13.「この、役立たず……っ!」(1/2)
*
「なぁ……はよ起きーや」
私は――冷やつく胸の感覚で目を覚ます羽目になった。間違いなく、人生で最悪の寝覚めだと断言できてしまう。
当然のように、
声のもとへと目をやると、今度はクッションではなく、ライティングデスクに腰を下ろしている澪がいた。頬杖をついて、机に置いたスマホをぼんやりとスクロールしている。
「…………澪、」
「なに」
もう、この時点で、言いようのない嫌悪感があった。
彼女の言葉に、びっしりと巻き付いた棘を感じる。
信じられない以上に。
「…………」
「何なん、なんか言いーや」
しびれを切らしてこちらに向けた目は、あまりにも鋭い光を
「ぁ……ごめんなさい……」
要件も言い訳も押し
いらいらと溜め息を吐きながら、澪はこちらに椅子を回して乱暴に足を組む。無関心から攻撃態勢に移ったことが、怖いくらいに分かってしまった。
「あのさ、そうやってすぐ謝んの
「ぁ、ごめ――あ、」
「そうやってウジウジしてんのも普通に
「っ……」
なんだ、これ。何この地獄。なんでこんなことに。
心臓の辺りが、きゅぅと縛り上げられるように痛んで、途端に息がしづらくなった。耳もぼーっとして、鼻の奥に刺されたような不快感が走る。
「いつまでそこ
「やめ――」
「やめてはこっちやねんけど。そうやってしどろもどろになってんの、聞いてるのが時間の無駄。何回も言わへんかったっけ、」
そして、言った。
すっかり何もできなくなった私に、これでもかとトドメを刺す一言を。
「あたしらはただのセフレ――性欲処理だけの関係やって」
……………。
え。
……セフレ? 性欲、処理?
一瞬、言葉の意味さえ分からなくなってしまった。私は今、何を告げられた?
息が詰まるのを超えて、自分の息が不規則に荒くなっていくのが分かる。口元で空気が
ただの性欲処理だけの関係――それはつまり、欲の溜まった夜に行為に及ぶためだけの間柄で、そのためにしか会わないということだ。仲のいい会話なんて
本当に、何が起きている? いつも通りロードをしただけで、どうしてこんな地獄に行き着いたの?
「え――……」
「は、何」
「……ゎ、私たちって、付き合ってるんじゃ、」
「うーわ、それマジで言ってる?」
早くも、はっきりさせておきたいがために問うたことを後悔した。
「まだそんなつもりやったん? めちゃめちゃ迷惑やねんけど。ちゃんと別れたつもりやってんけど、それってあたしの勘違いやったん? 愛は無くなったけど、せっかく性欲が女に向く女同士やからセフレにしよって、ちゃんと言ったやんな? んで
最高潮に達した怒りが、彼女を乱暴に
何の
「やめ、て――……」
ふ、ふ――と、
まるで悲劇のヒロインでも気取っているかのような、
澪の、喉を無理やり押し通したような荒い溜め息が返って来た。
「もう、いい。ほんまにもういい。
「ぁ、ごめ、」
「うるさいなぁ!!」
「ひっ……」
澪の怒号。私が叫ぶのも珍しいけれど、澪がここまで感情を放出するのも相当珍しい。少なくとも、私は初めて経験した。
「出ていけ。もうセフレも解消。……一生関わってこんといて」
ち、ち、ち、――アナログ時計の音。部屋が違っても、無機質な音は私を追い込む。
本当に、もう、何もできなくなって。
荒い足取りの澪に腕を掴まれ、部屋の外へと無理やり押し出されてしまった。
ばぁん、と、必要を遥かに超える力で玄関の戸を閉められた私は、廊下に座り込んで茫然としていた。茫然としたまま、泣いた。
五階の他の入居者が使う通路だということも気に
――一生関わってこんといて。
似たようなセリフを言われたことあるよなぁ、と、涙の裏でやけに冷静な思考が
あの時は。
死ぬまで、という、枕詞のふりをしたメッセージ――と私が解釈した――があったのだけれど。今回は、言葉の上でも、そもそも言い方でも、そういう希望や抜け道は存在しない。そんなものに
「なんで、こんなことに……」
本当に、ただそれしか言えなかった。いつもどおりログをロードしただけなのに、記憶にない地獄に迷い込んでしまった。現実感がなさ過ぎてかえって現実味を感じるような、常軌を
分からない。私には、理解できない。
――いや。
そう結論付けるには、行程を一段階飛ばしている。
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