第八話④ HAHAHAHAHAHAっ!!!


 おはよう世界っ! 気持ちの良い朝ねっ! わたしジェニファーっ! この前のお誕生日会で十歳になった、女子小学生よっ!

 朝起きたから、腰くらいまでの長さの自慢の銀色の髪の毛を櫛でといて、おでこの真ん中で分ける。鏡に映った碧色の目と合わせて、うん、今日も可愛いわっ! お気に入りの紺のチュールワンピースにお着替えしてリビングに向かうと、そこにはわたしには家族がいるのっ! パパとお姉ちゃんっ! 二人とも男の人よっ!


「やあジェニー。我が娘は今日も愛らしいな。さあ、パパの胸に飛び込んでおいでッ!」

「パパっ!」


 わたしのパパ、マイケルっ! 相変わらず全裸で筋トレしてるけど、職業は小説家よっ! 股間の間でフランクフルトがブラーンブラーンしてるのが、最高に目の毒ねっ! 今日こそ草刈り用の大型剪定ばさみを見つけなくっちゃっ!


「おはようジェニー。よく眠れたかい?」

「お姉ちゃんっ!」


 そしてもう一人。台所から顔を出したのはわたしの七つ上のお姉ちゃん、ノアよっ! 書類上は男性になってるけど、えんじ色のブレザーの上に白いエプロン姿の彼はやっぱりお姉ちゃんねっ! この前のイベントでいよいよ女の子って広まっちゃったわっ! あとは本人が認めるだけねっ!


「さあパパも筋トレやめて。今日はみんなで出るんだから、ご飯は早めに食べるよ」

「はーいっ!」

「了解した我が娘よ」

「だから息子だっつってんだろッ!」


 お姉ちゃんが作ってくれた朝ごはんをみんなでテーブルに運んで、席についたわっ! いつものトーストにハムエッグ、グリーンリーフのサラダにミルク、そしてマヨネーズよっ! マヨネーズはお姉ちゃん専用だけどねっ!


「「「いただきまーす」」」

「強盗だッ! 金を出せッ! お前らやっぱり金持ちだったんじゃないかッ!」


 すると知らない人の声がしたわっ! ううん、嘘っ! 一回聞いたことある声がしたわっ! 家族三人で声がした方に振り返ってみると、そこには黒い覆面を被ってこちらに銃を向けてる男の人がいたわっ! ああっ! あの時の強盗さんじゃないっ! 久しぶりねっ!


「前回は油断したが、今回はそうはいかないぞ。さあ、さっさと金を出せッ! 金さえもらえれば命だけは……」

「もしもしポリスメン?」

「どうも警察です。通報を受けて商品の引き取りに来ました」

「ハアッ!?」


 そしてパパが速攻で通報したらすぐポリスメンが来てくれたわっ! 凄い速度ねっ! 世界狙えるわっ!


「な、なんでこんな早く警察が……?」

「パパも有名になっちゃったから、新たに警備会社と契約したんだ。強盗が来たらボタン一つで、最寄りのポリスメンがすぐに飛んできてくれるのさ」

「く、クソッ! 離せ、離せェェェッ!」

「やはりお前は活きが良い。今回は冷凍していこう」

「冷凍って何ッ!? お前俺をどうする気だァァァッ!?」

「「「ごちそうさまでしたーっ!!!」」」

「遂には俺のこと見向きもしてねーのかテメーらァァァッ!!!」


 そのまま強盗さんは、冷凍の表示がしてあるパトカーに乗って連れていかれちゃったわっ! 行き先はジャパニーズTSUKIJIとかかしら? 活きの良いお魚さん達と一緒に競売にかけられるのねっ! この前テレビでやってたわっ!


「じゃあ出かけようか。あんまり遅くなると学校に遅刻しちゃうからなッ!」

「「はーいっ!!」」


 ご飯を終えたわたし達はパパの運転する車に乗って、とある場所に向かうわっ! 今日は平日だけど学校じゃないの。学校はあるけど、その前にみんなで行きたい場所があったのよねっ!

 みんなでやってきたのは公園墓地よ。そう、わたし達のママが眠ってる、公園墓地。


「来たよ、ステファニー。約束通り、家族三人で会いに来た。私は原稿の締め切りの約束以外は、破ったことがないからな」


 ママの名前と目線を合わせたパパが、優し気な声色でそう呟く。パパったら、一人でママと約束してたのね。あと原稿の締め切りは破らない方が良いと思うわ。またローガンさんがカンカンよ。


「私達は、また家族に戻ることができた。それもステファニー、君のお陰だ。死んでからも苦労かけてばかりで、本当にすまない。私は、もっと頑張るよ。君が安心していられるように、パパとして頑張っていく。約束だ」

「……ママ。やっと、ジェニーに言えたよ」


 話し終わったパパが退いて、次にしゃがみ込んだのはお姉ちゃんだった。


「何年も何年も、僕はジェニーに嘘をつき続けてきた。正直、辛かった。僕のことを無邪気に信じてくれる彼女に、嘘をつき続けるのは……でも、それも。やっと終わったよ。それに、さ。僕、水のトラウマも、徐々になくなってきてる気がしてるんだ。あの時ママが、背中押してくれたから。相変わらず泳げないままだけど、もう水自体は、あんまり怖くないんだ。順番に、練習していくよ。ありがとうママ。今後は嘘をつかずに、ジェニーを守っていく。僕はジェニーのお兄ちゃんなんだ。まだまだ頼りないとこも多いけど……やれることを、頑張っていくさ」


 お姉ちゃんはそう言うと立ち上がって、もう一度ママにありがとうって言った。次はわたしの番ねっ! わたしはママのお墓の前に立ったわっ!


「ママっ! この前は会いに来てくれてありがとうっ!」

「えっとね、ジェニー。あれは僕がママの恰好してただけって……」

「ノア。それ以上は、何も言わなくて良い」


 後ろで解ってないお姉ちゃんを、パパが大丈夫だって言ってくれてる。うん、大丈夫だよ、お姉ちゃん。


「わたし十歳になったのよ? もう一人前のレディーよねっ! いずれは写真のママみたいに、スタイル抜群の美人さんになっちゃうんだからっ! それでね、わたしは女優になるのっ! 映画やテレビに引っ張りだこの、大人気女優よっ! たくさんの男から言い寄られて、毎日毎日大変さんだわっ! でも女優になるのって大変みたいなの。お勉強もいっぱいしなきゃいけないし、スポーツも頑張らなきゃいけないわっ! 辛いこともいっぱいあるかもしれないけど、笑ってれば何とかなるわよっ! だって偉い先生も言ってたんだからっ! 笑いながら頑張っていくわねっ! ……だからね」


 そこで一度言葉を切ると、わたしはママのお墓の前にしゃがみ込む。目の前にあるステファニーって文字の向こうに、ママが見える気がするわ。


「ちゃんとわたしのこと、見守っててね。わたしはちゃんと、笑ってるから。ママが一番可愛いって言ってくれたから、わたしはずっと、笑ってるよ。素敵なパパと、素敵なお姉ちゃんと一緒に。大きな声で笑ってるから。わたしが、わたし達が一生懸命生きていくのを、ちゃんと見ててね。約束だよ?」


 その時わたしの耳に、微かに聞こえた気がした。


『約束よ、ジェニー』


 この前みたいにはっきりとはしてなかったけど、ちゃんと届いてたから。わたしは大きな声で、「うんっ!」って返した。ママとわたしの約束っ! 嘘ついたらサウザントニードルズねっ! 怖いっ!


「……じゃあわたし、そろそろ学校に行ってくるっ! 遅れると先生が怖いもんっ!」


 そうしてわたしは立ち上がると、ママのお墓にクルリと背を向けた。うん、もう大丈夫ねっ! あとわたしが言いたいのは、これだけ。


「パパ、お姉ちゃん、ママ。いってきま~すっ!!!」

「「「行ってらっしゃい、ジェニー」」」


 走り出したわたしの背中に、三人の声が聞こえてきた。わたしは振り返って、笑顔で手を振った。手を振ってくれているお姉ちゃんとパパ、そして見えないけど、確かにそこに居てくれているママ。わたしだけの、大切な家族。みんなが見守ってくれてるから、わたしは笑顔になれるの。

 人生、笑ってれば何とかなるわっ! 辛いこともある。苦しいこともある。でも、案外何とかなるのも人生よっ! 何ともならなかったらご愁傷様ねっ! だけど思い返してみると、悪くなかったんじゃないか、なんて思えてくるから不思議よねっ!


 きっと大丈夫よっ! 辛いことは、苦しいことは、いつまでも続かないわっ! 諦めちゃ駄目よっ! 今は辛くても、未来なんて解らないんだからっ!

 だから終わった時に、笑っちゃおうっ! ああ、今日も良い天気っ! 笑う理由なんてそれだけで十分よっ! 笑う門にはハッピーカモーンっ! 幸せも不幸せも、せっかくなら笑顔で迎えちゃうんだからっ!


 さあ、みんなで笑いましょうっ!


「HAHAHAHAHAHAっ!!!」


 ――「アイムジェニファー!」 完

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