第四話② こんなに可愛い男の娘の写真撮影会だってッ!? 金出しても行くのが漢ってもんさッ!


 家族の休日リベンジよっ! 週が変わって新しい日曜日。わたしとお姉ちゃんとパパの三人で、遊園地にやってきたわっ! 天気はもちろん晴れっ! 同じ轍は踏まないのよっ! 踏んでほしかった轍さんが残念そうにしてるわっ! ドMねっ!


「わーいっ! 遊園地なんて久しぶりーっ!」

「こらジェニー、先走っちゃ駄目だよ。迷子になっちゃう」

「三人分のフリーパスを買ってきたぞッ!」


 やがてパパが三人分のチケットを買ってきてくれたわっ! これさえあれば、今日一日は遊園地の乗り物に乗り放題よっ! サブスクってやつねっ! サブロウ君がスクスク育つの略らしいわっ! わたしは詳しいのよっ! えへんっ!


「じゃあジェニー。何に乗りたい?」

「ジェットコースターっ!」

「HAHAHAHAHAHAッ! ……パパは外から応援してるから」

「「まあまあパパも一緒に」」


 パパったらその見た目に反して、絶叫系はほとんど駄目なのよっ! 待ち時間中は内股になって、お姉ちゃんの服の裾を掴んでいたわっ! こういうところだけ乙女みたいなのねっ!

 やがて順番が来たわたし達は、落とさないようにお財布とかの貴重品をロッカーに預けて、そしてコースターに乗り込んだわっ! 今から落ちるのが楽しみねっ!


「わぁぁぁあああああああああああああああああああいっ!!!」

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAッ!!!」

「ぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああッ!!!」


 大喜びのわたしとお姉ちゃんの後ろで、一人で絶叫してたのがパパよっ! 絶叫系だからちゃんと絶叫してるのねっ! パパったら偉いわっ! 涙と鼻水も出ててまるで絶叫系が苦手な人のお手本みたいな感じになってるわねっ! 教科書会社に売り込んでこなきゃっ!


「あー、楽しかったっ! わたしお腹空いたーっ!」

「そうだね。午前中で絶叫系はほとんど制覇できたし、お昼にしようか。マヨの補給しなきゃ」

「ま、待って。ぱ、パパね。足が、生まれたての小鹿みたいなの。もうちょっとゆっくり、ね?」


 プルプル震えながら歩いてるパパは、どっちかって言うと生まれたてのゴリラかしらっ!? 自慢の筋肉が全く機能していないわっ! 整備不良ねっ! ドックに入れなくちゃっ!

 そのままわたし達はレストランに入って、お昼ご飯タイムよ。わたしはフルーツサンド。パパはパンケーキ。お姉ちゃんはマヨネーズよっ! 目の錯覚じゃないわっ!


「美味しかったーっ!」

「あっ。ジェニーったら口元にクリームがついてるよ。はい、取れた」

「よーし。じゃあちょっと休憩したら、また乗り物に行くぞッ! ……今度は怖くないやつ」


 食事を終えたわたし達は、食休みをするわ。流石に食べてすぐ動くと横っ腹が痛くなっちゃうんだもの。午後は何に乗ろうかしら? 絶叫系は午前中に制覇しちゃったし、午後はゆっくりできるのが良いわねっ! メリーゴーランドとか乗りたいわっ!


「さて、と。そろそろ支払い、を……」


 ちょっとお話した後にポケットを探ってたパパが、おもむろに動きを止めたわ。どうしたのかしら?


「HAHAHAHAHAHAッ! すまない娘達よッ! 財布を落としてしまったッ!」


 ガサゴソと服のあちこちを調べた後に、パパは笑いながらそう言ったわっ! お財布を落としちゃったのねっ! 緊急事態だわっ!


「もー、何してるんだよパパ。じゃあここは僕が払っておくから、まずは探しに……」


 そう言って自分のポケットを漁ったお姉ちゃんも、同じく動きを止めたわっ! そのままガサゴソと服のあちこちを調べる様子がパパそっくりっ! 流石は親子ねっ!


「HAHAHAHAHAHAッ! ごめんジェニー、僕も落としちゃったみたいだ」

「もーっ! パパもお姉ちゃんもだらしな……」


 笑ってる二人を見ながらわたしは自分のお財布を出そうとして、そのままガサゴソと服のあちこちを調べ始めたわっ! あれ? あれれれれっ!?


「まさか、ジェニーも?」

「……HAHAHAHAHAHAっ!」

「一家揃って財布を落としたかッ! 流石は我が娘達ッ! HAHAHAHAHAHAッ!」


 まさかわたしまでお財布がないなんて思わなかったわっ! これでみんなお揃いねっ! これがあれねっ! ブラッドは争えないってやつねっ! 争えないならブラッドをタコ殴りにするしかないわっ! バイバイブラッドっ! あなたのことは忘れないっ!


「笑ってるのは良いんだけど、ここの支払いどうするんだい? 僕ら三人揃って素寒貧じゃないか。無いものは出せないよ」

「うーむ。お財布を探すか、何かお金を得られる手段があれば良いんだが」

「わたしに良い考えがあるわっ!」


 家族会議になったけど、わたしに良い案があるわっ! すぐに思いつけるなんて、わたしったら天才ねっ!


「お姉ちゃんの写真撮影会をしてチップをもらいましょうっ!」

「そりゃ名案だッ!」

「ストップ」


 パパがその手があったかーと手を叩いている隣で、お姉ちゃんが止まれをかけてきたわっ! ノンノン。この程度じゃわたしは止まらないわよっ!


「どうして僕の写真撮影会になるのさ? 絶対に嫌だね」

「えーっ! じゃあお姉ちゃん、他に良い方法あるのー?」

「グッ……い、今はない、けどさ」


 人の意見を拒否するなら代替案を出さなきゃ駄目よっ! 嫌だ嫌だばっかり言ってたら会議は進まないわっ! そうやって時間を無駄に浪費するから、仕事する時間がなくなって残業する羽目になるのよっ! 社会の闇ねっ! わたし働いたことないけどっ!


「頼むお姉ちゃん。このままじゃジェニーに食い逃げさせてしまうことになる。それは犯罪だ。犯罪はいけない。解ってくれるかい?」

「う……うううッ!」


 やがてパパがお姉ちゃんを諭したことで、粘ってたお姉ちゃんが遂に折れたわっ! やったっ! 遂にお姉ちゃん合意のもとの撮影会よっ! 家族三人でJC四世の創設だわっ!


「さあさあ寄ってらっしゃい撮ってらっしゃいっ! ここにいるのは女の子と見間違う程の奇跡の男の娘っ! わたしのお姉ちゃんことノアちゃんよっ! 今なら彼女と一緒に写真を撮り放題っ! みんなこぞって参加してねーっ!」

「「「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」

「な、なんでこんなに人が……?」


 そしてレストランの一角でわたしが声を上げたら、お店中の人が喝采を上げたわっ! 流石はお姉ちゃんっ! 男も女も、その戸惑った表情でイチコロよっ!


「はい確かに。じゃあお姉ちゃんと写真を撮ってね。ちなみにおさわりは禁止だ。もし我が娘にちょっかいを出そうものなら……パパのゼウスの糧になってもらおう」


 パパが右の上腕二頭筋で睨みを効かせてくれてるお陰で、お姉ちゃんの身の安全も確保よっ! 家族みんなでJC四世っ! これが自営業ってやつなのねっ! あははははっ! お金がどんどん舞い込んでくるっ! 儲けが止まらなくて笑いも止まらないわっ!


「お姉ちゃんっ! もっと色っぽいのちょうだいっ!」

「い、色っぽいの? こ、こう、かな……?」

「「「ふぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!!」」」


 するとお姉ちゃんがTシャツを両手でまくり上げて、おへそを見せてくれたわっ! くびれがある腰回りにちょこんとある小さめのおへそっ! ナイスエロスっ! 健全なエロスっ! 恥ずかしそうにそっぽ向いてるのもポイント高いわっ! さっすがお姉ちゃんっ! 解ってる~うっ! お客さん達のテンションも絶好調を超えて絶頂に達しそうよっ!

 こうしてわたし達家族で運営するJC四世の初イベントは、大成功を収めたわっ! パパが会計してくれたけど、ひと月アルバイトしたくらいのお金を得られたそうよっ! ビックリが仰天してるわっ!


「に、二度と、やらないからね……ッ!」


 顔を真っ赤にしてプルプル震えてるお姉ちゃんっ! その姿も可愛いっ! スマホで撮ろうとしたら、ガシッと手首を掴まれちゃったわっ! うん、止めますっ!


「まあまあ、お姉ちゃんのお陰で食い逃げしなくても済んだ訳だし。可愛かったぞ、我が娘よ」

「だから僕は息子だってッ! パパまでそんなこと言うなんて……こうなったらもっかい絶叫系に乗ってもらうからね」

「う、嘘だろマイドーター……?」

「アイムサンッ!」


 そうしてお姉ちゃんがパパを無理矢理ジェットコースターの方に連れてっちゃったんだけど、そこでわたし達を待っていたのはジェットコースターの案内のお姉さんだったわっ!


「あっ、先ほどのご家族様ですか? ロッカーに財布類を忘れられてましたので、館内放送で呼びかけようと思ってたんですよ。戻ってきてくださって嬉しいです」

「「「…………」」」


 やがて差し出されたのは、わたし達三人のお財布。そっか、乗る前に貴重品をロッカーに預けてたんだっけ。終わった後に回収するのを、すっかり忘れてたわ。


「…………」

「…………」

「…………」

「「「HAHAHAHAHAHAッ!!!」」」


 顔を見合わせたわたし達は、三人で笑ったわっ! そりゃもう大きな声で笑ったわっ! 三人で失くしたって時に気が付けば良かったわねっ! みんなで一緒に失くしたなら、みんなで一緒にお財布をしまった時に決まってるじゃないっ! 言われてみればそうだったわねっ!


「……って言うか、あんな撮影会なんかしなくても。お店の人に事情を話して皿洗いしたり、ゴンちゃんでも良いから連絡して、立て替えてもらったりすれば良かったんじゃない?」

「…………」

「…………」


 お財布を受け取った時に、お姉ちゃんがポツリとそんなことを言ったわ。それを聞いたわたしとパパ、そしてお姉ちゃんの三人で再び顔を見合わせるの。


「「「……HAHAHAHAHAHAッ!!!」」」


 そして笑いましょうっ! もう笑うしかないわっ! 人生、笑ってれば何とかなるものっ! こういうやり切れない思いがある時こそ、笑顔にならなくちゃっ! さあ、みんなで笑いましょうっ!

 HAHAHAHAHAHAッ!!!

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