校外にて
僕は下校時間ギリギリに
梅雨前のこの時期の日暮れは遅い。
出ていきなり出会ったのが、赤色灯だけぐるぐる回して走る小さなミニパトだ。
どうやらまだタケ君は見つかっていないらしい。
ここから、大天才にして名探偵の
簡単なところから潰すというか可能性を消去していこう。
まず、先生や警察が走り回っているところにはもうタケ君は居ない。
そこはもう探し尽くしているから。
最後に残った一番ありそうにない可能性が事実だと歴史的にも有名な名探偵も度々言っている。
それに小学生の僕が走り回ったところでミニパトとは言えパトカーに勝てるわけがない。
次にこれは、FBIなどが行うプロファイルになる。
タケ君はどんな人物でどういった思考をしてその目的を得ているのか?。
何がタケ君をそうさせているのか?。
これには、逆に僕のような図書館でよくタケ君が求める本当に<好きなもの>と接している人間がものすごい有利になる。
人というものは一切無駄な行動をしない。
全ての行動には必ず動機が存在する。
ふむふむ。
僕は学校を出ると片側一車線の大きな通りからさっと次の細い道に曲がった。
この道は先に書いたニュータウンがボコボコ乱立する丘の脇を抜ける脇道となっている。
ニュータウンは県が保有する資材育成用山林の上を切り崩し造成され建られた。
緑ヶ丘と呼ばれ、そこに七階建ての団地をわんさか立てたのだ。
ニュータウンの周りは雑木林の斜面となっていて、この道は片面が緑豊かな散歩道となっている。
最近、タケ君は昆虫にハマっている。
僕はその虫の名前まで知っている。
カナブンだ。
普通は子供はカブトムシとかクワガタとかにいくがそれは素人の虫好きだ。
タケ君はもうそこらあたりを超越しちゃったらしい。
虫好きな人にたずねてみたら良い。
概ねものすごいマイナーな虫を偏愛している。こんなに多くのかっこよかったり綺麗な虫が居るのにどうして?と問いたくなるぐらい。
簡単にいえば、シリアルキラーや何かと同じだ。<偏愛><拘り>フェチズムでしかないのだ。
偉そうに能書きを書いたが僕はまだ小学生なので間違っていたとしても平気だ。
ニュータウンに続く緑ヶ丘の斜面の雑木林がこんなに緑が濃いとは思わなかった。
日暮れ時というのもあるが片側にある大木のせいでちょっと薄っすら寒いぐらいだ。
僕はどんどん歩みを進める。
視線は道の進行方向でなく、緑ヶ丘の斜面。
ほどなく、発見した。
雑木林の中にランドセル。
長く打ち捨てられていたものではない。ランドセルの名札を探す。
あった。
<池上武彦>
タケ君は重いから捨てたのだろう。
教科書やノートを捨てたい気持ちは痛いほどわかる。
僕もタケ君と同様緑ヶ丘の斜面の雑木林に分け入っていく。
新緑の季節の後だ大木の間を雑草がものすごい勢いで生えている。
現場100回。これも刑事の鉄則だ。
証拠だけかき集めて会議室で
雑草を手で掻き分けて進む間に手が濡れていることに気付いた。
刀のようにスパッと伸びた雑草のテキリスゲで切ったらしい。
いててて、、、。
タケ君でなく僕が捜索中に二次遭難を起こしそうだ。
手から出血し心が折れかけた、そのとき、野生化し群生するツツジの奥に短パンのゴムからお尻の割れ目まで見えそうなほど小さく丸くしゃがんだタケくんが居た。
「タケ君」
僕は恐る恐る声をかけた。
タケ君は振り返らない。
「うんうん」
タケ君が言っている。
僕はタケ君の正面まで斜面を登り回り込んだ。
僕は正しかった。
そこには、綺麗なつやがかった緑色をしたカナブンが地面に五六匹居た。
タケ君は何もせずにじっとカナブンを見ている。
「うんうん」
タケ君が喋っている。
タケ君はしかめっ面をしていない。
丸まっているタケ君がカナブンの様だ。
「カナブンだね」
僕が言った。
「うんうん」
タケ君が答える。
僕は近くのちょっとした岩に座った。
タケ君はしゃがんだままだ。図鑑を舐めるぐらい近づいて眺めているときより目の輝きあるように思える。
ここなら、すぐに二人で人がいる所に出られる。
暗くなるまで好きなだけタケ君はカナブンを見れば良い。
僕はなかなか落ちない太陽を微笑みながら見つめていた。
小さな大捜査線 美作為朝 @qww
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