第21話 刷れ違い

転園を繰り返し、発語のない私を抱き込み、話しかける母。


「〇〇は良い子だね~時々悪い子になるけど、とっても良い子だよね」


私が根負けするまで続く、毎日繰り返される呪文と儀式であった。


私の刷込親インプリンタは左手である。


巨人に抱えられ成す術もなく、呪いを架けられてから登園する。


通園路も段々と長くなり、自転車で通園するので冬は寒かった。


いつの事だったか、回転部に手を突っ込み手がグシャグシャになる怪我をした。


完治してみれば大した怪我ではなかったのだが、皮膚や血で経験の浅い私には復元の目途を立てられない状態であった。


その時、冬の日に悴む私の手を温める母の姿を思い出し、母の大切にしていた物を壊してしまったという罪悪感が襲い掛かった。


死期を悟ると人は手鏡をするものらしい。

石川啄木の短歌にも表れている。

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名状し難い躰の話 凸凹囙 回向 @Iingecho

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