第22話 呪われた者たち(3)





 見世物小屋の関係者に追われた訳ではなかったが、建物を出た後、ヘルトルーデらは待機していたヴィリーの荷馬車に乗り込んだ。


 バルネダールの街から脱出する為だ。

 同乗者が増えた事に特に何か言う事もなく、ヴィリーは荷台に常備してあった毛布を聖女とヴィレミーナに手渡す。

 そして全員が座ったのを目視で確認すると直ぐに御者台に戻り、荷馬車を動かした。


「ヴァルさん、この時間帯に街を出るのを説明するのは少々骨が折れます」

「任せておけ。―――ラディ」

「……はい。死と闇の神ゾルターン。其の力の全てを―――」


 ラディスラフの魔法で難なくバルネダールの街を出て、荷馬車は王都へ向けて疾走する。

 暫く走り続け、陽が昇る気配が夜空に見えてきた時、ヴィリーが荷馬車の速度を徐々に落としていった。

 それが完全に止まる。


「ここまで離れてしまえば、とりあえずは大丈夫でしょう」

「(ありがとう、ヴィリー。しかし王都に向かって君は大丈夫なの?)」

「はい。俺は足手纏いになるでしょうから今回は王都に入らず、殿下達を降ろした後は、バルネダールを避け、迂回してコニングに戻ります」

「(悪いね)」

「いえ。ヘルトルーデが無事であった事を確認できただけでも今回は良かったので」

「(……そうだね)」

「少し早いですが、ここで朝食にしましょう。準備しますので、皆さんは休んでいて下さい」

「(ありがとう。では、言葉に甘えさせて貰うよ。―――ヴィレミーナ、話そうか)」

「じゃあ、私は朝食準備の手伝いかな。ミィちゃん、ラディ、ヴァル、あと聖女様、向こうに行きましょう?」


 荷台に座っていたヘルトルーデは立ち上がって、目が殆ど見えないという聖女の手を取った。

 聖女はその手をギュッと握り、ゆっくりと腰を上げる。


「ありがとうございます」

「嫌いな食べ物はありますか?」

「いえ、何でも食べられます」

「ママ、ミィちゃんもお手伝いしたい!」

「……僕も」

「うん、宜しくね。頼りにしてる」

「玉葱は、」

「入れませんから安心して下さい、ヴァルさん。さあ、俺達は向こうで、まずは火を起こしましょう」


 ヘルトルーデ達は食材と調理器具を持って荷馬車から降り、ローデヴェイクとヴィレミーナはそのまま荷台に残る事となった。




*****




 ヴィリーによって手際良く起こされた焚火の温もりに、今夜の疲れが癒されていくような気がして、ヘルトルーデは小さく息をついた。


 その焚火を囲んで皆で腰を下ろし、火の管理は嘗ての魔王で記憶を保持するという、魔王本体のヴァルデマルが請け負ってくれている。

 ヴァルデマルが横に置かれた枯れ枝を火にくべた。


 枯れ枝はミロスラヴァとラディスラフが周囲から集めてくれて、その役目を終えると、二人は聖女の汚れた手を洗ってあげていた。


 水はヴィリーの持っていた魔石で贅沢に使わせてもらっている。

 ヘルトルーデはというと、ヴィリーから借りたナイフで芋の皮を剥いていた。


「何から何まで本当にありがとう、ヴィリー」

「ああ。まあ、その辺りは気にするなよ? 俺がやりたくてやっているだけだからさ」

「……うん」

「……殿下の側に居なくて良かったのか?」

「二人の話を聞くって事? ローデヴェイクは駄目とは言わなそうだけど、聞いても仕方ないし、聞く権利もないしね。なにより、ヴィレミーナ様に悪いわ。部外者には知られたくないと思うの」

「そうだな。……で、ヘルトルーデは結局、これからどうするつもりなんだ? 殿下が居ない今だから聞くけど」


 芋の皮が剥き終わった。

 それを今度は一口サイズに切っていく。

 ヴィリーは水を張った鍋に人参を投入していた。

 聖女の方に視線を向けると、彼女は手を洗われて気持ち良さそうな表情をしている。

 ヴァルデマルは再び枯れ枝を火の中へと放っていた。


「正直なところ悩んでる。呪いが解けたら離れようとは思っているんだけど、何処に住むとかは、まだ……」

「離れるなら、とことん離れた場所の方がいいと俺は思う。殿下を見ているとな」

「……そうかな」

「ああ」

「……少し前まで、王都に住み込みで働けそうなところを探そうと思っていたの。王城を見ながら旅の思い出に浸るのも有りかなって。あと、女騎士にでもなって王城勤務とか」

「中途半端な事を考えるのはヘルトルーデらしいと言えばらしいけど、それは止めた方がいい。殿下に関係無く、今回の事を知った時の周囲が怖い」

「……そうだよね」


 ヘルトルーデは切った芋を鍋の中に入れた。

 鍋に張った水は既にグツグツの煮え滾っていて、人参や芋が湯の中でクルクルと回る。

 ヴィリーが肉を投入し、それを眺めながらヘルトルーデはナイフを置いた。

 体の奥がザワリとし出したからだ。

 これ以上の手伝いは出来そうにない。


「ヘルトルーデが離れると決意したら言ってくれ。その場合は国を出て拠点を作る」

「……ヴィリー、でも」

「伝手はある。それに鍛冶屋は何処ででも出来る。需要があるからな」

「……うん」


 そこで一旦会話が止まり、それを見計らってか、火に枯れ枝を放り込んでいたヴァルデマルが口を開いた。


「国を出るのも良いが、我の城に来る方が一番いいだろう。誰が来ても此方が許可せねば決して入れぬ。まあ、その場合、ヘルトルーデは人としての暮らしを捨てねばならぬが」


 パチリと火の糧が爆ぜた。

 ヴァルデマルが前屈みになり、木の棒で燃える枯れ枝の位置を直す。

 彼の金色の髪が炎によって赤みがかった。


「ところでヴィリー」

「なんでしょう」

「ローデヴェイクも考えていると思うが、聖女ともう一人の娘を暫く預かってくれぬか。足手纏いだ」

「俺は構いませんよ。空き部屋が有りますし、ヘルトルーデの部屋もそのままです。警備面でも安心して下さい。俺の家は剣を振るう事を生業にしている客らが頻繁に出入りしているので。質の悪い者は親父が門前払いですし」

「それは助かる。―――聖女、それでいいな?」


 突然ヴァルデマルに話を振られた聖女は、ミロスラヴァとラディスラフに汚れた顔を拭いてもらって、ほっこりとした顔をしていた。

 綺麗にされて気持ちが良いのだろう。

 檻で出会った時よりも表情が明るい。


「はい。ありがとうございます」

「俺の家は平民にしては大きいですが、当然ながら、貴族や、ましてやスヴォレミデルの総本山の足元にも及びません。それでも大丈夫ですか」

「聖女と言われたのは今夜が初めてで、私は平民です。母一人、子一人の貧しい家の出ですので」


 聖女が焦点の合わない瞳を下方に向けた。

 彼女の顔を拭き終わったミロスラヴァとラディスラフが、今度は汚れて固まったクリーム色の髪を手に取っている。

 この場で洗おうとしているのかもしれない。水の魔石を毛先に当てていた。


「聖女様は、どうして見世物小屋に?」

「私にもよく分からないんです。……もう三年と半年は経つでしょうか。母が病気で亡くなって、途方に暮れて。でも、近所の人の紹介で、隣町の老夫婦のところへお世話になる事になったんです。母が亡くなり、寂しくはあったのですが、老夫婦は良くしてくれましたし、町の人達も親切で、幸せに暮らしていました。ですが一年程前、親切にしてくれていた町の人が家の前で倒れていたんです。血塗れでした。神聖魔法の多少の心得がありましたから、救おうとして触れて、そこからの記憶があまり……。気づいたらあの見世物小屋に居て、目も殆ど見えなくなっていました」

「……そうですか。聖女と言われたのは今夜が初めてなんですよね?」

「はい」

「理由が分からないですね……」

「ええ。本当に」


 パキリと音がした。そこらに落ちている小枝を踏んだ音だ。

 聞こえた方向にヘルトルーデが視線を向けると、毛布をフード付きの外套のように体に巻いて此方に歩いてくる者がいる。


 ヴィレミーナだ。

 皆で囲む焚火の前まで来ると、彼女は俯き「ご一緒してもいいかしら?」と小さな声で言う。


 それに了承の意を口にしたのはヴィリーだ。

 ヴィリーは調理する手を一旦止めて、立ち上がり、ヴィレミーナを座らせる場所に布を敷いた。


「此処にどうぞ」

「……ありがとう」


 ヴィレミーナがゆっくりとした動作で布の上に座った。


「殿下はまだ荷馬車の中におられるわ。そろそろ人の姿に戻るからと」

「そうですね。陽が昇ります。私ももう直ぐ猫です」

「猫?」

「はい。―――あ」


 陽が顔を出した。

 ザワリとした感覚が連続し、全身に蟲が這うような嫌悪感がヘルトルーデを襲う。

 どうしても慣れない其れに眉根を寄せて耐えて、皆が見ている中、ヘルトルーデは呪いを受けてからの常である猫になった。


 パサリと着ていた衣服が大地に落ちる。

 いつもならローデヴェイクが回収してくれる服を、今回はヴィリーが拾い、折り畳んでくれた。


「……猫」

「(はい、猫です)」


 ヴィレミーナが目の前で起こった事象に、瘤で形が変わってしまった目を見開いていた。

 そして躊躇いがちにヘルトルーデへと腕を伸ばす。

 ヘルトルーデは猫の跳躍で、ヴィレミーナの手の中へと移動した。


「撫でても……いい?」

「(どうぞ。お好きなように)」


 ヴィレミーナの瘤と吹き出物のある手がヘルトルーデの猫の躰を撫でる。

 恐る恐る、震えながらだ。


 彼女の手はまだ酷く汚れたままだが、ヘルトルーデは気にならなかった。

 フサリとした猫の尻尾を動かして、ヴィレミーナの手の甲に触れる。


 ポロリと瘤で輪郭を変えている彼女の目から涙が零れ落ちた。

 ポロポロと零れ続けて、頬を伝い、吹き出物の一部から出る血と滲む。


 ヘルトルーデはヴィレミーナの手の中で、猫の胴体を伸ばし、彼女の頬に顔を寄せた。

 そしてローデヴェイクにもやった事がある、猫が出来る精一杯の慰めと励ましだと思っている行為の一つ、ヴィレミーナの頬をペロペロといった感じで舐める。


 ヴィレミーナが嗚咽を漏らした。


「……あ、ありがとう。ありがとうっ」


 呪いを掛けられる辺りから、筆舌し難い程に辛かったのだと思う。

 どういった経緯で見世物小屋まで辿り着いてしまったのかはヘルトルーデには分からないが、公爵令嬢である彼女には絶望しかなかったはずだ。

 姿が醜く変わり、見世物にされ、先も見えなくて。

 ヴィレミーナがヘルトルーデのモフリとした猫の毛に顔を埋めた。


「殿下が、呪いを解くとおっしゃってくれたわ」

「(はい。私も解呪の為に頑張ろうと思っています。私は剣術の心得が多少なりともあるので、少しでも役に立ってきます)」

「……檻の中で、殿下に厳しいお言葉を頂いたけれど、当然の事だわ。わたくしは嘆いているだけで、何もしなかったもの」

「(それは仕方のない事だと思います。私も獣化した最初の夜、ローデヴェイク……王太子殿下にお会いしなければ、誰も居ない森の中で、ただ泣いていただけだと思いますから)」

「わたくしも頑張るわ。少なくとも前向きにはなるべきだもの」

「(私も解呪に向けて頑張ります)」

「貴女の名前はヘルトルーデであっている?」

「(はい。ヴィレミーナ様)」


 ヴィレミーナがヘルトルーデの猫の毛に埋めていた顔を上げた。

 血と涙が滲んだ顔は痛々しいものだったが、今の彼女に出来る精一杯の微笑みをヘルトルーデに見せてくれる。

 そんなヴィレミーナの手の中にあったヘルトルーデの猫の躰が、彼女の膝の上に優しく乗せられた。


「呪いが解けて、わたくしが公爵令嬢として復帰したら、今度はわたくしが貴女の困った時に手を差し伸べるわ。期待していて?」

「―――それは、ありがたいね」

「殿下」

「(ローデヴェイク)」

「ヘルトルーデ、此方へおいで。あと、ラディ、私の手も洗ってくれる?」

「……うん」

「ミィちゃんは、今度は、お姉ちゃんの手を洗ってあげるね!」

「ありがとう。……お姉ちゃんと呼んでくれるのね」


 聖職者の服に身を包んだローデヴェイクが、猫に変わる前にヘルトルーデが座っていた場所に腰を下ろした。

 ラディスラフが直ぐに側に行き、ローデヴェイクの手を取って水の魔石を翳す。

 ミロスラヴァは聖女の髪をキュッと絞るとヴィレミーナの許へと来たので、ヘルトルーデは一先ずの退避という事で、猫の跳躍でヴァルデマルの膝の上に落ち着いた。

 ヴィリーは鍋の中の料理の仕上げに入っている。


「私は此方においでと言ったよ? ヘルトルーデ」

「(うーん。でも、手を洗うんでしょ? 邪魔になるし)」

「心が狭いな、ローデヴェイク」

「否定はしないけれど、嘗ての魔王であるヴァルに言われたくはないね」

「では言わせるな。―――ところで、聖女とそこの娘だが、ヴィリーに預かってもらうという事で話がついた。お前もそう考えていただろう?」


 ヴァルデマルが自身の膝の上に乗っている、ヘルトルーデの猫の右前足に触れてきた。

 何度か指で猫の毛並みを撫でて、次いで、肉球をモミモミと揉んでくる。

 疑問符を浮かべてヘルトルーデは膝の上から彼を見上げたが、此方の視線を気にする様子は無かった。


「そうだね。王都に連れて行くには危険が有り過ぎる。今の王宮内の状況が分からないし、ヴィレミーナのベイエルスベルヘン公爵家もどうなっているのか」


 カタリと小さな音を立てて、ヴィリーが鍋の縁に杓子しゃくしを立て掛けた。


「出来ましたよ。とりあえず食事にしましょう。皆さん、お腹が空いたでしょうから」


 その言葉にミロスラヴァがいち早く反応した。

 彼女はヴィレミーナの手を洗い終えると、ヴィリーにくっ付くように座る。

 それにヴィリーは表情を柔らかくして、用意してあった椀を手にすると、鍋の中の温かそうな汁物をよそった。


「そういえば、お前に通信具を渡していなかったな。―――ラディ」


 ミロスラヴァとヴィリーを見ていたヴァルデマルが思い出したように言って、ラディスラフに物を収めている空間を出現させた。

 ヴァルデマルは揉んでいたヘルトルーデの猫の肉球から手を離し、真横に現れた其れに手を入れる。

 物音こそしなかったが、ガサゴソといった感じで彼は空間内に手を彷徨わせた。


「確かこの辺りに―――ああ、これだ。それとアレは何処に放り込んだか」

「整頓したらどうなの」

「無限にある空間で整理整頓をする意味があるのか? 人間ではあるまいし。―――あった」


 呆れたように言うローデヴェイクに、鼻で嗤うように返したヴァルデマルが空間内から手を引いた。


 ヴァルデマルが空間から出したのは二種類。

 黒真珠のような小さい玉を三つ、彼が嫌いな玉葱が三十個は入りそうな革袋を一つだ。

 椀に汁物を装うヴィリーに、ヴァルデマルは黒真珠のような玉を見せた。


「これが通信具だ。我と連絡を取りたい時に、これを握って話し掛けろ。三つ渡す。お前のと、聖女とあの娘の分だ」

「ありがとうございます。失くしやすそうな大きさなので、アクセサリーか何かに加工してもいいですか?」

「好きにしろ。それと、これをやる。聖女を引き受けてくれた礼だ」


 ヴァルデマルが革袋をドンと地面に置いた。

 紐を緩めて開け、通信具を放り込むと、革袋の中から石を一つ取り出す。


 魔石だ。それも無色透明。

 なかなかの大きさで、人である時のヘルトルーデの拳くらいある。

 ヴィリーの目が見開いた。


「凄いですね。かなり大きい。透明度といい、最高品質です。天然物ですか?」

「当然だ。これが革袋いっぱいに入っている。くれてやるから自由に使え。鍛冶屋なら、喉から手が出るほど欲しいものだろう?」

「ええ、それはもう! 本当にいいのですか? その革袋一つで、一生を遊んで暮らせる量です」

「魔王城に腐る程ある。ミィとラディが投げ合って遊ぶくらい潤沢にな」


 何とでもないといった様子でヴァルデマルが片眉を上げて、手にしていた魔石を革袋に放った。


「ヴィリー、その魔石の幾つか、全てでもいいけれど、私の光の魔力を注ぎ入れておこうか? 剣に装着して上手く馴染めば聖剣になる可能性があるし、価値が上がって売値が跳ね上がると思うけれど」

「では我らの方は、闇の魔力を注いでやろう。魔王の純粋な闇だ、良い魔剣になる」


 ローデヴェイクとヴァルデマルの善意の言葉に、ヘルトルーデは内心で溜息をついた。

 ヴィリーの今の気持ちが手に取るように分かるからだ。


「あー…ええと、お気持ちは有り難いのですが、その」

「どうしたの?」

「なんだ? 言いたい事があるのならばハッキリ言え」

「(私が言うよ。ヴィリーからは言い難いと思うし)」


 再び内心で溜息をついて、ヘルトルーデはヴァルデマルの手の甲にフワリとした尻尾を乗せた。


「(価値のある無色透明の天然魔石に光の魔力を注がれるのも、闇の魔力を注がれるのも、有難迷惑なのよ。正直に言っちゃうと)」

「……え? どういう事?」

「……なに? 何故だ」

「(需要が無いの。聖剣なんて、名誉や象徴を必要とする王族や、スヴォレミデルの聖騎士くらいしか欲しがらないし、特定の場所に自ら赴かなければ、生ける屍に遭遇する事はほぼほぼ無いでしょ? 魔剣なんてもう論外。人の手に余るもの)」

「…………」

「…………」

「(ヴィリーの家の顧客は王族でも聖騎士でもないから聖剣なんて作っても在庫になっちゃうし、魔剣を欲しがるような荒くれ者達は、ヴィリーのお父さんが門前払いするから、やっぱり在庫になるの)」


 ヴィリーが苦笑いした。

 ミロスラヴァの椀の中身が空になった事に気づいて、彼は追加を装う。

 猫のフワフワした尻尾を動かして、ヘルトルーデはヴァルデマルの手の甲を撫でた。


「(一般的に人気のある属性は火なの。次に水。火の魔法剣は使い勝手がいいし、カッコイイでしょ? 水も氷の魔法剣として需要が高いの。魔獣の素材保持的な意味で。だから折角の魔石に、光の魔力も闇の魔力も注がないでね。無色透明な天然魔石のままの方が凄く有り難いから)」

「火と水に負ける日が来るなんてっ」

「火と水如きが! あのような属性、吐いて捨てるほど存在するではないか!」

「……まあ、論外な闇の魔剣よりマシかな」

「魔剣の良さを知らぬ者に言われたくはない!」

「聖剣はまだ王族や聖騎士に需要があるからね!」

「魔剣だって魔の者に需要があるわ! それに我は闇が本質というだけで、そもそもお前と違って火や水が扱えぬ訳ではない! 一緒にしないでもらおうか!」

「相性が悪すぎて光は使えないくせに!」

「要らぬわ!」


 そこからはもう子供の喧嘩のようになってしまって、ヴィリーは苦笑いをしながらミロスラヴァとラディスラフの食事の世話を、聖女とヴィレミーナは渡された汁物に口を付けながら二人の喧嘩に笑い、ヘルトルーデはそんな彼女達を見て安心して、猫の尻尾をフワリと揺らした。



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