第四話③ 家族の休日は、何もお出かけばかりじゃないのさ。
またまたまた日曜日よっ! お天気も良くて絶好のお出かけ日和だけど、今日は何処にもお出かけしないの。今日は家でのんびりする日。お昼ご飯を終えた後、みんなでリビングに集まって思い思いのことをしてるわっ!
「う~ん、全然ドロップしないわ。もう時間がないのに、あと三個も素材が必要なんて……」
「あっ、フォロワーさんの投稿が更新されてる。どれどれ……へー。良い色の服じゃないか。いいねっと」
「フンッ! フンッ! いいぞ、ヘラクレス。もっといぢめて欲しいのか? この欲張りさんめッ!」
わたしはソファーに寝転がって、お姉ちゃんに膝枕してもらってるわ。いつもやってるスマホゲームの周回をしてるんだけど、全然お目当ての素材がドロップしないの。時間指定ダンジョンだから、ここで取れなかったら次は夕方まで潜れないわっ! 石を割る時が来たようね。
お姉ちゃんはわたしを膝枕したまま、同じくスマホを弄ってるわ。口ぶり的に、おそらくSNSをやってるのね。昔はお姉ちゃんも投稿してたんだけど、毎回バズる上に変なストーカーに付きまとわれるからって止めちゃって、今は見る専門になったらしいわ。一時期投稿してすぐにいなくなっちゃったから、ネット上では伝説になってるみたいね。流石はお姉ちゃんっ!
そしてパパは筋トレしてるわ。ヘラクレスって言ってたから、多分腹筋してるのね。ご飯の後なのに、お腹なんて鍛えて大丈夫なのかしら? まあパパだから平気よね。
「……あーっ! まだ回収できてないのにーっ!」
と思ったら、ダンジョンの時間が終わっちゃったわっ! せっかくデイリーミッションで得た石まで割ったのに、これじゃあんまりよっ! 来月はガチャが引けないかもしれないじゃないっ!
「なんだいジェニー。また集めきれなかったのかい?」
「もーっ! なんでわたしばっかり出ないのよーっ! ガチャだっていっつもハズレばっかりじゃないっ! 渋いっ! 渋いわっ! 運営がわたしのアカウントだけ確率操作してるんじゃないのーぉっ!?」
「ピンポイントで君のアカウントを狙い撃ちにするメリットがないよ」
スマホをしまったわたしに対して、お姉ちゃんが冷静に事実を突きつけてくるわっ! そんな現実は欲しくないのっ! 欲しいのはわたしが思い描く未来よっ! 十連ガチャしたら全部が虹色っ! SSRだけの夢のスマホゲーム生活よっ!
「それよりお姉ちゃん、一緒にゲームしない?」
「良いよジェニー。相手になろうか」
「やったっ! じゃあカートやろカートっ!」
「望むところさ」
次はお姉ちゃんと一緒にゲームをするわっ! いっつも負けてるけど、今日こそ勝ってやるんだからっ!
「まだまだだね、ジェニー?」
「もーっ! お姉ちゃんのばかーっ!」
全く手加減してもらえないままに負けちゃったわっ! 大人気ないっ! お姉ちゃん大人気ないわっ! レースゲームで周回遅れになるなんて、ハンケチを噛みしめる勢いのアメリカンガッデムよっ! きーっ!!!
「もうゲームやーめた」
「じゃあジェニー。パパと筋トレなんかどうだい?」
「やるーっ!」
引きこもってばかりじゃ駄目よっ! ちゃんと身体も動かさないと不健康になっちゃうわっ! だから次はパパと筋トレよっ! 相変わらずパパは全裸だけど、もう慣れちゃったわっ! あははっ!(白目)
「いっちに、さんしっ!」
「良い調子だ我が娘よッ!」
二人並んで腕立て伏せよっ! 両手を肩幅より少し広めに広げて、両足も真っすぐ伸ばして身体全体が一本の棒みたいにすると良いって、パパが言ってたわっ! きついっ! しんどいっ!
「もう駄目~っ」
「HAHAHAHAHAHAッ! まだまだだなジェニー。そんなんじゃパパみたいにはなれないぞ?」
将来は女優さんになりたいけど、パパみたいにはなりたくないわっ! ムキムキマッチョよりも、キュウって引き締まった美しい身体こそ理想なのよっ! もちろん、おっぱいはマシマシよっ! ボンキュッボンの身体で映画にもバンバン出て、男の人なんてメロメロにしちゃうんだからっ!
「疲れたー。わたしお昼寝するー」
「はいはい。夕飯前には起こすからね」
「HAHAHAHAHAHAッ! よーし、パパはもう二セットやっちゃうぞッ! フンッ! ヌゥゥゥンッ!」
そのままわたしは自分の部屋に戻ることにしたわっ! 疲れたらお休みするのっ! 鍛えてばかりじゃ駄目なのよっ! 休息が大切ねっ! いっぱい寝て、いっぱい大きくなるわっ!
「ふあーあ。パパ、お姉ちゃん、お休みーっ!」
「「お休みジェニー」」
わたしが欠伸交じりに声をかけると、二人は笑顔で返事してくれたわっ! そしてもうすぐわたしの十歳のお誕生日会っ! わたしのお姉ちゃんとパパっ! ここにママも入ってくるのねっ! 楽しみだわっ! 目前に迫ったそのイベントにワクワクが止まらないわっ! うふふふふっ!
「……じゃあ。ちょっと行ってくるよ」
「……いってらっしゃい。早めに帰ってきてね、パパ」
「……今度こそ、ちゃんと言うんだろう?」
「……うん」
でもベッドに入ってからそんなやり取りが聞こえてきたわ。あれ? パパ、筋トレするんじゃなかったの? 何処かにお出かけ?
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「久しぶりに来たよ、ステファニー」
マイケルがやってきたのは街はずれにある公園墓地であった。等間隔で並べられている墓石の一つの前に立ち、しゃがみ込むと持参した白いカーネーションを添える。
「君がいなくなってから、とにかく大変だったよ。ちゃんと一人でパパができているのか、いつも不安だ。でもね、君が産んでくれた子ども達は、みんな元気いっぱいだ。こんな私にはもったいないくらいの、自慢の子ども達さ。聞いてくれるかい? この前なんかピクニック前に雨が降ってきてな……」
刻まれたステファニーという文字に目線を合わせつつ、マイケルはそう口に出す。彼が語ったのは、家族で過ごした楽しかった思い出。彼と、ノアと、そしてジェニファーの三人で遊んだ、かけがえのない記憶。話している彼自身も、とても楽しそうであった。
「今度、遂にジェニファーが十歳になる。そこでちゃんと伝えようと思う……七年前の事故で、君がもう亡くなっていることを」
一通り話し終わった後、マイケルはそう続けた。その声色には、決意が込められている。とうとう打ち明けるのだ、と。
「幼くて、君の死を受け止められなかったジェニファーに、今度こそ伝えるよ。ちょうどあの事があった時の、ノアと同じ年になるんだ。大きくなったよね、あんなに小さかったのにさ。最初は私から話すつもりだったんだけど、ノアが自分で話すって言ってたよ。だから、ノアに任せるつもりなんだ。ただノアがちゃんと話せるか。そして誤魔化し続けてたことで、ジェニファーがどう思うのかって不安がない訳じゃないけど……」
彼はそこで、一度言葉を切る。そして一度瞳を閉じると、ふーっと息を吐いた。
「……信じるよ。ノアとジェニファーなら、ちゃんと乗り越えてくれるってさ。親が子どもを信じなかったら、一体誰が信じてあげるんだい? だからさ、私は信じてる。ノアを、そしてジェニファーをね」
再度目を開けたマイケルは、すっと立ち上がった。
「また来るよ、ステファニー。すぐに来る。知っているだろう? こう見えて、私は結構寂しがり屋なんだ。だから」
一度言葉を切ると、彼はクルリとお墓に対して背を向けた。
「――次は、家族三人で会いに来る。楽しみに待っててくれ」
それだけを言い残して、マイケルは歩き出した。亡き妻のお墓から遠ざかっていく彼の足取りに、迷いはない。必ずここに、みんなで戻ってくるんだという決意は、固かった。
「……これはビックリした」
そしてそんなマイケルのことを陰から見ている存在があった。ジェニファーの同級生であり彼女のストーカーである、ハワードだ。彼はストーカーであったが、今回居合わせたのは本当に偶然であった。街の図書館からの帰り道、たまたま通り道にあったこの公園墓地に眠っている彼の祖父のお墓に立ち寄っていこうと思い、ふらりとやってきただけなのだ。
まさかそこで、想い人であるジェニファーの父親を目撃するなんて、微塵も思っていなかった。そして彼が零していた、言葉さえも。
「ジェニーの話じゃ、彼女のママは何処かに出ている筈じゃなかったのか? しかし墓地があり、そして彼女の父親が参りに来ていたとなれば、既に亡くなっているという情報の確実性は否めない。だが、念のために事実確認をしなければ。だって、未来の妻のことなんだからね。安易なことは言えないさ。お義父様は七年前の事故と言っていたな。ということは、七年前に彼女のママが亡くなってしまうことになった事故があった筈だ。人が亡くなった事故なら、もしかしたら過去の新聞にも載っているかもしれないな。調べてみなければ。まだ図書館は開いている筈だ……」
ハワードは頭の中で情報を整理すると、動きだした。聞いてしまった内容を、確認する為に。再び図書館へと駆け出した天然パーマの少年の姿を、マイケルが把握することはなかった。
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