第39話 引き裂かれた運命
「そんな……そんなのって」
美咲が涙を流して呟くと
「しかも大龍神の奴、あいつの本当の姿だけは思い出せないようにしてるみたいなんだ」
恭介はそう言って小さく微笑んだ。
すると修治はハッとした顔をして
「でも……教授。もしかしてタツさんが誰だか、もう分かってるんじゃ無いんですか?」
そう叫んだ。
美咲が涙を流しながら
「それって……」
と言い掛けると
「それ以上言うな!」
言葉をかき消すように恭介が叫んだ。
「俺は何も思い出せなかったし、タツはあの日に死んだんだ。もう、それで良いじゃないか」
悲しそうに呟く恭介の言葉に、美咲も修治も口を噤んだ。
「どうにもならないの?どうして?どうして私達人間を助けてくれたのに、引き離されなくちゃならないの?」
美咲が叫ぶと
「それが……掟だから……」
風太がそう呟いた。
「掟を破れば、例え大龍神様でも殺されてしまう。オイラ達神は、そうやってお前ら人間を……この世界を守ってるんだ」
風太の言葉に、美咲は泣きながら
「そんなの酷い!風太君は、風太君はそれで良いの!それで本当に納得してるの!」
そう叫ぶと
「美咲!いい加減にしろ!」
修治に頬を叩かれて、美咲は呆然とした顔で修治の顔を見上げた。
「一番辛いのは、誰なのか分からないのかよ……」
美咲は叩かれた頬に手を当てると
「痛い……。修治が、修治が私の顔をぶった!……
分からない!分かりたくないよ!私、明日、帰らない!大龍神に直訴するんだから!」
そう叫んだ美咲に
「藤野君!……もう、良いから。俺達の事はもう良いから……。頼むから……止めてくれ……」
恭介が俯いて目に手を当てて呟いた。
「教授……」
美咲が恭介の姿を見て呟くと
「あら?皆様、お揃いですか?」
場を壊す空の声がした。
慌てて振り向くと、空が座敷童子と一緒に笑顔で立っている。
「空さん!もう、動いて平気なんですか?」
美咲が慌てて言うと、空が小さく微笑む。
「もう、皆様。なんて顔してるんですか!ほら、今晩は最後の晩餐なんですよ」
そう言ってみんなの背中を叩く空に
「空さん!」
と美咲が声を掛けると
「最後なんです。笑ってお別れしましょう」
そう言うと、空はにっこりと微笑んだ。
その笑顔は、美咲に有無を言わさない笑顔だった。空はきっと……自分達がここに紛れ込んでから、こうなる事を覚悟していたのかもしれないと美咲は思った。
風の声 森の唄 青空 @Aozora_6
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