第4話 俺の職歴にもヒールを。
看護につれられて整形外科に行った鈴木さんのレントゲン写真には、骨折の形跡すら消えていたらしい。
そんなことを皮切りに、なんだか認知症状の消えた利用者さんたち。介護度も下がり、自分で出来ることが増えた結果―――
「中曽根さーん、うちの施設の閉鎖になっちゃったよー。」
「にゃーんー?」
「自分のことは自分で出来るようになった利用者さんが相次いで退去しちゃって、空室だらけ。とうとう経営成り立たなくなっちゃったんだって。まーた、職探しだー…… 」
「にゃー。」
「本当にコレ、魔法の杖だったんかな……。」
夜勤の勤務が終わったあとに杖を見ると、装着してあった単1電池は真っ黒くなり、錆び付いたように取れなくなっていた。たぶん魔素とかそういうヤツを使い果たしたのだろうか。その後に何回か『ヒール』と言ってみたが、先日転んだ擦り傷も変化がはなかった。壊れかけのラジオも壊れかけのままだった。なにかが治るような様子もない。
フリマサイト「サンデー」にも、あの日以降類似するような品も見つからない。
もとより誰かに言うつもりもなかったが、これでは証拠もなにもしめせない。
「まー、たぶん、偶然なんだろうけど……。治らないものが治るなんて魔法としか言いようがないじゃんね。奇跡で職を失うとか理不尽ー。」
「んにゃー……。」
「酒臭いか? 飲んでなきゃヤってられないっつの。会社都合だからはやめに失業保険貰えるっても安月給のさらに5割くらいやで。おまんま食えねーっての。ああ、そうだった、明日には失業保険のためにハローワーク行かなきゃなぁ。」
「にー……。」
「もー。俺の心と職歴にも『ヒール』!―――って、そんなんで癒えるかあ……! 」
俺はポイっと杖を投げ捨てると、ごろりと万年床に寝転がった。ぶっちゃけ、酒に弱い俺は目を閉じたら即効で夢の中だ。
「にゃーんー?」
だから、中曽根さんが杖をつついた拍子に真っ黒な灰になって崩れて、真夏の首ふり扇風機が灰をばらまいて窓の外に全て消え去るのなんか気がつくわけなかった。
翌日には、寝過ごして慌ててハローワークに向かうから、いつ杖が消えたのかもわからない状態。
ただ、職歴にヒールが効いたのか、ハローワークで前職よりほんの少しだけホワイトに近い職を見つけることが出来たのは、そんな遠くない未来だった。
フリマサイトで購入した魔法の杖、単1電池で発動する。 花澤あああ @waniyukimaru
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