第八話① お誕生日会がパワーアップだぜッ!
あれから少し経って、わたしとお兄ちゃんは病院から出てきていた。念のためにと身体中を検査して、少しだけ入院して。何にも問題ないって解って、退院することになった。
気づいたら、もうわたしのお誕生日会の日になってた。何にも準備できなかったし、招待した子たちに悪いことしちゃったかな、って思ってたんだけど。
「さあさあさあさあッ! やって行くぜお前らァッ! この前出来なかったフェスの埋め合わせ兼、ジェニファーちゃんのお誕生日フェスライブだァァァッ!!! 盛り上がっていくぜ、レディース、アーンド、バーバリアンッ!!!」
「「「ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」
わたしの目の前にあるのは、『ジェニファーちゃん十歳のお誕生日おめでとうフェス』と書かれたアーチの入り口。会場中に聞こえるくらいの規模で放送されている、Team R’sのライブ音声。そこかしこに出店している様々な出店。しかも出店のほとんどに『ジェニファーちゃんはタダッ!』と書いてあるの。
うん。わたし、何が何だかさっぱりさっぱり解らないわっ!
「ぱ、パパ? こ、これ、何?」
「びっくりしたかい、我が娘よッ!」
一緒に来てくれたパパに聞いてみたら、どーだ凄いだろう、と言わんばかりの様子よっ! うん、びっくりしたわっ! っていうか、びっくりじゃ済まないくらいの心地よっ! わたし、こういう時、どういう顔をしたら良いか解らないの。
「ローガン君がフェスの関係者達に掛け合ってくれてねぇッ! この前のフェスを中止させちゃったからチケット代金とその穴埋めにって、わざわざこの日に合わせてフェスをやり直してくれたんだよッ! ここにいるみんなが、ジェニーのお誕生日を祝ってくれるのさッ!」
凄いわっ! この状況を手短に説明してくれるなんて、びっくりよっ! 脳みそは一ミリも理解できてないけどっ!
「簡単に言ってるけど、千人規模のフェスを再度やり直すなんて、ローガンさんって一体どういうコネを持っているんだい?」
「ノア。世の中には、触れちゃいけない部分があるんだ。解るね?」
「オーケーパパ。ゴッドにノータッチならチャイニーズ無問題だ。それじゃジェニー、少しの間お店を回ってきてくれないかい? 僕とパパは、ちょっとやることがあってさ」
するとお兄ちゃんとパパはそう言い残して行ってしまったわ。どうしたのかしら、やることって? まあ良いわ。時間になったら中央ステージに来てねって言ってたし、それまではゆっくり見て回っちゃおっとっ!
「フルーツサンドくださいっ!」
「はいよ、一個……なんだジェニーちゃんじゃないか。君ならタダだよ、はいどうぞ」
「わーいっ!」
って言うか本当にわたしだけタダなんだわっ! 他にもジュースやお菓子の出店に行ったけど、全部無料でくれたのっ! なんだかお姫様になった気分っ! わたしはプリンセスジェニファーよっ!
「あっ、ジェニー。おーい」
「エマっ! それに先生もっ!」
「やあジェニー。この前は大騒ぎだったね」
一人で回ってたらエマとルーカス先生に出会ったわっ! 二人で逢引でもしてたのかしら? それならば大ニュースねっ!
「二人ともお幸せにっ! ゲファっ!?!?!?」
「ジェニー? たまたま先生と会っただけなんだから、勘違いしないで欲しいな」
「そうそう。早とちりするような悪い子は、先生がしまっちゃうよ?」
久しぶりの出会いなのに容赦なくEGKが飛んできちゃったわっ! 痛いっ! さっき食べたフルーツサンドが戻ってきそうよっ! あとうずくまってるわたしを先生が強制的に顔を上げてそう言ってきたんだけど、これがあれねっ! ジャパニーズ追いアタックってやつねっ! ごめんなさいっ!
「うん。元気そうなら何よりよ。一緒に回ろう、ジェニー」
「う、うん……」
「じゃあ私はここで。楽しんでおいで」
元気そうって言いながらわたしを元気じゃなくしてくるエマと一緒なんで、胸がドキドキしちゃうわねっ! もちろん、恐怖からよっ! ルーカス先生は行っちゃったけど、脅威はまだ去っていないんだわっ!
「……ジェニー」
何はともあれ。エマと二人で回ってたら、また声をかけられたわ。そこに立っていたのは……。
「あっ、ハワード」
クルクルパーマでいつものギリシャ人みたいな恰好しているわたし非公式のストーカー、ハワードだったわ。わたしにママの真実を教えてくれた彼。
「……申し訳なかった」
今、その彼が頭を下げて、謝っているわ。いつもベラベラと愛なんて抜かしていた口から、素直な謝罪を。
「今回の件は、ぼくが勝手にジェニーに伝えたことが原因だった。君に嘘をつかないことが何よりだと思ってたけど、結局ぼくは君の家族のことにまで考えが及んでいなかった。君とぼくしか見えていなかったんだ。本当に申し訳ない」
「ハワードが、謝ってる……?」
エマがびっくりしてるけど、わたしだってびっくりよ。だってあの自分勝手が服着て歩いているようなハワードが、こんな風に謝ってくるだなんて。
「……だからジェニー。ぼくは行くよ」
「へ?」
でも続いて彼が言った言葉は全く理解できなかったわ。
「ぼくは一度、自分を見つめなおしてくる。今回の件で、ぼくという人間がいかに小さいものであるのかを、思い知っちゃったからね」
確かにハワードはわたしよりも背が低いわ。
「君に相応しい男になる為に、ぼくは旅に出る。行き先はもちろん、哲学の故郷、ギリシャさ。ぼくは学ぶよ。愛を、そして真理をッ! 答えを得て、君の元に帰ってくる。今度こそ君を傷つけずに、大切にできる男になって。必ず……ッ!」
そう言うや否や、ハワードはクルリと後ろを向いたわ。
「じゃあね、ジェニー。この背中を、よく覚えておいてくれ。君の為に大きくなってくる、男の背中を……グッバイ」
そして、とことこと歩いていっちゃうハワードだったわ。わたしとエマはその背中を、何とも言えない味わい深い表情で見送ることになったわ。
「こっちの返事も何もないままに一方的に謝って、自己完結した上で勝手に行っちゃったんだけど……ジェニー。あれ、どうするの?」
「……考えるだけ無駄ねっ! 忘れましょっ!」
「多分、最適解だと思う」
結局わたしは、あのクルクルパーマのことを忘れることにしたわっ! うん、本当はこう、色々とぐちゃぐちゃした思いもあったんだけど。勝手にいなくなってくれるのなら、もうそれで良いわよねっ!
ぶっちゃけ未練も何もないしっ! ストーカーがいなくなってくれるのなら、わたしの生活も安泰だしっ! 待っててって言われたけどお返事はしてないから、別に待ってなくても良いわよねっ! バイバイハワードっ! シーユーネバーっ!
こうして懸念事項が一つ片付いたわたしは、約束の時間までエマと一緒にTeam R’sのライブを遠くから聞いて楽しんだわっ! 良い曲だったわよっ! 幼女万歳の一節さえなければねっ! 台無しだわっ!
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