第三話① 小説家のお仕事第一ステージっ! 実況のジェニファーよっ!
「娘達を見送ったことだし、今日も筋トレをしようかッ!」
さあ始まったわっ! 題して、小説家を名乗っている我が家のパパの生態に迫る、よっ! 実況はわたしジェニファーと。
解説のノアだよ。ところでジェニー。僕たちは今日、タマキン小学校とメスオチ高校が揃って創立記念日というお休みをもらってた日なのに、わざわざ学校に行く振りまでして、こそこそパパを観察してるのはなんでなんだい?
そんなの学校でパパのお仕事について書きなさい、っていう宿題が出たからに決まってるじゃないっ! わたしはその宿題をこなすべく、パパの生態系を観察しなければならないのよっ!
普通に話を聞くだけじゃ駄目なのかい?
駄目よっ! リアリティーが足りないわっ! そんなんじゃ読者は動かせないっ! ロダンの考える人の像の方がまだ動き出しそうだわっ!
あれ動いちゃいけないタイプの銅像だと思うし、宿題の読者って先生だけだと思うけど。ま、面白そうだからこのまま協力するよ、ジェニー。
さっすがお姉ちゃんっ! 伊達に毎日マヨネーズキメてる訳じゃないのねっ!
おいおいジェニー。人の主食を危ないお薬みたいに言わないでくれよ。
「ふんッ! ふんッ! ぬぅぅぅんッ! 今日もキレてるな、マイマッスル?」
そうこうしてる内に筋トレが始まっちゃったわっ! これが小説家の一日の始まりなのねっ! パパの書斎にはダンベルにランニングマシーン、懸垂棒にヨガマットにボディープレートと。あとは倒れるだけで腹筋ワンダー●コアが設置されてるっていう、最早トレーニングジムのような有様よっ! 申し訳程度の本棚が霞んで見えるわっ! まずは腹筋ねっ! 執筆の為の筋肉を養っているんだわっ! 窓から差し込む朝日に照らされたパパの肢体は、まるで猥褻物陳列罪よっ!
まるでじゃなくてまんまだよ。どうしてパパは筋トレする時にいつも裸なんだろうね? っていうかパパ、家では服着てる方が珍しくないかい?
おそらく着衣っていう概念をアンインストールしちゃったのねっ! ちゃんと宿題用の提出用紙に書いておかないと。
宿題に年齢制限がつかないことを祈るよ。
「さあて次だ。フンッ! フンッ! 良いじゃないかゼウス。そしてヘラ。君たちはいつもパパの腕で高鳴っている。でも今日は、ヘラの方が元気かな? HAHAHAHAHAHAッ!」
次にダンベルに切り替えたわっ! 右の上腕二頭筋がゼウスで、左がヘラ。ちなみに腹筋がヘラクレスで、背筋がハデス。右太腿がポセイドンで、左がアルテミスよっ!
ここまで露骨にギリシャ神話に喧嘩売ってるのは、ウチのパパくらいだろうね。まあ言うだけならタダなんだろうけどさ。
「ふう、良い汗をかいた。良い文章を書く為には、良い汗をかかねばならんからなッ!」
文字を書くために汗をかく。上手いこと言ったつもりなのかしらっ!? お姉ちゃん判定、どうぞっ!
三十点。
赤点ねっ! 補習授業を受けなきゃっ!
「おっと、もうこんな時間か。お昼ご飯にしなければならんな」
結局午前中は筋トレで終わっちゃったわっ! さすがはハイスクールで先生に対して、具合が悪いからジムに行ってきて良いかって笑顔で挙手した逸話を持ってるパパねっ! もちろん笑顔で却下されたらしいわっ!
今のところ小説家らしいこと何一つしてないんだけど、ジェニーの宿題的に大丈夫なのかい?
いざとなったら捏造するわっ! 宿題が駄目になっちゃったらブックエンドすってんころりんだもんっ! だからでっち上げるのっ! ルーカス先生の採点さえ突破できれば、チャイニーズ無問題ってやつよっ!
さっき言ってたリアリティーは家出しちゃったのかな? 迷子になる前に探してあげようね。あと本末転倒をブックエンドすってんころりんって言うのは初めて聞いたよ。今度僕も使わせてもらうね。
「もしもしピザ屋か? ピザのLサイズを二枚。ドリンクはコーラで」
そうしてパパは宅配ピザを頼み、二リットルのコーラと一緒に届いたわっ!
あれだけ筋トレした後にピザとコーラとか、消費カロリーがカムバックキャンペーン中なのかな? 全部取り戻しちゃったね。
ねーお姉ちゃん。わたしもお腹すいたー。
そう言えば僕らは学校に行ったことになってるから、ご飯がなかったね。待っててジェニー。今サンドイッチを買ってくるから。
さっすがお姉ちゃんっ! わたしフルーツサンドが良いっ!
はいはい。僕はフライドチキンサンドと、いつものマヨネーズで良いや。あとジェニー。僕はお兄ちゃんだよ。
うん。解ったわお姉ちゃんっ!
悲しいね。解ったって単語が、どうやら僕とジェニーでは違う意味を持つようだ。辞書の改訂をお願いしなきゃね。
「ふう。やはりピザとコーラの組み合わせは最高だ。ピザだけだとイタリア料理だが、そこにコーラを足すことで一気にアメリカンになるからなッ! ピザのフットワークの軽さは、ボクシングの世界チャンプすら目指せるだろう」
ねーねー。お姉ちゃんのもちょーだい?
良いよジェニー。はい、マヨネーズ。
そっちじゃなぁぁぁいっ!!!
「さて。お腹も満たされたことだし、出かけるとするかな」
あっ。見てジェニー。パパが出かけるよ。
えっ? あっ、本当だっ! 実況に戻らなきゃっ! ごほん、ごほんっ! えーっと、パパが出かけたわっ!
珍しく服を着てるね。しかもスーツだ。これは排出率一パーセント以下のSSレアなパパだね。
「きゃーッ! 引ったくりよーッ!」
「HAHAHAHAHAHAッ! このカバンは頂いたーッ!」
「おいおい引ったくりじゃないかッ!」
と思ったら大変っ! 路上で無関係の人間の所有物を強奪して逃げる犯罪が、パパの目の前で行われちゃったわっ! 金髪の女の人が困ってるっ!
まさか引ったくりの現場に出くわすなんてね。運が良いのか悪いのか。さて、パパはどうするのかな?
もちろんっ! 無駄に鍛えてる筋肉で捕まえるに決まってるじゃないっ! これはとても良い絵になるわっ! わたしの宿題も、みんなの見本としてクラスで取り上げられるに間違いないわねっ!
犯罪者を捕まえるのって小説家の仕事なのかな? 文豪がいくら個人事業主だからって、多角経営する業種は選んだ方が良いと思うよ。
「退けェェェッ! そこの筋肉ダルマァァァッ!」
「来るかッ! ヌゥゥゥンッ! こんなこともあろうかと鍛えに鍛えたこの身体。今こそ解き放つ時ッ!」
引ったくり犯がパパに近づいていくわっ! そんな彼の目の前にいるのは筋肉ムキムキマッチョマンのHENTAIよ。さながら十三階段を上る死刑囚ねっ! 先に待ち受けるのが絶望だと、まだ解っていないんだわっ!
犯人はパパよりも二回りくらい小さいし、これは勝負あったね。
「ウォォォッ!!!」
「ヌゥゥゥンッ!!! ……あっ、どうぞお通りください」
と思ったら、パパは律儀に道を開けたわっ! 予想外過ぎて動揺が年中無休状態よっ!
嘘やんパパ。
「……と思ったのかァッ! フンッ!」
するとパパは、流れるような手つきでポケットからスマホを取り出して。
「シャッターチャァァァンスッ! ヌゥゥンッ! そしてェェェ……もしもしポリスメン?」
通り過ぎる引ったくり犯の顔をスマホで激写した後、マッスルポーズを取って、そのままポリスメンに電話したわっ! 一連の動きが玄人のそれよっ! パパラッ●チもびっくりねっ! 通報常習犯でもない限り、あそこまで綺麗に通報できなわっ!
でも写真撮った後に、いちいちマッスルポーズを取る必要はあったのかな? あの動作が無ければ、もう二秒は短縮できたね。世界を狙うなら、あの一手間は致命的さ。
「通報を受けてきました警察です。お荷物……失礼、犯人の姿はどちらに?」
「向こうに逃げました。写真はこちらです。そして被害者の女性があちらに」
パパのマッスル通報の後で警察が来てくれたわっ! そのまま事情聴取となって写真を渡し、被害者の女性と話をしてその場はお開きになったわねっ!
ちなみに後日、パパの写真が決め手になって引ったくり犯は捕まったことを申し添えておくよ。この国じゃ、悪は必ず成敗されるのさ。
えっと。パパは小説家で、朝起きたらまずは筋トレして。ピザとコーラを食べた後に引ったくり犯の写真を撮って、マッスルポーズを決めた後に警察に通報する、と。
小説家ってなんだろうね? 哲学者の新たなる命題だ。あとその宿題提出された先生、採点が大変そうだね。HAHAHAHAHAHAッ!
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