後日談 3話 同棲初夜

「でっ……でっ、でっ! 部屋割りどーすんの!?」


 との坂巻の悲鳴で、しばし休憩することにした緊急家族(仮)会議。

 「ちょっと休憩しようか」と、俺が席を立った瞬間、止めるように縋るように、声があがったんだ。


 どうやら坂巻、見た目はギャルのくせに案外人見知りらしい。急なルームシェアの可能性に、動揺を隠しきれないようだ。


 そうだよなぁ。急に「今日から二段ベッドね」とか言われても困るよなぁ。

 同じく一人っ子で、部屋はひとりで使うのが当たり前な俺は、内心で同情する。


「「……部屋割り……?」」


 荻野と灯花は、きょとんと顔を見合わせた。


 俺はざっくりと、家の間取りと、坂巻が元・書斎を使う予定なこと、住むなら元・夫婦の寝室しか空いていないと説明する。


 当たり前のように、俺は荻野に視線を向けた。


「荻野、和室な」


「へっ!? ――あそこ!?」


 指差されたのは、四畳半あるかないかという、一階隅のスペースだ。

 ――狭い。

 狭いし、襖はあるが、扉と比べると明らかに薄い。

 誰かがリビングに降りてきたらすぐにわかるし、ウチの中では、プライバシーや人権が一番無いスペースにあたる。


 だが。


「無茶言ってきたのはそっちだろ? ダダこねまくりな居候に、そこまでしてやる義理はさすがにないって」


「そんなぁ! 寝室にベッドふたつあるんでしょ!? あたし灯ちゃんと寝るから、そっちがいい!」


 「ね~灯ちゃん!」と抱き着かれた灯花は、はわわ、とパイ揉みに抵抗するだけで、そこまでの嫌悪感は示していない。


(……逆に寝取られないか、心配になってきたな。むむ……)


 よく考えろ。考えろ、俺。


 万一、荻野が夜に、誰かに何かしようとしたとき。俺の隣の部屋にいさせた方が、物音で察知することができるんじゃないのか?

 夜這いするなら一階の和室からあがってくるんだから、どっちも一緒だけど。


 いっそ、灯花は俺と同室にするか?

 広さ的に、ベッドはひとつしか入らない。セミダブルならギリ入るかもだけど、同じベッドなことに変わりはないしなぁ。


 ……どうしよ。隣にいたら、毎晩シちゃうかも。


 すでに何十回とシているが、同じ空間、毎晩同じベッドな生活は初めてだ。

 自分の性欲と灯花の性欲、体力がどれくらいもつかわからない。

 別に俺は、毎晩シたっていいんだけど。そうなると、体力面で灯花に拒否られることもあるかもしれないわけで。

 誘って拒否られる自分の姿を、つい想像してしまった。


『灯花……』

『あ。ゆきくん、今日はダメ。』


(つら……!)


 もの言えぬ悲しみに、背筋がひやりと冷たくなった。

 そんなことになるくらいなら、灯花の気の向いたときに来てもらえるよう、別室がいい気が……


 ……ダメだ。埒が明かねぇ。


「……灯花に任せるよ」


 そう呟くと、荻野に頬ずりされていた灯花は、根負けしたように頷いた。


「もぉ~。しょうがないなぁ、涼子ちゃんは」


「ああん! 灯ちゃん、さっすが天使ぃ!」


 そうして、元・夫婦の寝室に、灯花と荻野が入居することとなった。


  ◇


 そうして、荷物の整理やら模様替えやらをしていると、あっという間に夜になった。


 リビングで「おやすみ」と挨拶をして、各々の部屋で休んでいると、ドアをコンコンと叩く音が聞こえる。

 遠慮がちで愛らしい――多分、灯花だ。


「どうしたの?」


 扉をあけると、ふりふりパジャマに枕を抱えた灯花が立っていた。

 

「ゆきくん、一緒に寝よ?」


 ――くそかわ。


 ……にしても。


(灯花ちゃん、初日から? みんないるのに、結構大胆だよなぁ……)


 とはいえ、断るつもりは毛頭ない。

 念願の彼女との同棲生活だ。遅かれ早かれ、いずれスることにはなるだろうし、「隣に聞こえちゃうかも」なんていう恥は早めに捨てておくに限る。


 『昨夜はお楽しみでしたね?』とか、荻野が言ってきそうだが……

 俺も成長したんだ。


 「だからなんだよ。羨ましいだろ?」


 くらいは言ってやる。


 「もぉ~。アンアン聞こえて眠れなかったんだけどぉ……」


 とか。坂巻が言ったからって、どうということもない。

 家主は俺だぞ。耳栓イヤホンしとけ。


 俺は顔面のデレつきを抑えることなく、灯花を部屋に招き入れた。


「いいよ。一緒に寝よう」


「わぁい!」


 全身で喜びを表現しつつ、パジャマの下にエッチな下着を身につけた灯花がぱたぱたと腕に飛び込んできた。


 ああ。同棲生活……最高かよ。

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