10.「ごめんね、澪……」(2/2)
診断書ごと押し
青のフォントで大きく“内用薬”と書かれた
自殺を
背後からの衝撃――を受ける前に。
「ロード!」
ロードしてから澪に邪魔されるまでの間隔は、そろそろ体が覚えてきている。どうせやり直すとはいえ、無駄に痛い思いをするのは回避したい。
例によって澪を押し
診断書と
これは……錠剤の瓶だ。さっきの
睡眠薬――。
これほど、一般的かつ恐ろしい薬はない。鬱症状で眠れなくて購入したのか、あるいは。
現代の睡眠薬は、大量に服薬しても死に至らない作りになっているらしく、これが直接的に澪の命を絶つ刃にはならない。ただ、……実際にこれで死ねるかどうかなんて、全く関係がない。大切なのは、澪がどちらの目的でこれを買ったのか、だ。
「ロード」
違和感を覚えたのはこの引き出しだけで、その探索は終わったのだけれど。
こんな事実をひとつでも見てしまったら、他の引き出しを調べるなという方が無理な話である。悪く言うつもりはないが、澪が私に対して隠し事をするということが明るみに出てしまったのだ。いよいよ、自分の目しか信じられない。
いつものタイミングで澪を押し
今回は、中を探るまでする必要はなかった。どの引き出しもそれほどたくさん入っているわけではなく、ぱっと
次々と開けていく流れで、
「やめてよ
後ろから首根っこを掴まれて、引き出しから離された。
今回掴みかかって来なかったのは、単なる小さなノイズだろう。実際、ロードのたびに私の行動は変わっている。私がどの引き出しから開けて何を見るかによって澪の言動が多少変わるくらいは、別段不思議なことではない。
この時点で、計六回の引き出しの探索。これ以上めぼしいものはない。
デスクから引き離されたままの勢いで、私はベッドに身を投げた。階下の部屋に響くから本来ならタブーだが、今はそんなところに気を配れない。何ならロードすることになるから問題なかった。
「ぅ……」
仰向けに脱力した私の上に、間髪入れず澪が覆いかぶさった。
馬乗りの比喩ではなく、本当に、私の上でうつ伏せになった。さっきまでの攻撃性が記憶に新しくて、今彼女が何をしているのかが分からない。
「……澪、」
「なんでなん!」
私の胸元に顔を
「なんでそんなことするん……! あれだけは紬希に見せたくなかったのに!」
私の脇腹あたりの服をぎゅっと握りしめて、声を震わせながら訴えてくる。息の温かさに
あれだけは――。
あれとは、どれだろう。鬱病の診断書か、抗うつ剤か、睡眠薬か。まぁ、さしずめ鬱病に
それだけは、私に見せたくなかった。……鬱の相談相手に、私は相応しくない。鬱の
「ごめんね、澪……」
「なんやねん……意味分からへん……」
子ども扱いしているようで、振りほどかれるかと思ったけれど。嫌じゃないのか、気力がないのか、無抵抗で私の手を受け
気力の有無の話をするなら――私こそ、力尽きていた。
数秒周期での、五回に及ぶ連続ロード。
引き出しを
人間の活動の負担を請け負うのは、どんな活動であっても最後は脳だ。負担のしわ寄せがそのまま脳の
「ねぇ、澪。ひとつだけ聞いてもいい……?」
物的証拠を集められた今、さらに得られる情報があるとすれば澪の言葉だ。
これほど
「なに……」
澪の返事に言葉を返そうとして、眠気の波に
「私って、どうして……」
さらに襲い来る、眠気の
澪への問いを、私は一生懸命口にしているつもりだったが。もしかすると、
「澪の相談相手に、なれないの、かな――……」
言い切るという、ほんの目の前の課題を終えたことに
答えを聞かなければならないのに、私は意識を保つことができなかった。
「それは――」
最後に、澪の声が聞こえた気がした。
*
※近況ノートとpixivにて、今話の挿絵を投稿しております。
https://www.pixiv.net/artworks/108896654
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