅いコースター(自称)』(ーHPより抜粋ー)らしいですよ? よゆう余裕!」


『よゆう、ヨユウ!!』


「ええ~! で、デモ、こ、このイモムシさん……や、やる気あるカオ、してない……? き、今日は飛ばしちゃうんじゃ……」


「……そんなわけ、ないじゃないですか!? さ、順番が来た、行きますよ? お武家さま」


『わ~い! 行こういこう!!』


「あ、さ、サイレン……!? ワシ……となり、座ってくれる?」


『……もう……! うふっ、イイよ!!』


「……お武家さまったらっ……もお」


「にょ……にょほほっ!」




『――わたし、あの馬車が好い! 白いの! 村長さん、一緒に乗ろ!?』


「うん! 乗ろう、のろう!! お武家さまも一緒にどうです?」


「――ワシはこれ! 白馬! 騎士の憧れ!!」


「お武家さまって、武士……なんじゃ無かったでしたっけ?」


「同じようなもんじゃ! 気にしない!」


『あはははっ!』


「――どうじゃ、サイレン? 白馬に跨るワシも、なかなかサマに、なっておろう? むふ!」


『うん! カッコイイ!』


「じゃろう!? お、この棒に掴まると、危なくないのじゃな!? セーフティーじゃわい!」


「――サイレンちゃん、コッチの席に座ったら? お武家さまの、得意そうな顔が見えて、おもしろいヨ?」


『うんっ!』


 プルルルル……。


「おお! 動き出すゾイ!」


『やった! ウレシイ!』


「えへへ! そうだね!」


『うふふっ!』




『――うわ~っ、高くなってきた~!』


「ホントだぁ~……あ、あれが、きのう越えてきた山だよ!」


「うむ、オシッコ漏らさなくって、ヨカッタわい!」


「……ずいぶん我慢してましたもんね……?」


『……膀胱炎……ダイジョブ?』


「へいきじゃ! むしろ放尿時は、解放感で夢心地じゃったワイ! あれはクセになる!」


「……た、たくましいですね……さすがです」


『あはは!』


「村長や! 景色も好いし、ここらで得意の『謎掛け』でも、披露したらどうじゃ!?」


「え? あ、そうですね? サイレンちゃん、謎掛けしてイイ?」


『聞きたい! きかせて!』


「えへへ……じゃあ……『ごんごら遊園』と掛けまして、『高齢者の再就職』と解きます」


「ふむ? そのココロは?」


「はい、夜景(夜警)も人気です」


「うむ! 良いのではないか!?」


「えへへ! ありがとうございます! どう? サイレンちゃん!?」


『え……? っと……ちょっと、よく分からない……』


「ええ~っ! しょぼん……」


「……まあまあ、村長、サイレンにはチョット難しかったかも知れんわい……夜景といえば、ライトアップするらしいの? この観覧車」


『ライトアップ!? すてき!!』


「え、えへへ! サイレンちゃんが、そう言うと思ってね? 『お気楽亭』……予約してありますっ!!」


「なぬっ!! 村長! いつのまにっ!?」


「サイレンちゃん、ゴンゴラの街は『ごんごら遊園』の他に……もうひとつが有ってね?」


「――焼肉激戦区じゃ! 中でも『お気楽亭』は人気の名店! さらに食べ放題っ!!」


『ヤキニクっ!!』


「サイレンちゃん、好き嫌い無いケド、じつは、お肉大好きデショ? おっちゃんはリサーチ済みだよ!」


「で、で、でかしたゾ! 村長よっ!!」


「この観覧車がよく見える、リバーサイドの席です!」


「そつなし! あっぱれ!!」


『やきにく! おにくっ!!』


「たべほうだいじゃ!!」


「えへへへっ!!」




 ――観覧車が、左右に大きく揺れてしまう程の、歓声があがる……その足元。

 ゆるく流れる運河を、一艘の船が進んでいく様子に、盛り上がっている一行は、気が付いていない。

 港町へ向かう、小型ながらも、頑丈に造られた黒塗りの船。


 ――それは……国の『囚人護送船』で、あった。

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