第三話③ 小説家のお仕事第ファイナルステージっ! 良い子には見せられないよっ!
「こ、こら、ジャック……あんっ」
「全く。いつもは元気なのに、急にしおらしくなっちゃうんだから……そんな君も、素敵だよ。カーリー」
ジャックがカーリーの胸に手を這わせると、彼女は甘美な声を漏らした。彼女の持つ柔らかい乳房が、彼の手の動きに合わせて形を歪ませていく。指で弄びつつもその動きは円を描くようであり、胸の全体を動かされている心地であった。
淫靡なその行為に加えて、それをしてくれているのが最愛のジャックということも大きい。カーリーの頬が赤らみ、彼女の息遣いはまるで走った後であるかのように段々と荒いものへと変化していく。それに合わせて、彼女の中で気持ちが高ぶっていくことを感じていた。
「もっと感じて、カーリー」
「っは、っは、じゃ、ジャック、んんんっ!」
カーリーが縋るようにジャックの方を見やると、彼に唇を奪われた。手入れのしていない少しかさつく唇が当たったと思った次の瞬間、ぬるりとしたものが彼女の口内に侵入した。思わず押し返そうとした彼女の舌に、逆に絡みついてくる。
それは彼の舌であった。胸の愛撫を止めないままに、彼の舌は彼女の舌をも弄ぶ。舌の表から側面、そして裏へと順番に舐め回され、更に息遣いが荒くなる。口の端から漏れそうになる唾液すら彼によって掬い取られ、一滴すら逃さないという意気込みが見えた。
「っぷはぁっ! はあ、はあ」
「まだだよ、カーリー」
「じゃ、ジャック……んっ!」
ようやくキスから解放されたカーリーだったが、息をつく暇もないままにジャックは手を動かした。左手は相変わらず彼女の乳房を弄っていたが、右手はやがて彼女の女性として一番大切な部分へと伸ばされていき……。
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「ハア、ハア、ハア、ハア……」
ねえお姉ちゃん。さっきから目隠しされててわたし全く見えないんだけど、パパは何を書き始めたの? 耳にパパのハアハアした息遣いしか聞こえてこなくて、怖いよぉ。
うん、ジェニー。君にはまだ早い。そしてこんな公衆の面前で、パパは一体何を書いてるんだ? 口元からよだれ垂れてるし、何よりも顔がキモい。僕を見て勃起してた変質者と同じ顔してて、嫌悪感がすごい。
「よし、終わったッ!」
「先生ッ! こんなところにいたんですねッ!?」
あれ? お姉ちゃん、誰か来たの?
うん、もう見ても良いよジェニー。君の教育に悪い部分は、もう終わったからさ。
「やあローガン君。いつもすまないね」
「いつもすまないね、じゃありませんッ! 今日は午後にお伺いするって言ってたのに、どうして家にいなかったんですかッ!?」
やっと視界が開けたわっ! と思ったらパパの所に来て大声を上げてるお兄さんがいるわねっ! 茶髪の髪の毛をオールバックにした、フチなし眼鏡のお兄さん。黒いスーツに黒の革靴で、白いワイシャツに赤いネクタイをした、いかにもなサラリーマンよっ!
彼の名前はローガン=ムーアさんで、パパの担当編集さんだね。パパが書いた原稿を出版社に持って行って、本にして売るのが彼の仕事だよ。つまり、パパが原稿を出してくれないと、彼も仕事ができないって訳だね。この人実は出版社の中でもかなりのエリートで、マスコミとも繋がりが深いやり手の編集者さんって有名らしいんだけど。パパの相手をしてると、振り回されてるようにしか見えないんだよね。いつもお疲れ様です。
「HAHAHAHAHAHAッ! そうだそうだすっかり忘れていたよッ!」
「まさかまだ原稿ができてないからって、忘れたフリをして逃げたんじゃないでしょうね?」
「ギクリッチョッ!? そ、そんなことある訳ないじゃないか……」
すごいわっ! 見て見てお姉ちゃんっ! パパったら図星を突かれて、あんなに綺麗に目を逸らしているわっ!
ほう、これは芸術点が高いね。ギクリッチョって自分で言ってるのもポイント高いよ。予選突破は確実かな。って言うかパパ、原稿の締め切りがヤバいのに、朝っぱらは筋トレしてたんだ。良い根性してるね。
「じゃあ今ここで出してください。今日中に上げていただかないと、雑誌の発売に間に合いません」
「なあに、心配するなローガン君。原稿ならついさっき、クラウドの共有フォルダにアップロードしたばかりさ。それに、パパが締め切りを守らなかったことなんてあったかい?」
「締め切りの数だけ破られたのは良く覚えています。今日だって本来の締め切り日は、とっくの昔に過ぎてるんですからね? あと、貴方は私のパパではありません」
「HAHAHAHAHAHAッ!」
約束した数だけ約束を破ってるなんて凄いわっ! 打率十割じゃないっ! 伝説のバッターねっ! 大リーグの首位打者も真っ青よっ!
家であんなに遊んでる(筋トレ)からさ。ジェニーはこんな大人になっちゃ駄目だよ。
「では拝見します……」
そう言って、ローガンさんはパパの向かい側の席について原稿を読み始めたわっ! 最近は何でもかんでもクラウドに上げちゃえば気軽に共有できるから便利よねっ! お陰でお姉ちゃんのオフショットも……。
んんん? ジェニー、今なんて言ったのかな? 君はこの前ルーカス先生にしこたま怒られて止めたんじゃなかったのかい? 僕の前でももうしませんって言ってくれたよね?
な、な、なーんでもないっ! なんでもないわっ! そうそう、お姉ちゃんの言う通りよっ! わたしはJCを廃業したんだから、もうお姉ちゃんのオフショットを一枚いくらで売ってる、なんてことはしてないに決まってるじゃないっ!
そうだよね。じゃあジェニー。君のスマホを見せてくれないかい? どうしてこの話が出た瞬間に、隠すように裏手に回したのかな? もしかしてやましいことでもあるのかい?
「HAHAHAHAHAHAッ! どうだい、ローガン君ッ! 今回のは傑作じゃないかッ!? ここまで引っ張ってきた彼らを思う存分に」
「却下ァァァッ! なんですかこれはッ! ただの官能小説じゃないですかッ! ウチの雑誌が全年齢版だってご存じなのでしょうッ!?」
「い、いやしかし。十巻も引き延ばした所為で読者もパパも欲求不満で、寸止めされたみたいな心地をようやく解放しようと……」
「駄目ですッ! 今すぐ書き直してくださいッ!」
「今すぐッ!? おいおいちょっと待ってくれッ! 今すぐってことは、たった今この時を持って一からやり直せってことなのかッ!?」
ねえジェニー。僕は何も疑ってる訳じゃないんだ。ジェニーのことは家族として誰よりも愛してるし、誰よりも信頼してる。それをただ確認したいだけなんだ。君が持っているをスマホのロックを外してこっちに渡してくれたら、それで良いよ。それ以外、何もしてもらう必要なんてないさ。手間は取らせない。だからね、お兄ちゃんに渡してごらん?
ま、ま、待ってお姉ちゃんっ! か、家族とはいえスマホを見せるなんて、プライバシーにチョップかますようなもんじゃないっ! わたしはあの日以降心を改めて廃業した訳だし、それ以降学校でも販売はやってないわっ! それは事実としてルーカス先生も知ってるのっ! そうでしょうっ!?
うん、その話は聞いているよ。でもね、ノアたんを愛でる会マークツーとかいう非公式団体において、僕のオフショットの新作が未だに出回っているのも事実なんだ。おかしいよね、僕の家での様子なんてジェニーくらいしか撮ってないのにさ。
「当たり前じゃないですかッ! こんなのを印刷所になんて持っていけませんッ! ほら、さっさと書き直してくださいッ! 時間がないんですよッ!?」
「い、いやその。さっき書き切ったばかりで、ラブリーチャーミーとしての気力が……」
「シャァァァラァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアプッ!!!」
「ブヘラァッ!?!?!?」
「その情報は墓まで持っていってくださいって念書まで書かせましたよねェェェッ? 次その言葉を口にしたら……」
「わ、解ったッ! 解ったからその何処にそんな力があるのか解らない細い腕で強烈なアッパーカットを見舞うのは止めてくれッ!」
「つべこべ言ってないで書いてくださいッ! また編集長に土下座して済まそうったってそうはいきませんよッ! 今日という今日は、絶対に逃がしませんからねッ!」
「は、は……HAHAHAHAHAHAッ! こりゃ参ったッ! どうにもならんなッ! HAHAHAHAHAHAッ!」
全く、手間取らせてくれたね、ジェニー。後でお説教だからね。それよりもまずは、一体何処のサイトを使って販売してたのか……。
返してぇぇぇっ! 返してお姉ちゃんっ! わたしのお小遣いがぁぁぁっ!!!
結局パパはそのまま日付が変わるギリギリまで編集さんに缶詰めにされて、笑って泣きながら原稿を上げてたわっ! 最初に没にした原案の方がローガンさんに好評だったから、それを加筆修正する形になったのも間に合った原因の一つねっ!
そしてわたしはノアお姉ちゃんのオフショットをウェブのクラウド経由で販売してたことがバレちゃって、全部のアカウントが消去されちゃったわっ! 受け取ってたお金も没収されたし、お姉ちゃんからのお説教は次の日の朝まで続いちゃったっ!
ああ、朝日が目に染みる。こんなに気持ちの良くない朝は初めてっ! お姉ちゃんに怒られてた所為で結局宿題も出せなくて、学校でルーカス先生に追加でお説教受けちゃったし……これがあれなのねっ! 渡る世間はオンリーデーモンってやつなのねっ! 本当に世知辛いわっ! HAHAHAHAHAHAっ!
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