3話


千春という名前は亡くなった祖母がつけてくれた名前だ。

祖母は春が好きだった。私の名前も安直ではあるが自分の好きな季節からとって名付けてくれたのだろう。

自分でいうのも恥ずかしいが、なかなかに可愛い名前だと思っている。

女の子らしい名前の中に季節を感じられる言葉が入っているのがすごくいい。

私が生まれてすぐは「桜」とか「春乃」春っぽい名前がいくつか上がったが、結局祖母の「語幹がいい」という理由でこの名前が選ばれた。

しばらくして私が3歳の時に祖母が亡くなった。

幼い頃の記憶などほとんど残っていないものだが、生粋のお婆ちゃんっこだった私は話の内容は覚えていなくても祖母がとても優しい人だっということは今でも覚えている。

「千春?」

「ん?どしたのお母さん。」

「ちょっとそこ座んな。」

「はーい。」

就寝前。寝ようとリビングから自室に戻ろうとした途端、母が強張った声で私を呼び止めた。

私なんか悪いことしたっけ?

母は普段あまり怒る人じゃない。基本笑顔が絶えないユーモアに溢れる人だ。そんな母が強張った声で私を呼び止めるということは何かしら私が母に悪いことをしたのだろう。

「今から話すことを落ち着いて聞いて欲しいの。」

「うん。」

「再婚、しようと思うの。」

「え?」

再婚。再婚?再婚!

「誰と!?」

「職場の人」

母の職場は大手食品メーカーの営業だ。

社内恋愛。なんて言葉をドラマやテレビでよく耳にするが、仕事と恋愛は別にしろよと思ってしまっていた。

実際、仕事は仕事で区切りをつけないと公私混同してしまいそうで怖いし。リラックスできる時間を作るためにも同じ職場ではなく別の職場で作った方が吉ではないか。

別に母を否定したいわけじゃない。ただ驚いて。瞬時に否定したくなってしまったのだ。

「別にいいんじゃない。」

高校卒業まであと2年。卒業したのちは都内の大学に通うために1人暮らしをする予定だった。時

が経てば母が1人になってしまう。

再婚は母にとって寂しくならないための策なのだろう。

別に母親の恋愛に文句を言うつもりはない。否定もしない。だから私は笑顔で母の再婚を祝福してあげるんだ。

「ありがとう。」

少し母が泣きそうになっていた。

涙袋が少し溜まっていたが、母としての威厳を守るためにすぐにぬぐい、いつもの母に戻った。

「それでさ、ここからが大事なんだけど再婚したら同じ家に住むわけじゃん。」

「そうだね。」

「相手の人、子供が居て。」

「一緒に暮らしたいってこと?」

「うん。」

再婚相手の子供。

今後継続的に一生仲良くしなければいけないものだろう。

正直、少し苦手意識はあるがここで否定すれば母を悲しませることになる。

「いいよ。一緒に暮らそう。」

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はるなつあきふゆ MAY @redaniel

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