後日談

後日談 貞操観念限界ギリギリシェアハウス

 桜舞う春――出会いの季節。


 俺たちは、大学生になった。


 灯花はT大に通う、大学生。

 一方で、俺の進学先は、二年半制のパティシエ専門学校だ。だから、専門学生ってことになるのかな。


 ――そう。俺は、アイスを売るだけでなく、作る方に目覚めたのだ。


 きっかけなんて簡単なもので。

 ただ、俺の作った菓子や料理で、誰かが「美味しい!」って言ってくれるのが嬉しくて。

 灯花や坂巻がそう言ってくれたときの笑顔が忘れられなかったとか、そんなのだ。


 幸い、両親からの慰謝料に近い将来的な援助も潤沢であるわけだし、高校三年間の鬼シフトにより積み上げた実績で、店長にも「安定と信頼のゆっきぃ君」だなんていわれている。「後輩ちゃんの面倒見もいいし、卒業したら正社員にならない?」とか誘われているくらいだし。


 こうなりゃ好きなように、やりたいことをやってやる!

 ――というわけで、今に至る。


 だが、ひとつ想定外だったのは――


 俺は、自宅――『真壁家』の玄関前、隣に佇む坂巻に視線を向けた。


「……まさか、坂巻まで同じ専門学校に進むとは思ってなかったよ」


 問いかけに、坂巻は、高校のときよりも巻き方のやや緩くなったベージュの毛先をくるくる回し、


「だ、だって……あたしも、やってみたら楽しかったんだもん。お菓子作り。それに……真壁もそっち行くっていうし……」


「百パーセント、俺が動機ってわけじゃないんだよな?」


 それはやめてくれ。なんか責任が重すぎる。

 俺と同じ大学に行きたいから、なんて理由で将来決めるなよ。頼むから。


 確認すると、坂巻はちゃんと否定した。


「それは……違うっ! 七割真壁で、三割、あたしがお菓子好きってだけだからっ!」


「微妙に割合多くね?」


「い、いいじゃん!? とにかく、ナカ入ろっ!」


 そう意気込んで、坂巻はを開けた。


 ――はい。そうです。


 今日から坂巻は、『将来的な同居のための予行演習』として、ウチに住むことになったんです。「大学卒業して、いきなり、同士で住むよりマシでしょう?」って。


『あたし……大学生ンなったら、真壁の家住むから』


 聞いたときは、「は??」って思った。


 事実上は再婚しているみたいなもんの、坂巻の親父さんと俺の母親だが、母は未だに仕事場で寝泊まりする方が多いし、二年ちょいかけてゆっくりと築いてきた、坂巻と母さんの仲も案外良好だ。

 今では、坂巻の家が、坂巻にとってすこぶる居心地の悪いものでもない。


 だからこそ、わけがわからなかった。


『部屋に鍵つければいいじゃん。シェアハウスみたいなもんだよ』


 で。俺の家に転がり込もうとする坂巻の意図が。


 俺は未だに白咲さん――灯花と付き合っているし、自分で言うのもナンだが、ラブラブだし。今更NTRれるわけもない。

 鍵をつけただけで同棲がOKになる理由もまったく意味不明だ。


 だが、いつの間にLINEを交換したんだか。

 そして仲良くなったんだか。

 三年という月日は、俺の知らないところでも、人の繋がりを育んでいたようで。


『灯花ちゃんにも許可とってるから。あたしはあくまで、だから』


 とドヤ顔で、坂巻は引っ越し業者を手配した。


 そうして、鍵やらなにやらの軽い改装も済ませて、数日後に大学初日をひかえた今日、引っ越してきたんだよ。


 ウチに入るや否や、坂巻は「わっ」とほんのり頬を染める。


「なんか、この家……真壁の匂いがする……!」


「あたりまえだろ。俺の家だし」


 俺はやや呆れたようなため息を吐きながら、坂巻を二階に案内した。

 ウチは、3LDK+和室な一軒家。


 申し訳程度の和室は四畳半という狭さなので、

 坂巻が住むなら、二階の――元・母の書斎か、元・夫婦の寝室を、新たに坂巻の部屋にするしかない。


 元より両親の私物は(寝室に置き去りのベッド以外)ウチにそこまで残ってないし、坂巻が来るということで、掃除やら軽い片付けやらもあらかた済んでいる。


 寂しいくらいに綺麗な部屋を前にして、坂巻は俺の部屋の右隣を指差した。


「広さ的に、こっちかなぁ。寝室は、ひとりで使うには広すぎる気がする」


「母さんの仕事部屋か。わかった、荷物運ぶよ」


 そんなこんなで、引っ越し業者に寝室に積んでもらっていた坂巻の私物――ダンボールを移動させていると、一階でピンポンが鳴った。


「はぁーい! 坂巻、悪い。先に運べるやつやっといて」


「うん。むしろこっちが、手伝ってもらってありがとうだし」


 そんなこんなで階下におりると、インターホン越しににこにこと、ふたりの女子が手を振っていた。


 俺は、各々トランクを手にしたその姿に、絶句する。


 インターホンの向こうで、右耳にピアスをごりごりつけた女子――荻野が。


「お世話になりまーすっ!」と。


 その隣で、灯花――俺の彼女が。


「両親から、同棲オッケー出ましたぁ!」と。


 にっこにこで、手を振っていた。





※【宣伝です】

 不意に思い立って始めた、『こえけん』コンテスト応募作品、短編です。

 締め切りが31日なので、それまでに一気に投稿、完結させます。


『幼馴染を好きなことが幼馴染にバレて、幼馴染が甘々に開き直った件』

 https://kakuyomu.jp/works/16817139558261806461

 同じラブコメですが、こちらは、本作(アイス屋)よりも『頭からっぽ系エロコメ』になっております。全体的に登場人物のオツムが弱いです。

 勢いだけで書いたので、構成等、色々と不足しているところはお許しください。

 大方できあがっているので、本作の更新には影響ありません、ご安心ください。


 感想を、作品ページのレビュー、+ボタンの★で教えていただけると嬉しいです!


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★★  まぁまぁ

★★★ おもしろかった、続きが気になる など。


 何卒、よろしくお願いいたします!


※ 次回の更新はifです! お楽しみに!

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