第一話④ 全く、ハードな一日だったぜ。こんなピンチは、母ちゃんの財布からスーパーのクーポン券を抜き取ったのがバレたあの時以来かもな……。


「わたしのお金……」


 わたしは今。街はずれの崖側に座って、ぬとねの区別がつかない表情をしているわ。俗に言う、FXで有り金全部溶かした人って感じね。虚しいわ。

 あの後ルーカス先生に見つかったわたしは、A級戦犯として職員室に連行されて。柔らかい口調のままひたすらに怒られるっていう地獄を経験してきたわ。もちろん、売上金は全て没収。みんなに返金されることになっちゃった。これじゃあコンビニで印刷してきた分、赤字確定ね。


「今日は一日良いことがなかったぁぁぁっ!!!」


 良い感じにイライラしてきたわたしは、溜めていた不満を一気に解放することにしたわっ! 欲求不満で濃いのがいっぱい溜まっちゃってるから、全部出してスッキリしたい気分よっ! 男の子と一緒ねっ!


「今日は朝から強盗さんが来ちゃったぁぁぁっ!!!」


 そもそもケチが付き始めたのは、朝から強盗さんが来たからよ。警察に運送されてったけど、覚えてろ、なんて言われちゃったわ。もしかして準レギュラーとして、今後も何回かウチにお邪魔してきたりするのかしら?


「エマにEGK喰らったぁぁぁっ!!!」


 強盗さんを警察に卸してから登校した学校で、エマの膝をもらう羽目になっちゃったわ。思い出しても鳩尾が痛いの。またトラウマが増えちゃったわね。

 そろそろトラウマ達の個室を作ってあげた方が良いのかしら? 大部屋だと一人が出てきた瞬間に他の子もみんな出てきちゃうから、大変だわっ! 早くリフォーム業者に見積もりをお願いすべきねっ!


「お姉ちゃんの写真売ってたのがバレたぁぁぁっ!!!」


 会員制にして、秘密厳守で今までやってきたJC。今日遂に、ルーカス先生による強制捜査が入っちゃったわっ! 顧客名簿は奪われ、売り上げは没収され、挙げ句にはお説教で午後が潰れたうえに二度とこんなことしませんって誓約書まで書かされちゃったのっ!

 酷いわっ! 今後わたしはどうやってお金を稼いだら良いっていうのッ!? せっかく商売が軌道に乗り始めてたのにっ! これがあれねっ! 出る杭でホームランってやつなのねっ! 世知辛い世の中だわっ!


 でも、わたしはあきらめないんだからっ! お姉ちゃんの写真は、まだまだ需要があるのっ! お説教が終わった後に元会員達から、またこっそり売って欲しい、ってご意見をいただいたんだからねっ!

 今後は売り方を考えないといけないわっ! 最近はウェブ上でも簡単に売り買いできるらしいから、サイトを探さないとねっ! JCは滅びないっ! 何度でも蘇るんだからっ!


「ストーカーと二人っきりにされたぁぁぁっ!!!」


 更にはハワードとかいう似非ギリシャ人ストーカーと二人っきりにされちゃったわっ! 助けてくれたのかもしれないけど、結果としてルーカス先生にも見つかった訳だし、あの時のひと時はわたしの人生で何一つプラスにはならなかったのねっ! 辛いっ!

 お姉ちゃんにはイケメンがいっぱい群がってくるのに、どうしてわたしにはあんなに気持ち悪い男の子しか寄ってこないのかしら? みんな見る目がないわね、もうっ! ぷんすこぷんよっ!


「はあ、はあ……あー、スッキリしたっ! HAHAHAHAHAHAっ!!!」


 一通り叫び終わったわたしは、また笑顔になったわっ! 嫌なことを吐き出して、身体が軽くなったんだもん。笑わないと損ねっ!

 人生、笑えば何とかなるわっ! どんな時だって、笑ってれば何とかなるのよっ! 今日だって色々あったけど、いっぱい笑ったらどうでもよくなっちゃったものっ! やっぱり笑うことって大切なのねっ!


 流石は学校で講演してた偉い先生が言ってただけのことはあるわねっ! ありがとう先生っ! 名前も顔も忘れちゃったわっ!


「ママっ! もうすぐ会えるのね、ママっ!」


 それにわたしには楽しみが待っているのよっ! 来月になれば、ママに会えるわっ! 胸にある鍵付きのペンダントは、ママとのお約束っ! これを持ってたらママに会えるって、お姉ちゃんが言ってくれたものっ! だからいつだって肌身離さず持ってるわっ!

 それに売り上げの一部は没収されたけど、まだまだお金は残ってる。それにお姉ちゃんの写真の需要だって、まだ枯れてないっ! わたしの戦いはこれからなのよっ! なんか打ち切り漫画の常套句みたいになっちゃったわねっ!


 でも、打ち切りなんてさせないんだからっ! わたしの物語は、全百巻に及ぶ大長編ストーリーよっ! 笑いあり涙ありの傑作なんだからねっ! ハンケチを用意しておきなさいっ! 無ければエチケット袋で構わないわっ!


「うんっ! 元気になったし、帰ろーっとっ! 今日はお姉ちゃんのハンバーグよっ! 楽しみねっ!」


 良い笑顔になったわたしは、カバンを引っ掴んでその場から帰ることにするわ。街外れの海が見える崖。断崖絶壁。本来立ち入り禁止になってる場所だけど、いつもこっそり来て嫌だったことを大海原に向かって吐き出す、わたしの特別な場所。パパにもお姉ちゃんにも内緒の、わたしだけの秘密基地ってやつねっ! 野晒しだけどっ!

 秘密を持ってる女の子って、なんか素敵っ! 秘密は女の子を美しくしてくれるのっ! 美容効果がコラーゲン並みなんだからっ! 多分見た目はプルプルよっ!


「ふふふっ。ジェニーったらこんな所にいたんだね。全く、女の子が一人で出歩いてちゃ危ないじゃないか。ぼくがこうやって見守ってあげてるから良いものを、変な人が後をつけてきたらどうするつもりなんだい? 全く、無防備なんだから。ぼくは必ず君を手に入れる。その為には、たくさん君のことを知らないとね。チャイニーズ曰く、敵を知り己を知れば百戦危うからず。恋は戦争。つまり君のことを知ることが大切って訳だ。任せて、ジェニー。君のことを君以上に知ってみせるからね。ぼくの名前はハワード。君と一生を添い遂げる男さ」


 遠くから何か聞こえた気がするけど無視よ無視っ! 多分、気にしたら負けだわっ! こういう時は何も言わないまま、ポリスメンを呼ぶに限るのよっ!

 わたしは家に帰る途中で通報して、後ろを歩いてたハワー何とかさんは職務質問されてたわ。誰かしら、わたしの知らない人? 気にしたら負けよっ! 何に負けるのかって? 知らないっ! わたしにも解らないわっ! 知らないことがあるなんて、わたしったらまだまだねっ! 一人前のレディーには、まだ遠いわっ!


 でも大丈夫っ! 負けそうになったって、何があったって。わたし達にはできることがあるものっ!


「HAHAHAHAHAHAっ!!!」


 そう、みんなで笑いましょうっ! 人生、笑えば何とかなるのよっ! みんなも覚えておいてねっ! わたしはもう一度、笑いながら帰ったわっ! HAHAHAHAHAHAっ!!!

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