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彼女は私には目もくれず、ノートを手に取り、何かを書き込むと、私に見せた。


そこには、寸分の狂いもなく、整った字体で、


『七つ下がりの雨、だから』


と書き込まれていた。


ーえ、何で筆記?さっき、普通に喋ってた気がするけど…


何か、のっぴきならない事情でもあるのだろうか。


「そういえば、さっきも言ってたよね。七つ下がりの雨って、何なの?」


彼女がまた、ノートに書き込む。


しゃっしゃっしゃっ、と鉛筆の走る音が、静かに木霊する。


『七つ下がりの雨は、午後四時過ぎに降る雨の事。昔から、七つ下がりの雨と中年の浮気は止まない、って言葉があるぐらい、午後四時過ぎに降る雨はすぐには上がらない』


『だから、少なくとも、この雨が止むのは、明日の朝になると思う』


「え、明日の朝?帰れないじゃん…」


雨足は徐々に強まっている。


その中を、三十分程かけて家まで帰るのは、正直想像するだけで億劫だ。

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