後日談 2話 JD3名男1

 うららかな春の日差しの差し込むリビング。

 真壁家では、美少女JD二名の襲来を受けて、急遽、緊急の家族(仮)会議が行われることとなった。


 俺の向かいに腰掛けるのは、冷や汗まじりに視線を泳がせまくる坂巻。

 隣には、にこにこ天使の彼女、灯花。

 そのさらに向かいに、この状況をどこか楽しんですらいる、にまにまとした荻野が座っている。


 一番に口を開くことを誰もが嫌がるこの状況で、俺は家主として責任をもって、口を開いた。


「……で。部屋割りどーすんの?」


「「へっ??」」


 同時に声を出したのは、坂巻と荻野だ。

 急な来訪と無茶ぶりにも関わらず、「仕方ねーな」の一言で全てを受け入れようとする俺に、さすがに驚いたらしい。


 俺は、ため息をひとつ吐いて、話を進める。


「灯花が、大学生になったら同棲したいって言ってたのは知ってるし、両親に許可とれたらウチに住むってことになってたのも知ってる。予定よりちょっと早い今日……ってゆーか、荻野と一緒に来たのにはびっくりしたけど、いつでもおいでとは言っていたし、灯花がウチに住む分には何も問題ないよ」


「えっっ」


 「そーなん?」みたいな顔をする坂巻を、「正式に決まったら話そうと思ってた」と軽く流し、言いづらいし、どうやって説明しようかなぁと思いあぐねていた問題をひとつクリア。

 人間、ときには思い切りとか勢いってのも大事だよ。

 この数年で、俺も大人になったもんだぜ。


「だが、荻野。お前の話は聞いてない」


 糾弾するように視線を向けると、荻野はわざとらしく、「てへ♡」と舌ピアスをのぞかせる。


「兄貴の家でむつ姉とイチャコラ暮らしてるんじゃなかったのかよ?」


 問いかけると、荻野はわざとらしく後頭部を掻き、「それがぁ……」と話し出す。


「灯花ちゃんが真壁の家住むって聞いて、羨ましくなっちゃって……六美さんと真壁は、また別腹っていうか……」


「……それで来ちゃったの?」


「今日、駅でたまたま鉢合わせて。急いでトランク持ってきた……あははっ! やっぱダメ!?」


 俺は灯花に、「どーして連れて来ちゃったの?」と視線で問いかける。

 灯花は、どこか慌てた様子で、荻野に「涼子ちゃん、一泊だけじゃなかったの!?」なんて、シャツの裾を引っ張っていた。


 ……一泊でも、彼氏の家に女泊めちゃうんだ?


 とか、一瞬考えたけど。

 灯花は俺と荻野の仲を公認しているし、それと同じくらい、灯花自身も荻野と仲がいい。


 まぁ、なにせ俺のいるアイス屋に足繫く通う以上は、必然的に、シフト被ってる荻野とも顔を合わせることになるわけだし。仲がいいのも納得だけどさ。

 連れてきたときは、一種のパジャマパーティー的な気分だったのかもしれないな。


 灯花は高校在学中、大学進学に向けてすごく一生懸命に勉強に励んでいたし、高一の夏――早々に俺と付き合い始めて、自由な時間のほとんどを俺と過ごしていたから、「同じクラスの友達とかとそういうことするの、ちょっと憧れるなぁ」と言っていたのを思い出す。


(高校のときに灯花が叶えられなかったことがあるなら、叶えてあげたいな……)


 「まぁ、一泊だけなら――」と口を開きかけたのを遮って、荻野は、観念したように頭を下げ――いや、デコをテーブルにくっつけて懇願した。


「綾乃ちゃんもいるとかずるい! あたしも住みたい! みんな一緒に屋根の下とか、すんげ~楽しそうじゃん!? お願い! お願いします! お願いします! やだやだ、あたしも住~み~た~い~!!」


「………………」


 こんなド直球のダダ、久しぶりに見たよ。若干引く。


(でも……)


 ……相変わらずだな。荻野は。


 俺は深いため息を吐いて、灯花に尋ねた。


「荻野はじゃない。……いいの? 部屋とか家の事情はともかく、俺は、灯花の意見を聞きたい。判断も任せる」


 すると灯花は、口元に手を当てて真剣に考え始めた。


 もじょもじょと、唇を触って視線を下に、そうして左右に振る。

 いつもの、集中して考えごとをするときの癖だ。


 かれこれ三年近く付き合ってるんだから、わかるよ。

 俺の恋人としての自分と、荻野の友達としての自分を、天秤にかけているんだ。


 しばしの沈黙のあと、灯花はぽつりと、上目遣いで呟く。


「ゆきくんがいいなら……私はいいかなぁって……」


「!」


 歓喜に目で踊る荻野。


「私も一緒に住むわけだし、綾乃ちゃんもいるし。涼子ちゃんも、さすがに手は出さないでしょう?」


 荻野はぴゅ~♪と口笛を吹き、返事をしない。


「もう、涼子ちゃん!? 私、見張ってるからね!? 涼子ちゃんがゆきくんにエッチなことしないよう、絶対絶対、見張ってるからね!?」


 胸ぐらを掴まれてがたがたと揺すられ、荻野は「わかってるって! 妬いたともちゃんも可愛いなぁ!」と笑みを漏らした。

 それには激しく同意する。

 瞳を潤ませながら、顔を赤くして怒る灯花……

 俺の彼女は、今日もくそ可愛いぜ。


 そうして荻野は、宣誓した。


「はい。、真壁に手を出すことはないと、誓います」


「――よろしい」


 俺はそう頷いて、灯花の許可のもと、三人と共に同居生活をスタートさせるのだった。

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