第15話 荷馬車の中で
ガタゴトといった感じで荷馬車がゆっくりと街道を進んでいた。
街道なだけあって悪路という訳ではないから、商品と共に荷台に居ても乗り心地は悪くない。
それよりも問題はローデヴェイクだ。
あれからいつもの聖職者の服を纏った彼は、外套のフードを深く被り、荷台の後方端に座って無言を貫いている。
猫の姿のヘルトルーデはというと、常ならローデヴェイクの膝の上で寛いでの移動だが、今はミロスラヴァの膝の上でクリーム色の毛を撫でられ続けていた。
そんなミロスラヴァも、先程、黒い槍で光の槍を霧散させたラディスラフも、ローデヴェイクが気になるのかチラチラと視線を向けている。
ヴィリーは状況がよく分かっていないだろうに、御者台に座り、荷馬車を動かしていて、ヴァルデマルはというと、彼はラディスラフに開けさせた空間内を、腕を突っ込んでガサゴソと何かを探していた。
「確かこの辺りに放り込んだはずなんだが……」
「(なにを探しているの?)」
「魔石だ。これまであまりにも暇だったからな。魔石の欠片に微量の闇の魔力を注入する訓練をラディにさせていたものが―――ああ、あった。これだ」
そう言いながらヴァルデマルが空間から手を引いてヘルトルーデに見せたのは、透明度の高い薄黒い小さな欠片だ。
「本来、表面上だけでも人当たり良く説明をしなければならない阿呆が今、役目を放棄しているからな。猫が直接ヴィリーとやらと話さねばなるまい?」
「(え? そんな事が出来るの?)」
「ああ。これを、あやつに飲ませればな」
「―――余計な事はしないでくれるかな」
荷馬車に乗ってからずっと無言だったローデヴェイクが突然、あまり機嫌が宜しく無さそうな声を発した。
それにヘルトルーデもミロスラヴァもラディスラフもビクリとしてしまう。
ヴァルデマルが不愉快そうに眉根を寄せた。
「将来、この国の王となる予定の者が説明責任すら果たさず、己の勝手で不機嫌さを撒き散らし、立場の弱い者を威圧する」
「…………」
「素晴らしい性根だ」
「……私にだって感情はある。でも反省はしているよ」
「反省するくらいなら最初からするな。見苦しいだけだ」
「魔王本体である君に言われたくないのだけれど」
「言わせているのはお前だ。―――ヴィリーとやら」
フンとした感じで、ヴァルデマルがヴィリーに向かって魔石の欠片を投げた。
ヴィリーは勿論前方を向いて荷馬車を動かしていたが、呼ばれて振り向き、条件反射で難なく其れを受け取る。
再び前方を向いたヴィリーは、直ぐに手にした物を確認した。
「これは?」
「闇属性の魔力を入れ込んだ魔石だ。注入量としては微量だが、質の良い闇の魔力だから、効果は十分に得られる。そのまま飲み込め」
「……え、でも、闇」
「その量なら問題ない。むしろ恩恵の方が大きいと思うが? この猫と話せるようになるのだからな」
「……その猫はヘルトルーデなのか?」
「本人に聞け」
少しの逡巡の後、ヴィリーが闇の魔石の欠片を口に入れた。
携帯していた水袋を手にして、薬のようにゴクリと喉を鳴らして飲み込む。
その様子をヘルトルーデら荷台に居る全員が見ていると、ヴィリーが恐る恐るといった呈で話し出した。
「ヘルトルーデ?」
「(ヴィリー、私の言葉、分かる?)」
「わ、分かる!」
驚愕の声と共に、ヴィリーが荷馬車を停めた。
そして振り向き、ミロスラヴァの膝の上に居る猫をマジマジと見る。
そんなヴィリーの様子に、ヘルトルーデは猫の耳をペタリと寝せた。
「本当にヘルトルーデなのか?」
「(……うん)」
「なんで」
「(……うん。どこから話せばいいのかな)」
「説明は私がするよ。ごめんね、ヘルトルーデ、ミィちゃん、ラディ。君にも謝る。すまなかった、ヴィリー」
そう言って、深く被っていた外套のフードを外し、気持ちを切り替えるようにローデヴェイクが大きく息を吸った。
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