番外編if むつ姉と、秋の味覚

※(むつ姉ルート、むつ姉と正式にお付き合いするようになってからのお話です。

 真壁は高一、むつ姉は大学二年生のままの時間軸となります)



 晴れた休日の午後。

 その日、俺とむつ姉はふたりともシフトに入っていなかった。

 というのも、俺とむつ姉が付き合い出したことを耳にした店長が、なにかと気をきかせて出勤日やら休日やらを被らせて、ふたりでいられる時間を確保してくれているのだ。


 むつ姉は大学生だから学校で会うことはできないものの(当たり前だが)、それ以外の時間は『彼女の』むつ姉とかなりの確率で一緒にいられる――端的に言って幸せが過ぎる毎日だ。


 むつ姉は、ウチの親が留守、というか滅多に帰って来ないのをいいことに俺の家に入り浸り、半同棲どころが九割九分九厘同棲生活をしている。

 高校生の分際で彼女と同棲できるなんてコト……ある!?

 ありえるんだなぁ、これが。

 ――そう。彼女が親戚いとこのお姉さんならね。


「あ。ねぇ、ゆっきぃ。こないだ、おばあちゃんが庭で取れたお野菜をたくさん送ってくれたんだけど……」


「ばあちゃんが? やったぁ」


「おばあちゃんの作る野菜って、スーパーで売ってるのとは段違いに美味いからね~。それでね、お母さんが『幸村くんに精のつく料理でも作ってあげたら?』って分けてくれたの。今晩、何食べたい?」


 徒歩数分の、むつ姉の実家から持ってきた大きな袋には、ナスやかぼちゃなど、色とりどりの野菜が入っていた。

 俺はむつ姉と顔をつきあわせて覗き込み、呟く。


「精のつく料理……?」


(って、なんだろう? うなぎとかすっぽんなら知ってるけど、野菜ってそういうイメージないなぁ……)


 すると、むつ姉はハッとしたように顔をあげて――


「えっ!? あっ、いや、そういう意味じゃなくて! 決してやらしい意味じゃなくてねっ!? 『元気がでる料理』って意味でねっ!?」


「ふふっ、わかってるよ。俺もそういう意味で言ったんじゃないし。てゆーかむつ姉、顔真っ赤」


「えええっ……!? そ、そんなことないよぉ! 今日、秋なのに季節外れに暑いよねぇ!? そのせいじゃない?」


 ぱたぱた、と誤魔化すように胸元をあおぐむつ姉……ぜんっぜん誤魔化しきれてないし、そこが可愛いし、むしろエロい。

 だって、V字なニットセーターの襟ぐりをそうやって引っ張ったら、豊満なむつ姉の谷間は見えちゃうし……そんな顔をされたら、やらしい意味で言ったわけじゃないのにやらしい気持ちになってくるからやめて。まだ昼間だよ。


 もう。むつ姉がそんなんだからさ……


「むつ姉……暑いの?」


 思わず、ソファに押し倒してしまった。


「暑いなら……脱ぐ?」


「ふぇっ……ゆっきぃ!? まだお昼っ……てゆーか、お野菜……」


「むつ姉の作ってくれる料理なら、なんでも好き」


 ちゅう、と唇を合わせると、むつ姉は困ったように絆されてソファに沈み、しばらくキスを受け入れた。むつ姉がいい感じにとろとろになってきたところで、俺は唇を離す。


「……天ぷら蕎麦がいいな。茄子とかぼちゃ、人参もあるし。こないだ煮物したときのしいたけとか余ってたと思う。それも揚げちゃおう」


「ふぁ……おそば……?」


 ……どころじゃないって顔だな。

 先日は、登校前に朝キスされてお預けを食らったんだ。これくらいの仕返しはアリなんじゃない?


 俺は、なんでもない風にエコバックを引っさげて、リビングを出ようとした。


「むつ姉は何の天ぷらが好き? 買い物いってくるよ」


 すると、むつ姉は……


「キス……」


「キス天? いいよねぇ。でもキスなんてそこらのスーパーに売ってるのかな?」


 首を傾げると、じれったそうにソファから袖を掴まれて――


「そのキスじゃなくて……。ゆっきぃ、キスして……」


 ああ。この顔……


 こういう、もの欲しそうな顔がたまらない。

 あの日の朝のむつ姉の気持ちが、今、わかったよ。


「キスなら、さっきしたよ」


「違うぅ……そうじゃなくてぇ……」


 むつ姉は、俺をソファに引きずり込もうと腕をぐいぐい引っ張った。

 でも、俺はもう幼い頃とは違うから。そんな非力な力じゃあ、びくともしないんだよ、むつ姉。


「ゆっきぃぃ……私、お夕飯まで待てないぃ……」


 その言葉を待ってましたとばかりに、俺達はソファでイチャついた。

 晴れた秋の日が差し込む静かなリビングに、身を潜めるようにして、ふたり、ソファに沈み込む。


 今日は天気がいいから、カーテンが少し開いているけれど。

 ソファの背に隠れてしまえば見えないからな、問題ない。


「ふぁ、ぁ……ゆっきぃ……好き」


 耳元で聞こえた僅かな囁きが、静かなリビングに反響したのだった。




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