第9話 楽しくない昼食

「で、俺の席ってどこ?えーっと、誰か教えてくれるとありがたいんすけど。まぁ俺は立って授業受けてもいいけどな。にししし。」


相変わらずクラスのみんなはただ転校生を見ていることしかできないようだ。

それに転校生はみんなの反応を楽しむためにずっと前で立っているものだと思ってたがどうやらそうではないらしい。

確かに後ろの席と言われても現に今は空席が二つある。

わからないのは無理もないだろうと康介は分析する。

だが教えてやるという選択肢はなかった。

こういうめんどくさそうなやつには関わらないのが一番だ。

きっと碌なことにならない。

康介はもう一度だけ転校生を見る。

付け加えるような印象も持たなければ興味も湧かなかった。


「あっ、ごめん!えっと、直井君?の席はこっちの窓際の方だと思うよ。」


面倒見のいい愛莉が立ち上がり転校生に声をかけた。

その声でようやくクラスにいつもの喧騒が戻る。


「あざっす、俺のことは涼でいいっす。苗字で呼ばれるの嫌いなんで。」



最悪だ。

康介はこの状況を改めて分析し、最悪以外の何ものでもないと改めて結論づける。

この状況、というのは楓太、愛莉、優香、転校生、そして俺。

その五人で机を囲み、昼食を食べている現状のことである。

ちなみに優香とは愛莉と同じく女バレで朝、康介たちに夫婦漫才はやめろと言った奴だ。

明るく活発で姉御肌の優香は少しおせっかいなところもあるが康介は嫌いじゃない。

むしろ気を遣う必要がないので他の女子よりも付き合いやすい。

愛莉と隣になってからなぜか四人で昼食を取ることになっていた。

それはべつにいい。

愛莉と何かできる口実ならなんだってよかった。


問題は例の転校生だった。

関わりたくないと思っていた彼の席は康介の後ろの席だったのだ。

確かに康介の後ろの席は空席だった。

仕方がない、そう思って諦めはした。

だが昼食まで一緒に食べる義理はない。


「へぇ、じゃあ涼君っていろんなところを転々としてきたんだ。」


「うっす。おやじが転勤族なんすよね。一人で単身赴任でも何でもして来いって感じっすよ。」


康介の不満など誰にも気づかれず他の四人は転校生との会話を楽しんでいるらしい。

そのことがさらに康介を不機嫌にさせる。

なぜかは分からないが康介はこの転校生のことが嫌いだった。


「それにしてもみんなタッパあるしいい身体してるっすよね。あっ、変な意味じゃないっすよ。なんかスポーツやってんのかなーって。」


昼食を終えても四人の会話は続いた。

康介はずっと黙って聞き役に徹していた。

本心ではこの場から去りたくて仕方がないがうまい理由も思いつかなければ、自分の席から移動するような場所もなかった。


「うちらはみんなバレーボールぶだよ。うちと愛莉はまだまだベンチ組だけど楓太と康介はレギュラーなんだよ。」


なぜか優香が自慢げにそんなことを言っていた。


「レギュラーって言ってもたまたま足りないポジションだっただけだよ。それに弱小校のレギュラーなんて自慢にもならないし。康介だってそう思ってるんじゃない?」


「ん、まぁな。年功序列なんてくだらないもんに縛られてる限り弱いままだろうな。多分先輩たちより俺らの方がうまいし。」


楓太に話を振られた康介は仕方なく答える。

この昼食中に初めて口を開いたかもしれない。


「ほう?康介は自信家でありましたか。」


優香がそんな茶々を入れてくるがいつものことなので無視する。



「康介君であってるっすか?そう思ってるならなんで監督にそう言わないんすっか?レギュラーは実力で選べって。」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もう一度 銀髪ウルフ   @loupdargent

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ